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海洋放出の是非を見極めるポイントは「処理水か、汚染水か」「濃度か、総量か」〜非科学的な大本営発表を慣れ流すマスコミ報道にウンザリ

福島第一原発「ALPS処理水」の海洋放出について、科学と政治の双方の視点からフェアに解説しているのが、国際環境NGO「Friends of the Earth(地球の友)」メンバーのFoE Japanが公開している『【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント』だ。

これを読めば全体像がよくわかるが、私なりに特にポイントと思われる部分を紹介したい。

①「処理水」か「汚染水」か

世界史に刻まれる福島第一原発の大事故。2011年の事故発生時から数十年先といわれる廃炉まで、原子炉などを冷やすために使われる「冷却水」には、大量の放射性物質が含まれる。この「冷却水」に原子炉建屋やタービン建屋内に流れ込む地下水や雨水が混ざり合って大量の「汚染水」が日々発生している。

政府・東電はこの「汚染水」を「多核種除去装置(ALPS)」で処理し、原発敷地内に増設したタンクに貯蔵しており、その量は134万m3を超えている。

政府・東電はこの水を「ALPS処理水」と呼び、大手マスコミもほぼ「政府発表」に従って報道している。

しかし、「ALPS処理」は技術的に完璧ではなく、トリチウムは除去できない。さらにメルトダウンした原子炉に直接触れた「冷却水」には多種多様な放射性物質が含まれており、それらを完全に除去することも難しい。

実際にタンクに貯められている水の約7割について、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えて残留していることを東電も認めている。

このため、ALPS処理した後の水も「汚染水」と呼ぶべきだと主張する人は少なくない。

FoE Japanは「処理されているが、放射性物質が残留する水」と呼ぶのが正確だが、長いので「ALPS処理汚染水」または「処理汚染水」と呼ぶと整理している。

②「濃度」か「総量」か

東電は、タンクに貯蔵された「処理汚染水」を再処理してトリチウム以外の放射性物質も基準値以下にし、さらに海水で薄めて海洋放出すると説明しているが、この「二次処理」や「海水による希釈」がどのくらい効果があるかは不透明だ。

東電が、海洋放出する放射性物質の種類と量を公表しているのは、タンクに貯蔵された水全体の3%弱にあたる3つのタンク群についてのみだ。しかも東電が主要核種について全タンクで実施している測定データの数値はタンクごとにバラツキが大きく、3つのタング群が全体の汚染実態を正確に反映しているとは言い難い。

東電はタンクに残留する放射性物質の総量を示していない。二次処理した後に残留するとみられる放射性物質の量も示していない。海水で「濃度」を薄めて海洋放出しても、放出される放射性物質の「総量」はかなり大きくなる恐れがある。どの種類の放射性物質がどのくらい放出されるのかはわからないのが実態なのだ。

いくら海水を混ぜて「濃度」を薄めて海へ放出しても、放射性物質の「総量」が同じならば、中長期的な環境への負荷(汚染)は変わらない。放出開始直後に海水の汚染状況をモニタリングして基準値を下回っても、数十年にわたって連日のように放出を続けるなかで中長期的な安全が担保されると言えるのか。

将来、異常が数値が示されたとしても、もはや海が汚染されてしまったことは取り返しがつかない。

③「世界の原発」と「福島の原発」と違い

政府は世界各地の原発からトリチウムが放出されており、福島第一原発から放出しても問題はないと説明している。

しかし、福島第一原発からの放出が世界各地の原発からの放出と根本的に違うのは、核燃料が溶け落ちたデブリに直接触れた水の放出であり、トリチウム以外にもさまざまな放射性物質を含んでいることだ。

トリチウムの人体や環境への影響についても専門家で意見が分かれており、楽観できない。とくに環境中のトリチウムの量が少しずつ多くなる「累積的影響」については現時点の科学では不明な点が多く、「世界中の原発から出されているからよい」とは言い切れないだろう。

『【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント』はこの他の点でもわかりやすく整理されているので、ぜひ参照にしてほしい。

これらの知識をもとに考えると、やはり岸田政権の海洋放出決定は、国内外の合意形成が不十分なままの見切り発車というほかないだろう。

さらに疑問なのは、マスコミの報道ぶりだ。本来は『【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント』のような記事をマスコミが率先して報道すべきなのだ。

NGOや市民団体が奮闘するのを横目に、マスコミは政府の「大本営発表」を垂れ流し、「汚染水と呼ぶのはおかしい」という論調ばかりが目立つ。彼らは「政府発表」に従って報じるのが「科学的報道」と勘違いし、「政府発表」を批判する主張は「非科学的」「フェイクニュース」と切り捨てている。まさに国家権力の広報機関と化しているのだ。

政府が「非科学的」な姿勢で海洋放出を強行しているのに、マスコミが「政府発表」を「科学的」として世の中に誤った「啓蒙」を繰り返しているーーそんな目を覆いたくなる現象が、今の日本では繰り広げられている。

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