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岸田経済対策に大ブーイング!「年収の壁」対策は企業へ補助金、「物価高」対策は低所得者限定で給付〜国民を線引きして一部だけ支援する国家の狙いとは?

岸田文雄首相が打ち出した経済対策の目玉は、パートなどで働く人が社会保障料の負担を避けるため労働時間を短くする「年収の壁」問題への対策だった。社会保険料の負担を肩代わりするなどの対策を行う企業に対して従業員一人当たり最大50万円を補助するという。

ひとりひとりの個人ではなく企業に補助金をばら撒いて「国民支援」をアピールする、自民党政治の典型のような政策だ。

電気代が高騰すれば電力会社へ、ガス代が高騰すればガス会社へ、ガソリン代が高騰すれば石油元売大手へ、巨額の補助金をばら撒いてきたが、いったいそれでどこまで価格が抑制されたのか、はっきり確かめようがない。

巨額の補助金一部は中抜きされ、大手企業を潤わせ、それが政治献金や天下りポストとして政治家や官僚の利権として環流する「政官業の癒着」そのものの構図だ。

国民一律に現金を直接給付したり、国民みんなを対象に減税したりすることを、自民党政権は極度に嫌うのである。

今回もなぜ社会保障負担が増す個人を直接支援できないのだろう。個人より企業を優先する自民党政治は変わりそうにない。

「年収の壁」の問題はそもそも配偶者控除に伴う問題である。専業主婦世帯が圧倒的に多い時代には一定の合理性がある制度だったが、いまや7割が共働き家庭だ。国家が専業主婦を税制で優遇して「男は仕事、女は家庭」という家族像を押し付けるのは、時代錯誤だ。

一人暮らし世帯が全体の4割にのぼり、家族形態は多種多様になった。世帯単位から個人単位に、税制や社会保障のあり方を抜本的に見直すことが求められている。コロナ対策として国民に一律10万円を支給したときも世帯単位で支給する手法が批判を浴びた。そろそろ抜本的な見直しに着手する時だ。

それに加えて企業に補助金を打ち込む今回の「年収の壁」対策は、二重の意味でピンボケ、時代遅れというほかない。

もうひとつの経済対策の売りとして浮上しているのは、物価高対策として住民税非課税世帯に現金やクーポンを給付する支援策である。

物価高で苦しんでいるのは低所得者だけではない。にもかかわず、なぜ対象を限定するのか。

財務省はつねに「財源不足」を主張するが、これは後付け理由としかいいようがない。通貨発行権を持つ国家は大胆な財政出動に躊躇する必要はないという積極財政の立場からは財政収支を均衡させる必要はないし、積極財政の立場でなくても、これまでコロナ対策やガソリン高騰対策で経済界に巨額の補助金をばら撒いてきたことを考えれば、今回の物価高対策にだけ「財源不足」を主張することがいかにウソくさいかはわかるだろう。

それでも住民税非課税世帯への支援に限定するのは、非課税世帯の8割は60歳以上の高齢世帯であることと無縁ではあるまい。実際に投票率の高い高齢世帯の支持を繋ぎ止める「選挙対策のバラマキ」という批判がネット上では広がっている。物価高に加え、重税感が募る現役世代が反発するのも無理はない。

この結果、高齢世代vs現役世代の世代間対立に発展するのは、岸田政権の思うツボだ。

自民党政権がいちばん恐れるのは、大企業や富裕層ら自民党のコア支持層(いわゆる上級国民)を優遇する税制や予算に批判が高まり、大衆が結束して政権批判を強めることである。経済格差に反発する「上下対決」になると上級国民たちは数の力で勝てないからだ。

そこで大衆のなかから一部を優遇する政策を打ち出し、大衆を分断するのが政権維持の鉄則である。高齢世帯や子ども世帯だけを支援する政策はその典型例だ。国家権力はつねに支援対象を線引きし「分断して統治する」のだ。ここにこそ、国家権力の本音がある。

消費税減税や現金一律給付は、すべての人々に恩恵が届くという意味で、政権としてはほとんどメリットがない政策なのである。そのため、一部に限定して支援する後付けの理屈として「財源不足」が使われているのだ。

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