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トルコの仲介で停戦協議が進む最中、ウクライナに戦車を供与して停戦に水を差すバイデンの思惑

米国のバイデン政権がウクライナのゼレンスキー政権へ戦車を供与することを決めたと米紙ニューヨーク・タイムズが4月1日に報じた(日経記事参照)。これまでミサイルや無人機などの武器を供与してきたが、ドンバス地域の戦闘激化に備えて長距離砲撃が可能な戦車を供与することにしたという。

これに先だち、3月29日にはイスタンブールでトルコ政府の仲介のもと、ロシアとウクライナの代表団による4回目の停戦協議が行われ、トルコの外相は「2月28日の交渉開始以来、最も重要な進展が見られた。まず双方の外相が相互理解を深め、その上で大統領同士が会うことも視野に入る」と表明していた(時事通信記事参照)。

ウクライナ側はNATO加盟を断念したうえで、①欧米やトルコなどがウクライナの安全を保証する「新しい仕組み」を構築、②ロシアが2014年に併合したクリミア半島の帰属は二国間の対話で15年以内に解決ーーを提案。ロシア側は首都キエフなどウクライナ北部での作戦を大幅に縮小するとし、融和的な姿勢を見せたという。

停戦協議は外交駆け引きの側面もあり、欧米にはロシアの出方への不信感が根強いとも報じられているが、ロシアの最大の懸念だったウクライナのNATO加盟が流れたとすれば、両国間の大きな障壁は取り除かれたともいえるだろう。ロシア軍が実際にキエフ周辺から撤退したことからみても、双方が隣国トルコの仲介で停戦協議に前向きに臨み、停戦合意への気運が高まってきているとみていい。

いざ停戦となる時、停戦に最も抵抗するのは、ウクライナ国内で白人至上主義を掲げる極右勢力(ネオナチ)の武装組織だ。彼らは欧米が支援した高性能の武器を手にし、ウクライナ政府軍とともにロシア軍との戦闘の最前線に立っている。ゼレンスキー大統領がロシアに譲歩することに強く反発する可能性が高く、停戦合意が実現しても応じる保証はない。彼ら過激派の行動をどう抑えるかが大きな課題となるだろう。

もうひとり、停戦実現に後ろ向きなのは、バイデン米大統領である。

本来、米国をはじめ国際社会がとるべき態度は、トルコの仲介による両国の停戦合意を強く後押しすることだ。ウクライナの最大の後ろ盾である米国が武器支援を中断して停戦実現を後押しする姿勢に転じれば、一気に停戦合意の気運が高まるに違いない。

ところが、バイデンが選択した道はまったく逆だった。このタイミングでウクライナへの武器支援を強化し、長距離砲撃が可能な戦車の供与を決めたというのである。

これは停戦気運の高まりに水を差す行為でしかない。ゼレンスキー政権に対して「一歩も引くな。断固として戦い続けろ」というメッセージを送ったようなものだ。これではロシアとの妥協を許さない極右過激派と同じではないか。ニューヨーク・タイムズにリークして世界に向けて「戦車の供与」を発信し、ゼレンスキー政権が停戦合意を急いで妥協しないように圧力をかけたと受け止められても仕方がない。

バイデンはワルシャワ演説でプーチンを「虐殺者」と呼び、プーチン政権を転覆させる狙いをにじませた。停戦気運に水を差す「戦車の供与」とあわせて考えれば、バイデンは戦争に巻き込まれたウクライナの人々の命を守るための早期停戦を望まず、むしろ戦争を長引かせることでロシアへの経済制裁を強化し、ロシアを経済的に追い込んでプーチン政権を転覆させることを最優先にしていると考えて間違いないだろう。

この戦争の黒幕が誰かがはっきりしてきたのではないか。

私は今回の戦争で、ロシアとウクライナの仲介役をトルコが務めていることに注目している。

今回の戦争は、ロシア軍がウクライナに侵攻して一方的に現状変更を迫ったことで始まった。国連常任理事国として国際秩序を率先して維持する立場にあるロシアが、武力を用いて自ら国際秩序を崩した責任は、極めて重大であると私は思う。

一方、ウクライナは親欧米政権と親露政権が交互に誕生し、欧米vsロシアの国益がぶつかる主戦場と化していた。そのなかでバイデンは副大統領時代からウクライナに全面的に肩入れし、ウクライナのNATO加盟やウクライナへの軍事支援を強く主張してきた。

