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松井大阪市長、維新の未来を早々に見切る?頼みの菅前総理は失脚し、岸田政権にパイプなし〜初の代表選後はイバラの道

日本維新の会が松井一郎代表の後継を決める初の代表選を行っている。松井氏から後継指名された馬場伸幸共同代表(57)に加え、足立康史衆院議員(56)と梅村みずほ参院議員(43)の計3人が出馬。8月27日に投開票される。

維新は今夏の参院選で立憲民主党を倒して野党第一党をめざす方針を明確に掲げた。比例区では立憲を超える議席を獲得して「野党第一党」に躍り出たが、東京、愛知、京都など地元・大阪を除く選挙区では競り負けた。全体としては自民党の一人勝ちを許す結果となり、松井代表は「力不足」「敗北」と総括して政界を引退する意向を表明した。

松井代表は58歳。政治家としてはあまりに早い引退である。理由は諸説あるが、橋下徹氏とともに維新を旗揚げした松井氏本人が維新の伸び悩みを誰よりも実感し、大阪の地域政党から全国政党へ脱皮する難しさを痛感して将来展望が描けなくなったことが最大の理由ではないかと私は考えている。

自民党府議だった松井氏が自民党の菅義偉選対副委員長と連携して橋下氏を大阪府知事選に担ぎ出したのは、自民党政権が行き詰まる2008年だった。民主党が翌年の衆院選で政権を奪取した後、松井氏は橋下氏と地域政党・大阪維新の会を旗揚げして幹事長に就任。民主党政権が内紛で迷走した後、自民党が政権復帰した2012年衆院選では国政政党・日本維新の会を結成し、橋下氏と二人三脚で党勢拡大を進めてきた。

松井氏の権力の源泉は橋下氏が持つ大衆人気と菅氏が持つ国家権力だった。橋下氏が政界引退した後、維新は度重なるスキャンダルなどで党勢が陰るものの、松井氏は安倍政権の官房長官として権勢を誇った菅氏を後ろ盾に維新を民主党(民政党、立憲民主党を含む)に対抗する第三極として維持し、吉村洋文大阪府知事という後継者も現れた。自前の派閥を持たず党内基盤の弱い菅氏にとっても維新は党外から政局を動かす強力なカードであり、野党分断工作の要として重宝してきたのである。

しかし、菅氏が昨秋の衆院選前に首相から引きずり下ろされ、岸田政権で非主流派に転落すると、松井氏は権力中枢へのパイプを失った。維新の車の両輪は、地元・大阪での圧倒的な強さと、菅氏という権力中枢へのパイプだった。そのひとつを失ったことで、松井氏は今後の政党運営の道筋を描けなくなったのではないか。

吉村人気は一時高まったが、大阪でのコロナ失政によって失速感もある。いずれにしても維新結成当初の橋下氏の勢いほどの破壊力はない。

岸田文雄首相やキングメーカーの麻生太郎副総裁は菅氏とそりが合わず、菅氏に近い維新も煙たがっている。むしろ立憲民主党や国民民主党に影響力を持つ連合と連携を深め、連合を通じて野党分断工作を進める構えだ。岸田首相や麻生氏にとって、菅氏が活用してきた「維新」の役回りを代替するのが「連合」であり、維新はもはや用無しといっていい。

岸田政権は昨年の衆院選に続いて今夏の参院選に圧勝した。しばらく国政選挙はなく、長期政権の様相を見せ始めている。最大派閥・安倍派が安倍氏暗殺と統一教会問題で凋落する一方、麻生派、岸田派、谷垣グループの合流による「大宏池会」再興をめざす岸田ー麻生体制の権力基盤は強化されている。菅氏の復権は見通せず、維新が国政で影響力を取り戻すのは難しそうだ。

