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馳知事が東京五輪招致活動で安倍首相から「金はいくらでも出す。官房機密費もある」と告げられたとうっかり明かしたことで再び焦点に浮上した内閣官房機密費

石川県の馳浩知事が、東京五輪招致活動を振り返り、内閣官房機密費を使ってIOC(国際オリンピック委員会)委員に贈答品を送ったと東京都内の講演でうっかり漏らした。

馳氏は五輪招致当時、自民党の東京五輪招致推進本部長を務めていた。安倍晋三首相から「必ず招致を勝ち取れ」「金はいくらでも出す」「官房機密費もある」と告げられ、贈答品としてIOC委員の選手時代の写真などをまとめたアルバム(一冊20万円)を約100人分作成したという。

馳氏は発言が報じられると慌てて撤回したが、後の祭り。機密費の使途が当事者によって露骨に明かされるのは極めて異例で、大きな波紋を呼んでいる。

東京五輪招致の裏金疑惑をめぐっては、フランス検察当局の捜査に加え、東京地検特捜部も電通出身の元理事を逮捕し、「カネにまみれた招致活動」の実態が指摘されてきた。今回の注目点はそこへ機密費も投入されていたことだ。

機密費は一言でいうと、首相官邸が自由に使える「領収書不要のお金」である。官房長官室の金庫に現金数千万円が保管され、官房長官が認めたら自由に使用できる。金庫から札束が取り出されたら、翌朝にはその分が補充されている。まさに「打ち出の小槌」だ。

領収書が不要というだけではない。国家権力が「機密」任務を完遂するために予算に計上された範囲で「裏金」をいくらでも合法的に使用することを認めるものであり、警察・検察当局の捜査が入ることも国税当局の調査が入ることもない。なんでもありの世界であり、「違法」ではなくても「腐敗」の温床というほかない。国家権力のシンボルである。

私が機密費について最初に詳しく教えてもらったのは、1999年に朝日新聞政治部に着任し、首相官邸記者クラブに配属され、官僚トップの古川貞次郎官房副長官(事務)を担当した時だった。古川氏は政治とは一線を画する模範的なエリート官僚で、機密費について尋ねると、その実態を許される範囲で教えてくれた。

私はあわせて財務省出身の細川興一首相秘書官も担当していたが、古川氏や細川氏の日常取材で機密費が使われたと感じる場面はなかった。

古川氏は毎晩、自宅の官舎に番記者を10数人招き入れてオフレコ取材(その内容は「政府高官」の発言として報じることが許されていた)に応じていたし、細川氏は毎朝、公用車に記者を乗せ(箱乗り取材)、夜は自宅前や大衆居酒屋でのオフレコ取材に応じていたが、いつも割り勘だった。

事情が違ったのは、政務の首相秘書官の番記者だ。政治日程や政党対策を担う政務秘書官は当時の小渕恵三首相の長年の秘書が務めていたが、番記者たちを毎晩のように高級料理店に誘い、オフレコ懇談会を開いていた。

当時は全国各地で「官官接待」が社会問題となっていた。私は地方支局(浦和支局)時代で埼玉県庁を担当していた時、官僚との会食は割り勘にするように強く指導されていたので、政治部に着任し、国家権力中枢の政務秘書官に高級店に誘われて費用を支払わない同僚記者たちの実態に疑問を感じた。資金の出所はどう考えても機密費であり、それを承知で朝日新聞政治部としてそのような取材を容認していいのかと、上司に問うた。

上司の答えは「その通りなんだけれども、政務秘書官の会食に参加しないと、朝日新聞だけが首相日程や政治の裏事情を得られず、他社との取材競争に負けてしまう。仕方がないんだよ」だった。それならば朝日新聞だけでも取材経費で会費を払ったらどうかと尋ねたが、政務秘書官は受け取らないし、他社を巻き込んで首相官邸と記者クラブの間の大問題に発展しかねず、どうにもならないという回答だった。

番記者が公正にオフレコ取材に参加するには自腹で自分の分だけ支払うしかないが、それでも政務秘書官は受け取らないだろうし、他社を巻き込んだ大問題に発展し、事態を収拾するために番記者を外されて落着という展開は容易に想像がつく。もちろん、毎晩高級店に通う費用を自己負担していたら、若手記者の給与はあっという間に吹き飛ぶだろう。他社の番記者も含めて、歪んだ現状を受け入れるしかないという空気が覆っていた。

ここに政治報道の最大の問題〜記者クラブと番記者制度によるオフレコの横並び取材体制〜が凝縮されている。

だが、官房機密費のうち、記者対策に使われるのはほんの一部であろう。その多くは与野党への国会対策や選挙資金、さらには国内外の情報収集などに充てられている。そしてその一部は決して表に出ないかたちで政治家の裏資金に流れているに違いない。

首相官邸の「打ち出の小槌」の鍵を握っているのは、官房長官だ。

自民党の政治資金(その7〜8割は政党助成金、つまり私たちの税金)の鍵を握っているのは幹事長だが、政党助成金には使途報告書があり、不十分とはいえ一定の公開ルールがある。

しかし、官房長官が握る官房機密費はまったくのベールに包まれており、使う側からすればこれほど使い勝手の良いものはない。しかも、捜査当局にも税務当局にも決して目をつけられることはないのだ。

かつては自民党幹事長こそ、総理・総裁に次ぐナンバー2のポストと言われたが、近年は官房長官の存在が大きくなっている。近年は政党助成金の使途の透明性が強く求められるのに対し、官房機密費は相変わらず不透明な使用が認められていることと無縁ではあるまい。

自民党の5派閥の政治資金不記載が問題になっているが、官房機密費の根の深さはその比ではない。政権が変わる時、機密費の金庫はたいがい空っぽになっている。

歴代官房長官たちはその使徒を決して口にしない。安倍政権下で歴代最長期間の7年8ヶ月も官房長官を務めた菅義偉前首相は、どれほどの官房機密費を使ったのだろうか。

歴代首相の多くが同じ派閥の仲間を官房長官に起用してきたのも、官房機密費の金庫を他派閥に明け渡したくないからだった。無派閥の菅義偉首相が安倍氏と親しい加藤勝信氏(茂木派)を官房長官に起用したのは安倍氏の意向を無視できなかったからであり、岸田文雄首相が松野博一官房長官(安倍派)を起用したのも最大派閥・安倍派への配慮であった。このことは、菅政権も岸田政権も官房長官を自由に決められないほど党内基盤が弱いことを物語っている。

官房機密費にメスを入れない限り、首相や官房長官が握る権力はこれからさらに膨れ上がり、首相官邸への権力集中が進むであろう。不正や腐敗を防ぐというだけではなく、権力集中による強権政治を防ぐためにも、官房機密費の透明化は不可欠だ。


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