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岸田文雄は吉田茂、岸信介、安倍晋三に並ぶ大宰相!? 薄っぺらい高揚感に包まれた権力者に率いられる日本にとてつもない危機が迫っている!

岸田文雄首相がちょっと危険な高揚感に包まれている。

年明け早々の米国訪問ではバイデン大統領に肩を捕まれて抑え込まれながら満面笑みを浮かべる様子が伝えられた。今回の首相訪米では共同記者会見も晩餐会もなく、私はずいぶん軽く扱われたという印象を受けた。

しかし岸田首相は①バイデン大統領が首脳会談前にホワイトハウスの南正面玄関まで出迎えてくれたこと②会談の途中に二人だけで話をする時間を設けてもらったことーーをもって「厚遇された」と喜び勇んだらしい。

共同記者会見や晩餐会の開催に失敗した外務省幹部が岸田首相に「大統領が玄関まで出迎えるのは異例の厚遇です」「首脳会談の途中でサシで話す時間を設けるのも異例の厚遇です」とささやいて自分たちの手落ちを覆い隠そうとしたのを、岸田首相本人は真に受けたーーといったところではなかろうか。

いずれにせよ、薄っぺらい権力者が高揚感に包まれた時ほどやっかいなものはない。岸田首相が同じ訪米中にワシントンにあるジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院(SAIS)で講演した内容を報じる毎日新聞記事をみて、私はたまげてしまった。

米国から時代遅れの巡航ミサイル・トマホークを大量購入するため、憲法の専守防衛を逸脱する敵基地攻撃能力の保有に踏み出すことを閣議決定した昨年末の安保3文書改定について、岸田首相はこの講演で「安保政策の大転換」と自画自賛したうえ、吉田茂元首相による日米安保条約の締結、岸信介元首相による安保条約の改定、安倍晋三元首相による安保関連法の策定に続く「日米同盟の歴史上最も重要な決定の一つだ」と胸を張ったのである。

吉田茂は岸田首相が第九代会長を務めるハト派「宏池会」の源流というべき政治家である。戦後日本の軽武装・経済重視の路線を固めるために日米安保条約の締結を急いだ。荒廃した日本を再建するため、米国に安全保障を依存することによって「軍事よりも経済成長」を優先する戦後日本の礎を築いた。それが日本政府全体に対米追従姿勢を植え付けることになったにせよ、吉田としては敗戦から再出発するなかでこれしかないという苦渋の決断だったに違いない。

岸は安倍の祖父であり、日本を敗戦に導いた戦前政界の流れを汲む自民党タカ派の源流ともいうべき存在だ。首相として国民世論の反対を振り切って安保改定を断行し、退陣した。統一教会との濃密な関係も岸にはじまるとされ、現在の最大派閥・清和会が抱える闇に深くかかわる政治家だが、その功罪を含めて戦後日本政治史は岸を抜きには語れない。

安倍はこの10年の日本社会を大きく右旋回させた張本人である。歴代最長政権を率いて日本政界に君臨し、解釈改憲によって集団的自衛権の行使容認に踏み切ったことは、吉田が地固めした戦後日本の軽武装・経済重視を大きく転換するもので、やはり安倍抜きには現代日本の立ち位置を説明できない存在である。

岸田首相はこの歴代首相3人と自分を同列に並べ、胸を張ったのだった。

たしかに岸田首相が実行しようとしている「敵基地攻撃能力の保有」は憲法の専守防衛の大原則を逸脱するものだし、防衛費倍増も日本の安保政策の大転換であるのは間違いない。しかしいずれも岸田首相が30年にわたる政治キャリアで強く唱えてきたものではなく、日本政界に君臨した安倍が強く掲げてきた安保政策を踏襲したものに過ぎない。それを自らの「歴史的使命」として高らかに掲げてしまう節操のなさは高慢そのものだ。

恐ろしいのは、岸田首相が当初は「丁寧な説明」や「聞く力」を強調して謙虚さを売りにしていたのに、内閣支持率が続落すると一転して国民生活の賛否が割れる「防衛力強化」や国民に圧倒的に不人気な「防衛増税」を掲げ、それを自らの「歴史的役割」と位置付けて開き直り、さらに国民に「決意」を求める発言までするようになった豹変ぶりである。この政治指導者には定見がなく、タガが外れるとどこまでも暴走しそうで実に危うい。

軽武装・経済重視を掲げてきた宏池会政権で、清和会が主張してきた防衛力強化をはじめとする安保政策の大転換が行われようとしているのは歴史の皮肉である。清和会と対峙してきた宏池会が崩壊して清和会的な安保政策にすり寄るのは、野党が崩壊して自民党的な安保政策にすり寄るのと似ている。政界は想像を超えるスピードで右傾化している。

23日から通常国会が幕を開けるが、与党一色に染まる大政翼賛体制の足音が日増しに近づいている気がしてならない。高揚感漂う岸田首相の薄っぺらい暴走に、立憲や維新が軽いノリで同調していくという、とんでもない展開をたどることがないよう祈る思いだ。


鮫島タイムス週末恒例『ダメダメTOP10』には今週も岸田首相が登場しています。さて、第1位は誰か? ぜひご覧ください。

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