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岸田首相が派閥会長に固執する理由〜東大卒エリート政治家・林芳正前外相へのコンプレックスと、退陣後にキングメーカーとなる野望

岸田文雄首相が宏池会(岸田派)の会長を続けていることに再び批判が高まっている。臨時国会の審議でも追及され、「歴代首相でも派閥会長を続けた例はある」と答弁し、派閥会長にとどまる姿勢を崩さなかった。

昨年秋の閣僚辞任ドミノで内閣支持率が急落したことを受け、反主流派のドンである菅義偉前首相が年明け早々に岸田首相の派閥会長問題を批判して「岸田おろし」の狼煙をあげた。ところが、岸田首相のキーウ訪問や広島サミットで内閣支持率が回復し、派閥会長問題はうやむやになっていた。

今年秋の岸田減税の不発で内閣支持率が再び急落し、岸田首相は来年秋の自民党総裁選までに衆院解散に踏み切れず不出馬に追い込まれるとの見方が強まり、派閥会長問題が再燃してきた格好だ。

岸田首相はなぜ派閥会長の座に固執するのか。それは、退陣後も派閥会長として影響力を残すことを目論んでいるからである。要するにキングメーカーになりたいのだ。

ここで利害が衝突するのが、宏池会ナンバー2の林芳正前外相である。

林氏は岸田首相の4つ年下である。岸田氏は3世議員だが、林氏は4世議員だ。東大法学部を卒業してハーバード大に留学したエリートで、宏池会では岸田氏よりもホープとされ、将来の首相候補と目されてきた。

2012年の自民党総裁選には岸田氏を差し置いて出馬。防衛相、農水相、文科相、外相を歴任し、そのキャリアは岸田氏よりも華やかだ。東大受験に失敗し、宏池会でも存在感が薄かった岸田氏が林氏に相当なコンプレックスを抱いていたのは想像に難くない。

ただ、地元・山口県の政敵である安倍晋三元首相に衆院への鞍替えを阻まれ、長らく参院議員であり続けた。宏池会前会長の古賀誠元幹事長は2012年に岸田氏に派閥会長職を禅譲した理由について、①林氏が参院議員であったこと②岸田氏は自らに従順であること③岸田氏は当時総裁に返り咲いた安倍氏と同期で親しかったことーーを周辺に語っている。

岸田政権が誕生した後、林氏はようやく衆院鞍替えを果たし、宏池会ナンバー2の座を確立した。さらに外相にも就任し、ポスト岸田に名前があがるようになった。

林氏は英語が堪能である一方、日中友好議員連盟会長も務めた親中派としても知られ、外相としても注目を集めた。岸田首相は警戒感を強めたようだ。「岸田首相は安倍政権の外相時代に安倍さんの首脳外交の陰に隠れて存在感が薄かった。林外相が岸田政権下で存在感を増すことが気に食わないようだった」(宏池会関係者)とも見方もある。

岸田政権最大の後ろ盾である米国のバイデン政権も、覇権を争う中国に近い林外相に警戒感を抱いていた。バイデン大統領と親しいエマニュエル駐日大使は岸田首相側近の木原誠二官房副長官(現・自民党幹事長代理)と綿密に連携する一方、林外相とは距離を置いた。

8月に米国のキャンプデービッドで開催された日米韓首脳会談では、岸田首相の両隣に林氏と木原氏が座った。関係者によると、日米韓3人ずつが参加した会談は英語で談笑する場面が続いたが、英語が堪能な林氏が気さくに応じるのとは対照的に、英語を使いこなすことができない岸田首相の存在感は薄かったという。これが岸田首相が林氏に抱く不満を膨らませたようである。

9月の内閣改造で政府与党の要職がほぼ留任するなかで、林外相だけが交代させられた背景には、米国が林外相を敬遠していたことに加え、岸田首相が林氏をライバル視して警戒感を強めていることがある。後任に起用した上川陽子外相は岸田派所属の軽量級で、岸田首相の首脳外交を打ち消す存在ではないという安心感があった。

岸田首相は林氏に「派閥運営」を任せるとして外相交代を求めた。林氏は不満をにじませたが、もともと政局にたけた政治家ではなく、受け入れざるを得なかった。

岸田首相が宏池会の派閥運営に不満を抱いていたのは間違いない。

派閥会長の岸田氏が首相、ナンバー2の林氏が外相を務める間、派閥運営を任されていたのは根本匠事務総長や小野寺五典事務総長代行だった。

ところが、宏池会は総裁派閥でありながら勢力拡大はさほど進まず、安倍派、麻生派、茂木派に続く第4派閥にとどまっている。なぜもっと人数を増やせないのか、岸田首相が不満を募らせ、派閥体制の立て直しを林氏に求めたのは事実である。

林氏も宏池会体制の脆弱さを認識しており、官房副長官を外れて自民党幹事長代理に転じた木原氏とともに体制強化に取り組む考えを周辺に伝えている。

だが、林外相交代の最大の理由はやはり、岸田首相が林氏の存在感が高まることを嫌ったことにあろう。

首相就任を理由に派閥会長を降りれば、後継会長になるのは林氏しかない。岸田首相が退陣した後、派閥に戻っても、もはやそこは「林派」であり、キングメーカーとして権勢を誇る道は閉ざされる。だからこそ、首相在任中も派閥会長の座を明け渡せないのだ。

林氏にすれば、岸田首相が退陣後も派閥会長にとどまり「岸田派」であり続ける以上、総理・総裁レースに一歩出遅れることになる。岸田首相が余力を残して退陣し、次期政権への影響力を持ち続ければ、「林派」への移行は遠のき、「林政権」への道筋も不透明になる。

岸田首相の後ろ盾である麻生太郎副総裁は、来春に岸田首相を電撃辞任させ、茂木敏充幹事長を緊急総裁選に擁立して麻生派・茂木派・岸田派の主流派体制を維持したい考えだ。だが、林氏にすれば、内閣支持率がさらに低迷して岸田首相がボロボロになった後に退陣したほうが、その後の影響力を失い、林派への移行が進みやすいとう打算もあろう。

ポスト岸田レースが事実上始まり、反主流派の菅氏が担ぐ「小石河」(小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル担当相、石破茂元幹事長)や高市早苗経済安保担当相らの動きも活発になってきた。そのなかで岸田首相と林氏による宏池会内部の主導権をめぐる駆け引きも今後の政局に影響を与えるだろう。


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