米国が供与した武器は、ドンバス地域での「ウクライナ政府軍+極右過激派の武装組織vsロシア系の武装組織」の内戦にも使われてきた。さらにバイデンの息子はウクライナのエネルギー企業の取締役として高額報酬を手にし、バイデンとウクライナ政府との癒着は「バイデン疑惑」として米議会や欧米メディアに指摘されてきた。

この文脈からすると、米国はロシアの侵攻を事前に防ぐことができなかったというよりも、むしろロシアの侵攻を挑発したとみることもできる。バイデンはロシア軍の侵攻に対して第三次世界大戦に発展することを避けるため米国は参戦しないと表明する一方、ウクライナに全面的に加担して武器支援を強化し、ウクライナを盾にしてロシア軍を食い止め、さらには経済制裁を強化してプーチン政権を追い込む姿勢を鮮明にしたのである。

国連常任理事国である米国、英国、フランスをはじめとする西側は、今回の戦争を未然に防ぐことができなかったうえ、ウクライナに全面加担した結果、停戦協議の仲介役としての役割も果たせなくなった。

もうひとつの常任理事国である中国は、ロシアともウクライナとも友好関係を築いてきたため、表向きは静観の立場を続けている。ウクライナ側には中国が仲介役を果たすことを期待する声もあるが、一方で、英紙タイムズは「中国はロシアによるウクライナ侵攻直前、ウクライナの軍事機関や核施設に大規模なサイバー攻撃を仕掛けていた」と報じており、中国は水面下でロシアと通じている可能性も否定できない。

以上からいえることは、核兵器を保有する常任理事国であるロシアの暴挙に対して、米国、英国、フランス、ロシア、中国をリーダーとする第二次大戦後の国連中心の国際秩序は、戦争防止の面からも、停戦実現という面からも、機能していないということだ。現在の国連を中心とした安全保障体制は、常任理事国の掟破りに対してまったく無力で、その限界を露呈したといっていい。

それに対してロシアとウクライナの仲介役を担っているのは、地域大国のトルコである。トルコは双方と地理的に近く、ウクライナ戦争が泥沼化すると、難民問題や経済的混乱の影響を大きく受けるだろう。地域の安全保障上の不安定化もトルコにとっては重大な懸念だ。だからこそ、真剣に停戦合意への外交努力を払っているに違いない。

トルコの外交努力が結実してロシアとウクライナの停戦が実現すれば、私は画期的なことだと思う。米国、英国、フランスなどの西側諸国の力を借りず、黒海沿岸の当事者諸国の話し合いで和平が実現したら、米国をはじめとする西側諸国の国際的影響力は低下するのではないか。

その意味で、トルコが主導する停戦合意や今後の和平協議に中国がどう絡んでくるかは注目である。

平和憲法を持ち、第二次大戦の敗戦国として米英仏中露の常任理事国体制から外されている日本は、本来ならばロシアとウクライナの双方と一定の距離を保ち、率先して停戦合意に向けた外交努力を進め、国際社会での影響力を高める好機であった。ところが現実は米国に追従してウクライナに全面加担し、防衛装備品を支援し、ゼレンスキー大統領の国会演説を絶賛し、欧米主導の経済制裁に加わり、ロシアから「宣戦布告」とみなされてしまったのである。外交上の存在感はトルコをはるかに下回っているといっていい。

さらに日本政界や日本世論が「欧米からみたウクライナ戦争」の視点に染まり、欧米のプロパガンダに乗って「ロシア=悪、ウクライナ=正義」の善悪二元論に包まれたのも心配である。

日本のマスコミは「欧米=国際社会」と報じているが、欧米主導の経済制裁に加わったのは、欧米以外では日韓などごくわずかで、中国やインド、インドネシアなどの人口大国をはじめ、東南アジア、中東、アフリカ、中南米のほとんどの国は静観している。人口割合でいえば経済制裁に加わったのは世界の1〜2割だ。

第三世界の台頭は著しい。彼らは欧米ばかりが得をする国際秩序に不満を抱いている。欧州に広がる白人至上主義にも冷ややかな視線を送っている。それを無視して米国に追従するばかりでは、激動する21世紀を生き抜けないだろう。もっとしたたかな外交が必要である。