自民党の最大派閥として20年以上にわたって君臨してきた清和会(安倍派)が解散を決めたとたん、清和会創始者の福田赳夫元首相の孫である福田達夫衆院議員(元総務会長)が「反省の上に新しい集団をつくっていくことが大事だ」と党本部で記者団に述べた。
派閥解散は名ばかりで、結局は新しい派閥に姿かたちを変えて存続していくだけだという印象が広がり、ネット上では福田発言に批判が殺到した。
清和会にはもともと福田系と安倍系がある。福田氏は当選4回の中堅議員だが、福田系本流であり、清和会の次世代ホープと目されてきた。
岸田政権発足当初は総務会長に異例の抜擢をされ、次は重要閣僚への起用も取り沙汰されたが、旧統一教会問題で「何が問題かよくわからない」と発言して批判を浴び、2022年8月の人事で党4役から外れた。
派閥会長の座を争っていた安倍派5人衆(萩生田光一、西村康稔、世耕弘成、松野博一、高木毅の5氏)が裏金事件で全員更迭されて失脚し、安倍派が解散に追い込まれたことで、中堅若手には次世代ホープの福田氏を軸に再結集を目指す動きが確かにある。しかし、当事者の福田氏が早々と「新しい集団」に言及したことは、派閥解散は「偽装」であるという印象を強く与えた。
あまりに間の悪い発言としかいいようがない。旧統一教会問題に続いて、再び「失言」で転んだ格好だ。
実際、自民党は1989年のリクルート事件で派閥解消を打ち出したが、派閥は存続してきた歴史がある。自民党が野党に転落していた1994年には派閥解消が強く打ち出され、清和会は「旧三塚派」、宏池会は「旧宮沢派」という呼称で報道された時期もあった。しかし、自民党が政権復帰した後はじわじわと派閥は復活し、現在に至っている。
総裁の座を選挙で争う以上、総理総裁を目指す実力者が中堅若手のカネや人事や選挙を支援する代わりに総裁選で支持を受ける集団(派閥)を形成することは自然な流れだ。中選挙区時代は自民党内の派閥同士の熾烈な戦いが続いたものの、小選挙区制度が導入された後は、派閥の力は弱かった。それでも総裁選の時期になると派閥の締め付けは強まった。
今回の派閥解散の動きは、第四派閥を率いてきた岸田首相が、第二派閥を率いる麻生太郎副総裁や第三派閥を率いる茂木敏充幹事長にいつまでも主導権を奪われることを打開するため、岸田派が裏金事件で立件されたことを機に派閥解散を打ち出し、派閥解消を旗印に自らの求心力を回復させることを狙ったともいえる。
これにより麻生・茂木・岸田の主流3派体制は崩れ、自民党内の権力闘争は熾烈を極めるが、岸田退陣ー総裁選の過程で派閥が再編され、党内勢力図が塗り替えられることはあっても、派閥そのものが完全消滅することはありえないだろう。
福田発言はそのような永田町の常識をそのまま口にしてしまったに過ぎないが、派閥解消を打ち上げて自民党の統制回復を目指すシナリオに早くも水をさす格好となった。
最大派閥・安倍派の約100人全員が福田氏のもとで再結集するのは難しい。
安倍系の一部は総裁選で右寄りの主張が重なる高市早苗経済安保担当相の支持に回り、高市派結成につながる可能性もある。
5人衆のうち、松野氏や高木氏が政治基盤を回復するのは困難だろう。森喜朗元首相が寵愛した萩生田氏は復権を目指すが、地元選挙区(東京都八王子市)は決して磐石ではない。総裁選出馬に意欲を示していた西村氏も安倍派事務総長として裏金捜査の渦中に身置いたのは痛手だ。世耕氏は参院議員の立場を利用し、参院安倍派のメンバーを束ねて影響力維持を狙うが、当面は表舞台に戻れそうにはない。
安倍派は次の総裁選で四分五裂する可能性が極めて高い。「清和会」の看板は福田氏が預かり、いずれ復活する可能性は残るが、20年以上にわたって自民党内に君臨してきた清和会の威光はすっかり陰ることになる。