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格差社会を映す花火大会やお祭りの有料化〜全国各地の夏の風物詩は観光立国という国策の道具に変貌した

日本列島の津々浦々で花火大会が大賑わいだ。コロナ規制が撤廃され、本格的な花火大会は4年ぶりとなるところも多く、観光客から地元の人々まで大勢が楽しみにしていたのだろう。

花火大会に伴う事故やトラブルのニュースも相次いだ。東京・板橋の花火大会は売りの「ナイアガラの滝」が飛び火して河川敷に火が広がって中止となり、滋賀・琵琶湖の花火大会では有料席の背後に設置された視界を遮るフェンスをめぐって地元住民が反発し中止を求める事態が報じられている。

一連のニュースに共通するのは、各地の花火大会が「地元の夏の風物詩」から「観光客目当てのビジネス」に変貌したことだ。有料席を設けて高額の料金を支払って見物する客を優先し、無料客は最前線から締め出す。この傾向は花火大会に限らず、ねぶた祭りなど伝統ある祭りにも共通している。限られた無料スペースをめぐる争奪戦は熾烈を極めている。

日本の製造業が国際競争力を失い、円安が進行しても復活せず、日本政府は「新たな国策」として海外から旅行客を呼び込む観光産業に多額の税金を投入して育成している。

コロナ禍で巨額の税金を投じた「GoToトラベル」や「全国旅行支援」は国際的に人の行き来が激減するなかで観光業界を救済する国策そのものだった。コロナ規制を撤廃した後も観光支援は膨れ上がる一方だ。

各地の自治体が国から補助金を得やすい「観光」に横並びで走るのはやむを得ないところもあるし、海外からの観光客が激増するなかで警備や清掃などにかかる巨額の費用を捻出しなければならない事情もわかる。だがやはり「地元の夏の風物詩」が「観光客目当てのビジネス」に変貌することには戸惑いを感じてしまう。

とりわけ高額の有料席を設置し、無料客との間を隔てる「壁」を設置する様子は、日本で急速に進む経済格差を象徴する光景というほかない。

これが加速すると、お祭りや花火大会の数百万円にのぼる「特別有料席」は外国人富裕層で埋め尽くされ、数万〜数十万円の「有料席」には日本人富裕層の姿がちらほらみえ、地元の人々は距離を隔てたところに点在する限られた「無料スポット」から肩をぶつけ合って遠望するという状況が常態化するだろう。いったい誰のための花火大会なのか、お祭りなのか。根本的な再定義を迫られるに違いない。

私は大学時代を京都で過ごし、滋賀・大津の学習塾で講師のアルバイトをしていたこともあって、琵琶湖の花火大会を毎夏、楽しみにしていた。バルブ経済の気配が残る1990年代のはじめのころだ。

当時も大勢の見物客で賑わっていたが、何しろお金はなくても時間は余るほどある学生である。ちょっと早めに繰り出せば湖畔の一等地を難なく確保できた。対岸に花火が次々に打ち上がり、真っ暗な湖面に映る姿に見入ったものだ。

懐かしい湖畔が有料席で仕切られ、その背後に眺望を妨げる巨大フェンスが立ち並ぶ光景をニュースで見て、何とも複雑な気持ちに覆われた。大量のゴミや騒音に対する地元住民の反発も強く、花火大会の中止を求める声も広がっているそうだ。

公的支援のもとに大量の観光客が訪れ花火大会が盛大に終わっても、観光業を除く地元住民たちは何のメリットも感じない。むしろ地元の夏の風物詩が観光ビジネスに奪い取られ、迷惑でしかないという思いはとても理解できる。

1999年に東京へ移り住んだ当初、夏の麻布十番のお祭りを楽しみにしていた。当時は、付近にある各国大使館が郷土料理をふるまう出店を並べ、国際色あふれるお祭りだった。ところが、国策の都心再開発で六本木ヒルズが近くに開業し、麻布十番にも観光客が殺到するようになると、各国大使館は出店をとりやめ、近年は単に大勢の人々でごった返す「どこにでもあるお祭り」に変貌した。地元商店街にとっては「稼ぎ時」なのかもしれないが、地元住民にとっては夜通し騒がしく、夜が明けるとゴミが散乱している迷惑行事でしかなくなった。

全国各地の花火大会やお祭りを舞台に、同じような「ビジネスvs住民」と対立が進んでいるに違いない。夏の恒例行事が地域社会を分断する要因になってしまっているのは残念でならない。

日本の産業の中心が製造業から観光業に変わっても、日本の「産業中心」の政策は変わりはない。経済成長が鈍化し、人口も減少していく。「産業」支援による経済成長よりも、豊かな「暮らし」の支援に政策の重点を移す時代であろう。

政治が「産業よりも暮らし」を優先する目標を明確に掲げれば、各地の花火大会やお祭りのあり方も変化していくのではないかと思う。


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