政治を斬る!

泉房穂はどこで踏み外したのか? 斎藤知事「個人攻撃」をお詫び、明石市の後継市長も「人を見る目がなかった」とお詫び、「テレビの限界とSNSの影響力の大きさ」痛感…衆院選兵庫9区と兵庫県知事選に出馬しなかった代償は大きかった

政治家は旬を逃すと一気に勢いを失う。明石市長を退任した後、国政進出への期待が高まった泉房穂氏の最近の失速を目の当たりにして残念でならない。

このところ、テレビにコメンテーターとして出演することを最重視する姿勢をみせていた。テレビ出演が難しくなるため、特定政党や特性候補の支持表明は控えているとSNSで弁明していた。

地元・明石市の宿敵である西村康稔氏に裏金問題の大逆風が吹きつけた10月の総選挙や、斎藤元彦知事がパワハラ疑惑で失職に追い込まれたことに伴う11月の兵庫県知事選は、泉氏にとって政界復帰の絶好のチャンスだった。実際、泉氏の出馬を求める声は高まっていた。

ところが、いずれも出馬も見送ったため、政治家としての泉待望論はすっかりしぼんでいた。

テレビでパワハラ疑惑を批判した斎藤知事が出直し知事選で大逆転勝利を収めると、泉氏は斎藤知事に謝罪し、「テレビの限界とSNSの影響力の大きさを痛感させられた」と吐露。さらには昨年の明石市長選で泉氏が後継者として擁立し当選させた現市長を「人を見る目がなかった」と酷評し、これまた謝罪したのである。

泉ファンとしては、ちょっと目を覆いたくなるような迷走ぶりだ。

泉氏が当選させた現在の明石市長は10月の総選挙で、兵庫9区(明石市と淡路島)から出馬した西村氏を支持する立場を鮮明にして応援演説を行い、投開票日夜には西村陣営に駆けつけて当選確実の万歳に加わった。ネット上では激しい批判が広がっていた。

泉氏は総選挙も兵庫県知事選も、テレビ出演に影響が出るとして、どの候補も応援しない基本的立場を貫いた。その結果、後継市長は泉氏のもとを去って宿敵・西村氏へ歩み寄った。斎藤氏に敗れたリベラル派の稲村和美氏の支持層には泉氏への落胆が広がったのは想像に難くない。

泉氏の煮えきれない姿勢にネット上で批判が広がった。それら批判に誠実に応えたつもりなのだろうが、ここまであけすけに謝罪されると、泉氏を信じて明石市長選で投票した人は裏切られた気分になるし、兵庫県知事選で稲村氏の投票した人も拍子抜けしたことだろう。

やはりテレビ出演を最優先して政治的中立の立場をとろうとしたことが「泉離れ」を加速させたといえるのではないだろうか。

これから泉氏が何を言っても「選挙が終わればまた変わるかもしれない」と疑われたら、政治家としては致命傷となる。何よりこれまで泉氏を強く支持してきた人々を落胆させれば、政治家としての基盤が失われることになる。

オールドメディアのテレビへの出演を最優先し、政治家としての言動やSNSでの発信を控えた結果、せっかく高まった泉待望論が雲散霧消してしまったというほかない。

テレビに叩かれつつ、知事選に再び出馬してSNS発信で逆転勝利した斎藤氏とは正反対の道を進んだ格好だ。

泉氏は市長退任後、自公候補に挑む無所属系候補を応援して連戦連勝し、株を上げた。

私は、泉氏の市長退任にあわせて共著『政治はケンカだ!明石市長の12年』(講談社)を出版し、泉氏が明石市長を退任した後に国政を動かすことに意欲を持っていると感じていた。

それだけにホリプロと契約してテレビ出演を最優先させた時にはやや違和感を抱いた。さらにテレビ出演のために選挙での応援を取りやめたため、政界に復帰するつもりはなく、テレビの世界で生きていきたいのかもしれない感じていた。(参照:鮫島タイムス『泉房穂「ホリプロ専属契約」の真意を読み解く〜来年夏の衆参同日選挙に照準をあわせてテレビに出まくる前代未聞の政権獲り戦略か』

それでも西村氏が裏金問題で批判を浴び、斎藤氏がパワハラ疑惑で失職に追い込まれたことで、泉氏には千載一遇のチャンスが舞い込んでいた。もしかしたら泉氏が西村氏や斎藤氏の対抗馬として出馬するのではないか、そこで当選すれば政界の主役に躍り出るのではないかと一抹の期待を抱いていた。

だが、10月の総選挙と11月の兵庫県知事選で自らが出馬しないだけではなく、テレビ出演を最優先してどの候補も応援しない立場を示したことで、「やはり政界復帰するつもりはないのか」との見方を強めていた。

泉氏は政治家として期待を集めていたのであって、テレビコメンテーターとして期待を集めていたのではない。これでは人気も凋落するだろうと思っていたら、案の定、SNSでも最近は伸び悩んでおり、気になっていた。

本人のもとへも「政治家として立ち上がるべきだ」との声は多数寄せられているのだろう。泉氏はSNSで政界復帰の可能性をほのめかしたが、期待が失望に変わった後、かつての待望論を取り戻すのは容易ではない。具体的な「行動」に踏み出さなければ、「言葉」だけで待望論を再燃させるのはもはや困難であろう。

これまで数多くの政治家をみてきたが、待望論がわきあがった時に一歩踏み込まないと、瞬く間に失望を買って失速する。時流をつかみ損ねると、二度と流れは戻ってこないものである。

泉氏は逆境の時にこそ強さを発揮するタイプの政治家だ。持ち前の突破力でどう巻き返していくのか、注視していきたい。

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