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上級国民たちが医療崩壊の危機を叫ぶばかりでコロナ専用の臨時巨大病院をつくらない本当の理由

まずは日本女医会理事の青木正美さんが自らのツイートで紹介した動画をご覧いただきたい。コロナウイルス変異株の感染拡大に直面しているタイ当局がバンコクの国際空港内に臨時で開設したコロナ専用病院である。1800床あるという。

青木さんが指摘しているように、このような見通しの良い広い場所に仮設ベットを並べれば、比較的少ない医療・看護スタッフでも患者の容体の急変に気づきやすく、素早く対処できるであろう。

急激な感染拡大に対処するため、コロナ専用の巨大臨時病院を急ピッチで開設して患者を次々に受け入れていくーーそれこそ、患者の受け入れ先がなく「自宅療養」を強いられている間に命を落とすという「医療崩壊」を防ぐための基本的な対策のはずである。

振り返れば、昨年初めに中国・武漢で正体不明の「新型肺炎」が爆発的に広がった時、中国当局が最初に実行したのはコロナ専用の巨大臨時病院の建設だった。ブルドーザーを大量投入した人海戦術による突貫工事で巨大病棟を瞬く間に作り上げたスピード感に度肝を抜かれたものだ。それ以来、多くの国がコロナ専用の巨大臨時病院の建設で「医療崩壊」の危機を防いできた。

ところが、日本ではコロナ専用の巨大臨時病院の新設がほとんど議論の俎上に上がらない。感染者数は欧米より桁違いに少ないのに患者の受け入れ先が見つからないという摩訶不思議な「医療崩壊」が繰り返し発生してきたにもかかわらず、政治家や官僚、公衆衛生学の専門家たちは既存の病院のなかで病床をやりくりするという対策に終始し、この一年半、コロナ専用の巨大臨時病院をつくって病床数自体を大幅に増やすという議論はほとんど出てこなかったのである。

臨時巨大病院をつくってもスタッフが足りないという反論があろう。しかし、巨額の税金を投入して医師や看護師らを破格の待遇でかき集めて全国津々浦々でワクチン接種を進めている現状をみると、医療崩壊の危機にある首都圏や大阪圏にコロナ専用の巨大臨時病院を開設して必要なスタッフを集めることがそれほど困難だったとは思えない。開設場所も、東京五輪の会場である東京湾の埋立地や、大阪万博と会場となる大阪湾の埋立地なら、すぐに見つかるであろう。早い段階で開設に踏み切っていれば「医療崩壊」を防いで多くの命を守れたのではないか。

ところが、この国の為政者や専門家は病床数そのものを拡大する巨大臨時病院の開設に動くことなく、国民に対してただひたすら「このままでは病床が足りなくなる」と訴え、「自粛」と「行動変容」を迫るばかりだったのだ。

これはいったいなぜだろう。

私は当初、病院をはじめとする医療界の利権が原因だと考えた。コロナ専用の巨大臨時病院を開設すると、大なり小なり、既存の病院経営は影響を受けるだろう。大量の医師や看護師が破格の待遇で募集され、人件費の高騰を招く可能性もある。いずれにせよ、コロナ危機を契機に国家主導で新しい医療リソース(資源)を増やすことは、病院経営の競争激化を招く恐れが潜在的にあり、医療界を中心に強い抵抗があるのではないかと考えたのである(医師会が医師増員に強く反対してきたことからもそのような推測は成り立つであろう)。

その分析が大きく外れているとは今でも思っていない。だが、それだけでは釈然としない思いが残った。なぜなら、ここまでコロナ感染が拡大して国民的不安が高まっているにもかかわらず、政治家や官僚ら為政者たちからいまだにコロナ専用の巨大臨時病院を開設する声がまったくあがってこないからである。その背景には病院側以上に為政者側の事情が隠されているのではないかと思ったのだ。

そこで、知り合いの政治家や官僚にそれとなく「コロナ専用の巨大臨時病院をつくったらどうか」と尋ねてみることにした。彼らはほぼ全員が肯定することも否定することもなく言葉を濁したのだった。これは為政者たちが本音を隠すときにみせる態度である。そうした取材を重ねるうちに、私は気づいたのだった。

彼ら政治家や官僚には実際に本人や近親者、同僚らがコロナに感染して高熱にうなされた人も複数いた。その人々は「自宅療養」や「たらい回し」で死の恐怖に怯えることなく、比較的早い段階で病院に入院して安全な治療を受けていたのだ。

そうか、彼らは「医療崩壊」や「医療逼迫」の最中でも高熱にうなされたら放置されることなく入院できるのだ。これこそ上級国民の特権ではないか! 

もしコロナ専用の巨大臨時病院ができたら、そうはいかない。「政治家や官僚はなぜ、巨大臨時病院の大広間に並ぶ仮設ベットに運ばれるのではなく、高級病院の個室で手厚い治療を受けるのか」という批判が沸騰するのは目に見えている。彼ら上級国民が自らの特権を安心して享受するためには(つまり、巨大臨時病院に並ぶ仮設ベッドに運ばれて一般国民と同列に扱われないようにするためには)コロナ専用の巨大臨時病院はあってはならないのだ。

一般国民が医療崩壊に際して自宅療養を迫られ、あるいは受け入れ先が見つかるまで死の恐怖と向き合いながらたらい回しにされる背後で、政治家や官僚ら為政者は特別待遇を受ける。コロナ危機は「不公正・不平等な階級格差」をさらけだす。

為政者たちの特権を許してはいけない。私たちはいま、コロナ危機を通じて民主主義を大きく進化させる時を迎えているのだと思う。

こうした見方に異論がある政治家や官僚はぜひ反論を寄せてほしい。いやそうではないというのなら、早急にコロナ専用の巨大臨時病院の開設に動き出し、一般国民の生命と健康を守る責務を果たしてほしい。

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