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高市内閣「1月解散」の現実味──4つの壁をどう突破するのか

積極財政を掲げてロケットスタートを切った高市内閣が、総額21兆円もの大型経済対策を打ち出した。1月解散をにらんだ政治的な「勝負手」であることは間違いない。

しかし本当に解散に踏み切れるのかと問われれば、答えは簡単ではない。むしろ、高市政権の前には「4つの大きな壁」が立ちはだかっている。

以下、その全体像を整理したい。


■ 第一の壁:大型経済対策と景気の行方

最初の壁は、今回の大型経済対策そのものだ。

財務省は当初17兆円規模の原案を提示したが、高市総理は「しょぼすぎる」と突き返し、4兆円超の積み増しを決断した。積極財政派にとっては「最低限の規模」だが、緊縮派は「財政悪化懸念で円安と物価高が進む」と反論する。

高市総理は「緊縮で国力を衰退させるのではなく、積極財政で国力を強める」と明言し、必要なら国債発行にも踏み込む姿勢を示した。補正予算案は今国会での提出・年内成立を目指すが、国会は少数与党。野党協力なしでは成立しない構造だ。ただし否決されれば高市総理は“解散の大義”を得るため、野党も反対しづらい。

問題は、この経済対策が本当に物価高を抑え、景気を押し上げるかだ。目玉はガソリン税の暫定税率廃止だが、補助金や商品券など従来型の政策が並び、消費税減税や一律現金給付は見送られた。

土壇場で盛り込んだ子ども1人2万円の給付も限定的で、ネット上では「石破政権と何が違うのか」という落胆が広がりつつある。不満が噴出し、期待がしぼめば、解散どころの政治環境ではなくなる。


■ 第二の壁:高市発言が火種の「日中対立」

第二の壁は、日中関係の悪化である。

中国は対抗措置の第一弾として、日本への渡航自粛を発表し、団体ツアーはキャンセルが続出。訪日客の23%を占める中国人観光客が止まれば、インバウンドは大きな痛手を負う。

さらに中国は第二弾として水産物の輸入を事実上停止した。第三弾・第四弾の可能性も否定しておらず、レアアース禁輸に踏み切れば日本経済への衝撃は計り知れない。

こうした「次に何が来るかわからない」不透明感それ自体が、経済にとってはマイナスである。中国関連銘柄は軒並み下落し、経済界には悲鳴が漏れ始めている。株価急落は支持率低下と直結し、政権にとって致命傷になりうる。

しかも今回の対立は、高市総理自身の台湾有事発言が引き金だ。双方が一歩も引かない構図のなかで、数年単位の対立に発展する見通しすらある。時間が経てば経つほど経済への影響が深刻になり、解散に踏み切れる環境は整わなくなる。

むしろ、高市総理が「悪化が顕在化する前に」強硬姿勢を掲げ、先手必勝で解散に動く可能性もある。


■ 第三の壁:定数削減という「解散封じ」

第三の壁は、自民党と維新が合意した「45議席以上の定数削減」だ。

今国会に削減法案を提出し成立を目指すが、具体的な削減内容は1年以内に結論を得るという先送り方式で、与野党協議に委ねられる。

維新は「1年以内に結論が出なければ比例50削減」という強い文言を法案に明記したいが、自民は渋っている。いずれにせよ、両党は1年かけてダラダラ議論を続ける道を選んだ。

もし野党が法案を否決すれば、高市総理は“国民に信を問う”と解散に打って出る大義を得る。しかし野党は早期解散を恐れ、引き延ばし戦略をとるだろう。

問題は、高市総理にとって1年間、解散を打ちにくい環境が続くという点だ。維新の狙いはそこにある。今解散されて自民が圧勝し単独過半数を回復すれば、維新の影響力は大幅に縮小する。だからこそ、定数削減の先送りをテコに、高市総理の解散権を縛ったといえる。

麻生副総裁ら党執行部にとっても同じ構図だ。今のうちに高市総理が圧勝すれば、彼女の権力が強まりすぎ、キングメーカーの影響力が低下してしまう。自民と維新の一見“協調”に見える合意は、実は高市総理の力を抑えるための政治力学そのものだ。

果たして高市総理は、この“1年縛り”を振り切って1月解散に踏み切れるのか。


■ 第四の壁:内閣支持率と政権基盤の脆弱性

最後の壁は、内閣支持率だ。

高市政権は国会で少数与党。維新は閣外協力で、背後では菅氏と麻生氏という犬猿の勢力がにらみ合う。政権の土台は極めて脆い。

唯一、高市総理を支えているのは“国民の人気”である。政権発足時の歴代屈指の高支持率のおかげで政権内部の不満は表面化していない。しかし、これが落ちた瞬間、与野党に加え、財務省や外務省など官僚機構からの抵抗が一気に強まる可能性がある。

高市総理は官邸に露木・前警察庁長官、飯田・前経産次官を起用し、安倍政権型の「官邸主導体制」を構築した。狙いは財務省・外務省の牽制だ。しかし支持率が落ちれば、政権内で足を引っ張る動きが噴出し、スキャンダルのリーク合戦に発展する可能性すらある。

そうなる前に、支持率を高水準で維持しつつ“先手必勝の解散”に踏み切れるか。年末年始の情勢は、高市政権にとって最初の正念場だ。


高市総理は、支持率、経済、外交、与野党の力学という4つの壁に包囲されながら、なお1月解散という選択肢を手放していない。
はたして、この壁を突破し、先手を打つのか。
それとも、解散のタイミングを逃し、政権が“砂上の楼閣”と化すのか。

読者の皆さんはどう見ますか。