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野党戦線崩壊の象徴・参院香川選挙区「与党の補完勢力」vs「オールド野党」の戦い

私の故郷・香川県は今夏の参院選で野党共闘の崩壊を象徴する選挙区になってしまいそうだ。

立憲民主党の小川淳也政調会長(衆院香川1区)は3月28日、香川県庁で記者会見し、参院選香川選挙区(改選数1)に元・土庄町議の茂木邦夫氏(35)の擁立を発表した。茂木氏は群馬県出身で、昨年12月の土庄町長選に出馬して落選。国政選挙への挑戦は初めてだ。

小川氏は「国民民主党は与党の補完勢力になっている。私どもが選択肢を用意せざるを得ない」と強調した。新年度予算案に賛成して与党入りへ突き進む国民民主党との決別宣言とも受け取れる発言である。

国民民主党の玉木雄一郎代表(衆院香川2区)は1時間半後、同じ香川県庁で記者会見し、元・特許庁職員で弁理士の三谷祥子氏(54)の擁立を発表した。三谷氏は高松市出身で現在は弁理士事務所の代表を務めている。こちらも国政選挙には初めての挑戦だ。

玉木氏は「オールド野党ではない新しい野党の在り方を世に問う選挙にしていきたい」と強調した。立憲民主党を「オールド野党」と位置づけて対抗心をあらわにしたのである。

ご存知の読者も多いだろうが、私は小川氏と香川県立高松高校の同級生である。一方、玉木氏は高松高校の二つ上の先輩で、私の姉と同学年だった。初当選以来、どちらとも折に触れて意見交換してきた。

キャリア官僚から民主党の国会議員に転じた同郷の二人を政治記者として20年近く眺めてきたが、正直にいうと、二人は最初からそりがあわなかった。

そもそもの性格や政治感覚の違いに加え、小川氏は総務省、玉木氏は財務省というライバル官庁出身であること、年上の玉木氏のほうが初当選が遅かったこと、玉木氏は小選挙区で当選を続ける一方で小川氏は比例復活を重ねてきたことなどが、二人の力関係を安定させず、ぎくしゃくさせてきた要因であろう。

それでも二人は力をあわせて自民党に対抗してきた。

小選挙区が3つしかない小さな香川県で、野党同士がいがみあっていたら勝負にならない。お互いの政治感覚の違いに目を塞いで連携する様子はまさに「呉越同舟」だった。昨年の衆院選で二人とも小選挙区で勝利し、3選挙区のうち2つを自民党から奪うに至ったのは、保守王国・香川で野党勢力を拡大させるという大義のもとで二人が連携を重ねてきた成果といえるだろう。

その二人の共闘関係がついに決壊した。

小川氏は政府提出の当初予算案への賛成は事実上の与党入りであり看過できないと判断したのだろうし、玉木氏は低迷する立憲民主党と歩調をあわせても政権交代はいつまでも実現しないと見限ったということであろう。

日本新党→さきがけ→民主党で政治信条に違いを超えて連携してきた前原誠司氏と枝野幸男氏が2017年の希望の党騒動で袂を分かったように、玉木氏と小川氏の関係修復も非常に困難だと思われる。

自民党は香川選挙区に現職の礒崎仁彦氏(64)を擁立する。香川では野党共闘でも自民党に勝つのは容易ではない。しかも相手は現職。常識的にみて立憲民主党も国民民主党も勝ち目は薄い。

さらに日本維新の会は昨年の衆院選香川1区に出馬した町川順子氏(62)を擁立する方針だ。町川氏は玉木氏の元秘書で、衆院選出馬の際は小川氏から出馬を見合わせるように説得されたことで知られる。再び因縁めいた出馬である。

共産党も同県さぬき市出身で県常任委員の新人・石田真優氏(40)を擁立する方針だ。

共産党は昨年の衆院選で、小川氏の香川1区にも玉木氏の香川2区にも候補者擁立を見送り、香川3区に候補者を擁立した。立憲と国民は香川3区への候補者擁立を見送り「野党共闘」が実現したのである。

しかし今回の参院選は立憲と国民が双方譲らず候補者を擁立する以上、自民現職に勝てそうにない。共産党が候補者擁立を見送るメリットは少なく、むしろ比例票を掘り起こすためにも候補者を擁立することを優先したといえるだろう。

同じことは、立憲、国民、維新にもあてはまる。どの党も非自民が分裂しては自民現職に勝てる可能性はほとんどないことを承知のうえで、比例票を掘り起こすために香川選挙区に候補者を擁立するのである。

香川選挙区が激戦にならないのなら、おそらく香川県内の立憲、国民、維新、共産の各党の選挙区票と比例票は似たような数字になるだろう。自民党と戦うというよりは、自民党に次ぐ票をどこが集めるのかという「野党間の競争」にしのぎを削る展開が予想される。

さらにいえば、香川県内で立憲と国民のどちらが比例票で上回るかが、「立憲・小川政調会長vs国民・玉木代表」のメンツをかけた戦いとなるのだ。

メンツというとくだらなく感じるかもしれないが、政治の世界においてメンツは極めて重要だ。おそらくこの戦いは、小川氏と玉木氏が今後の香川県政界でどちらが大きな影響力を握るのか、双方の政治基盤を左右することになるだろう。

さらには、もし地元・香川で惨敗すれば、それぞれの党内基盤は大きく揺らぐに違いない。だから双方は地元決戦で一歩も引けない。地元で「呉越同舟」を解消する政治的リスクは極めて大きいのである。

以上はローカル目線の政治解説だが、一歩引いて全国目線で眺めると、野党幹部の地元で野党共闘が崩壊し、内向きの競争を繰り広げている様子をみると、参院選全体で野党が勝利することはとても難しいという暗澹たる気持ちになる。

一人区を野党共闘で勝利することよりも、立憲、国民、共産、れいわなどの各党が比例票を掘り起こすために候補者をできるだけ擁立するーー香川選挙区と似たり寄ったりのことが、これからあちこちで起きるだろう。

すべては野党第一党の低迷がもたらす結果である。野党第一党に勢いがあり、次の衆院選で政権交代のリアリズムが高まっているのなら、他の野党は頼まれなくても野党第一党に擦り寄ってくる。

民主党が政権交代を実現させた2009年衆院選はそうだった。民主党は2007年参院選で圧勝して衆参ねじれ国会を実現させ、自公政権を揺さぶった。2009年衆院選は国民新党・社民党と共闘したが、共産党は政権交代を見越して率先して選挙区の候補者をおろしたのである。民主党の勢いがあったからこそだ。

今回の参院選。野党の戦線崩壊の最大の原因は、野党第一党の立憲民主党の低迷にある。政権交代のリアリズムが高まらない限り、野党共闘への求心力が高まることは難しい。参院選後の野党再編は避けられないのではないか。