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麻生氏主導の「安倍追悼演説に甘利氏」で清和会vs大宏池会の自民党内抗争がはじまった〜菅義偉氏を外せば麻生氏との対立激化も

自民党の岸田文雄総裁や麻生太郎副総裁らが安倍晋三元首相を追悼する国会演説に甘利明前幹事長(麻生派)を起用する方向で調整を始めたものの、最大派閥・清和会(安倍派)を中心に異論が相次いで見直しを迫られる事態になっている。当初は8月5日に追悼演説を実施する方針だったが、秋の臨時国会へ先送りされる見通しだ。

甘利氏が清和会について「当分集団指導体制を取らざるを得ない。誰一人、現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もない」との考えを示したことを契機に甘利氏起用への反発が広がったが、実際には麻生派、岸田派、谷垣グループを「大宏池会」として再結集させ最大派閥に躍り出ることを目指す麻生氏が「家族葬は麻生氏、国葬は岸田首相、国会追悼は麻生派重鎮の甘利氏」というように安倍氏追悼の担い手を大宏池会で独占しようとしたことに対する清和会の反発が表面化したといえる。安倍亡き自民党内で派閥抗争の火蓋が切って落とされたとみたほうがいいだろう。

甘利氏はもともと旧山崎派の重鎮だったが、山崎拓氏が石原伸晃氏を後継指名したことに反発して飛び出し、麻生派に拾われた。

麻生氏は自らが後ろ盾となる岸田政権が発足した昨年秋、甘利氏が自らと安倍氏の双方に親しいことから二人の橋渡し役として幹事長に起用したが、甘利氏は直後の衆院選で神奈川13区で敗れ(比例復活)、幹事長を辞任していた。

甘利氏を安倍追悼演説に起用する案は、安倍氏亡き今や政界随一のキングメーカーとなった麻生氏(自民党副総裁)が岸田首相と協議して内定したのは間違いない。

元首相の追悼演説には首相経験者または衆院議長経験者がふさわしいという指摘は与野党からあがっていた。そうなると、自民党では麻生元首相や岸田首相、菅義偉前首相、細田博之衆院議長らが候補者となるのだが、麻生氏はいずれも避けたかったのだろう。

麻生氏自身は安倍氏の家族葬で友人として弔辞を読み、ネット上で絶賛されたが、岸田政権発足当初に安倍氏との蜜月関係は終焉し、キングメーカーの座を争う関係になっていた。参院選後の党役員・内閣改造人事で安倍氏の影響力を一層排除し、老舗派閥・宏池会を源流とする麻生派、岸田派、谷垣グループを「大宏池会」として再結集させて清和会をしのぐ野望を抱いているだけに、家族葬に続いて国会での追悼演説まで担うのはさすがに憚られたのではないか。岸田首相も国葬で大役を担うことから国会演説は避けたかったと思われる。(以下の記事参照)

安倍なき日本に増税がやってくる!麻生一強、大宏池会で「憲法より消費税」山本太郎は立ちはだかれるのか?


一方、菅氏は今や麻生氏にとってもっとも警戒するライバルである。その菅氏に安倍追悼演説という舞台を用意し、菅氏が安倍氏を失った清和会と接近するきっかけをつくることもできれば避けたいに違いない。

細田議長は清和会の前会長だけに適任なのだが、参院選前に発覚した番記者へのセクハラ発言問題や参院選後に露見した統一教会との密接な関係が批判を集めるなか、起用しにくい。清和会は甘利氏が指摘するように安倍氏の後継者が固まっておらず(安倍氏は三度目の首相返り咲きの芽を残すためあえて後継者を絞らなかった)、細田氏をのぞいて清和会から誰かひとりを指名するのもまた困難だ。

麻生氏としては自分自身や岸田首相が国会で追悼演説することを避けつつ、麻生派重鎮の甘利氏を起用することで他派閥に重要な役回りを与えることも阻むという狙いがあったのだろう。

清和会内の甘利氏起用への反発は、甘利氏個人にとどまらず、背後で実権を握る麻生氏への不満の裏返しともいえ、大宏池会再興で最大派閥に躍り出ようとする麻生氏に対する現在の最大派閥・清和会の警戒感を映し出しているといっていい。

自民党執行部では甘利氏に代わって立憲民主党の野田佳彦元首相を起用する案が浮かんでいる。甘利氏が頓挫するとしても、菅氏に清和会と手を結ぶきっかけとなりうる重要な役回りを渡すことを避けるため、いっそのこと野党の首相経験者に委ねようというわけだ。

野田案が実現した場合、麻生氏と岸田氏はあえて菅氏を外したという格好になり、双方の緊張関係はいっそう高まることになる。菅氏と完全決裂するのか、融和の接点を残すのか。麻生氏と岸田氏にとっては今後の政権運営を左右する重要な政局判断となりそうだ。

一方、安倍氏を失った清和会はどう転んでも求心力を維持するのは相当に難しい。

清和会は安倍系と福田系の抗争の歴史だ。安倍政権下で安倍系の世耕弘成参院幹事長、下村博文元文科相、萩生田光一経産相、稲田朋美元防衛相、西村康稔元コロナ担当相らが要職を重ねた。安倍系の内部でも後継争いの機運が芽生えていた一方、福田系にも不満がたまっていた。

麻生氏は岸田政権になって福田系の福田達夫氏を自民党総務会長に、松野博一氏を官房長官に抜擢し、清和会の亀裂を煽っていた。こうしたなかで安倍氏が突然不在となり、清和会が混迷を深めるのは間違いない。

そうしたなかで福田氏が自民党と旧統一教会の関係をめぐり「何が問題かよくわからない」と発言し、株を下げた。清和会は旧統一教会とのかかわりが圧倒的に深いだけに、この問題は尾を引きそうだ。

麻生氏は甘利氏起用案で転び、清和会は旧統一教会問題で逆風を受けている。ここで菅氏が国会追悼演説の大役をそつなくこなせば一気に株を上げて存在感を高めることになるだけに、麻生氏としてはやはり立憲の野田氏で落着させたいだろう。麻生氏も野田氏も財務省を権力基盤としている点で重なる。野田氏が引き受ければ立憲と岸田政権に新たな交渉ルートが芽生える可能性もあり、これまた今後の政局に影響が出そうだ。

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