松井氏の早すぎる政界引退は、ある意味で彼の「政局の見極めの早さ」を映し出しているといえるかもしれない。

大阪維新の会の結成から手を携えてきた堺市議出身の馬場氏を後継指名したのは、国会議員になることなく大阪の知事・市長として地元を重視してきた松井氏にとっては自然の流れだし、全国政党への脱皮よりも大阪の地域政党として支持基盤を維持する「守りの選択」といっていいだろう。

維新初の代表選は、国会議員や地方議員ら約600人の特別党員と、2020年から年2000円の党費を払う一般党員約2万人に同じように「1人1票」を付与する。国会議員票を重視した自民党や立憲とは違って、一般党員を極めて重視した制度である(ちなみにれいわ新選組は党費を払っていない「れいわフレンド」にも投票権を付与する)。

維新は都道府県別の一般党員数を公表していないが、大阪は全体の半数にのぼるとみられ、大阪が主戦場になるのは間違いない。一般党員名簿は各候補には提供されず、長く党執行部をになってきた馬場氏に挑む足立氏と梅村氏からは「どうやって党員に支持を訴えるのか」という不満も漏れている。松井代表の支持を前面に受ける馬場氏優位で進むだろう。

馬場氏が当選すれば、松井氏は一定の影響力を残しつつ、党運営と国政は馬場氏、府政は吉村知事が主導する二本立てになっていくとみられる。当面は来春の統一地方選で予定される大阪府知事選、大阪市長選(とくに松井氏が引退する後の大阪市長選は激戦になる可能性が高い)を乗り切ることが重要課題となる。馬場氏にカリスマ性はなく、国政での存在感は埋没していく可能性が高いだろう。

岸田政権が維新と距離を置くなかで、維新が期待するのは、安倍氏の悲願だった憲法改正が政権の最重要テーマに据えられることだった。改憲発議には衆参両院で3分の2以上の賛成が必要で、自公両党だけでは足りない。岸田政権が改憲発議を最優先にするのなら維新に協力を求めなければならず、維新の立場は強まり、改憲以外でも発言力を増すことができるからだ。

しかし、岸田首相は改憲発議に全力をあげるそぶりをみせない。むしろコロナ対策で財政の収支均衡が大きく崩れたことを踏まえ、財政健全化をめざした消費税増税を最優先課題に据えるだろう。維新よりはむしろ野党第一党に踏みとどまった立憲民主党を巻き込んで、与野党合意のもとで消費税増税を進める道筋を描く可能性が高そうだ(民主党政権末期の2012年に自公民3党合意で消費税増税を進めた先例がある)。

そうなると、維新の立場は立憲より後回しにされ、維新は埋没していく恐れがある。自公与党と立憲(国民民主党も加わる可能性)が連合を仲介に税制論議を進める展開になれば、維新はそれに加えてもらうように歩み寄るか、他の野党(れいわ新選組や共産党)とともに反対に回るしかなく、難しい選択を迫られそうだ。

岸田政権の長期化は維新にとっては大逆風といっていい。初の代表戦後の政党運営はイバラの道である。

維新の失速で一息ついたのは、参院選で惨敗した立憲民主党だ。泉健太代表は何食わぬ顔で居座り、重鎮の岡田克也元外相を幹事長に起用して党内の不満を抑え込む構えだ。

だが、岡田氏は旧統一教会関係団体の取材を3回も受けていたことが発覚し、野党支持層からは早くも落胆の声が上がっている。党内を固めることばかりの泉代表の内向き姿勢は「立憲離れ」を加速させ、党勢はますます陰りそうだ。

さらに民主党政権の大幹部として消費税増税を進めた緊縮派の岡田氏が党運営の主導権を握れば「岸田政権と消費増税で合意」の道筋はますます現実味を帯びてくる。

維新も立憲も混迷を深める野党。自民党はそれを横目に安心して党内闘争に明け暮れている。日本の政治を再生するには、自民党と互角に対抗できる野党第一党を作り出すことが急務なのだが、野党再編を引き起こすエネルギーが野党には欠乏しているのが現状だ。

野党全体の現況と課題については以下のユーチューブ動画で解説した。ぜひご覧いただきたい。

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