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エリート官僚の父と過ごしたニューヨーク暮らしを「マイノリティー経験」と国会で披露する岸田首相の浅はかさ、「コップ酒」で庶民性を装いつつ増税を訴える野田元首相の狡猾さ

国会では新年度予算案の審議が続いているが、庶民感覚からかけ離れた答弁が飛び交っている。国民不在の質疑である。

まずは岸田文雄首相。首相秘書官が同性婚について差別発言をした問題をめぐり、以下の発言が飛び出した。

私自身もニューヨークにおいて小学校時代、マイノリティーとして過ごした経験ですとか…

岸田首相は小学生の3年間、通産省(現・経産省)のエリート官僚だった父(のちに衆院議員)の赴任に伴ってニューヨークで過ごしている。その時に「日本人というマイノリティー」を経験したと披露することで、自分は性的少数者らマイノリティーの人権を尊重しており、首相秘書官とは別であると強調したかったようだ。

私は呆気に取られた。政治家一族の岸田家に生まれた世襲3世である。父はエリート官僚として海外赴任した。それに同伴した自らのニューヨーク暮らしと、さまざまな差別・偏見に直面するマイノリティーたちの現実を重ね合わせ、「私は理解者である」と言ってしまう恐るべき無神経さ…。

名家に生まれたことを批判しているわけではない。名家に生まれた自分の小学生時代のニューヨーク暮らしを引き合いに出せば、差別・偏見に苦しむマイノリティーの良き理解者であると大衆は信じてくれると思い立った浅はかさに呆れ返ったのである。

彼の息子が首相秘書官に抜擢され、「縁故人事」「公私混同」と批判されている最中に、父親の外遊に同行してパリ・ロンドンで公用車に乗って観光・ショッピングを楽しんでしまう浅はかさに呆れ返ったばかり。

父は3世、息子は4世。世襲政治家というのはこの程度の政治センスなのだろう。彼らに差別や貧困に直面して孤独や不安に苦しむ人々の痛みなど想像できるはずがない。どんな美辞麗句を並べたところで、彼らは所詮は上級国民の味方であり、貧富の格差の是正など他人事でしかないと私は確信している。

この政治的な浅はかさは、何も岸田首相に限ったことではなく、自民党全体を覆っている。いや、自民党だけではない。野党第一党の立憲民主党もさして変わりはない。

立憲民主党の泉健太代表が、同性婚に慎重な岸田首相の姿勢は差別発言をした首相秘書官の影響を受けたものではないかとの見方を示した時、そのあまりにピンボケな政治センスに私はやはり呆れ返ったのだった。

人事権を握る首相と、人事権を握られている首相秘書官。「首相が秘書官の影響を受けた」のではなく「秘書官が首相の意向を忖度した」と考えるのが世間の常識である。それを逆にとらえてしまった泉代表は、心の底から上から目線だと思ったのだ(以下の記事で詳報)。

同性婚について「首相秘書官が首相の意向を忖度した」のではなく「首相が首相秘書官の影響を受けた」と思ってしまった立憲民主党・泉健太代表の政治センス

泉代表はあまりに脇が甘く、政治的に未熟というわかりやすいケースである(わかりやすいからといって許されるものではなく、このような未熟な人物が野党第一党の党首であるという深刻な現実なのだが)。さらにタチが悪いのは、立憲民主党の最高顧問を務める野田佳彦元首相だ。

野田氏は、国民世論の大多数が反対した昨年の「安倍国葬」に参加した際、その理由を次のように語った。

内閣総理大臣の経験者は64人しかない。その重圧と孤独を、私も短い期間だが味わっている。それを最も長く経験された方だ。元総理が元総理の葬儀に出ないというのは私としては人生観から外れる。

私はこの発言がとても不快だった。首相経験者のインナーサークルに身を浸し、首相の座に登り詰めた我が人生に酔いしれる「サイテーの元首相」と思ったのだ。

安倍国葬に続く国会追悼演説で彼が美辞麗句を並べたてたことは不快さに拍車をかけた。自らが消費税増税を決める自公民3党合意を主導して格差社会を助長したこと、自らの「潔さ」をみせたいばかりに安倍自民党が求める衆院解散にあっさり応じて惨敗し、安倍長期政権誕生をアシストしたことなど、すっかり棚に上げているのである。

この人物が泉代表よりタチが悪いのは、首相経験者のインナーサークルに酔いしれながら、庶民性を最大限に演出していることだ。

今国会の予算審議でその狡猾さが見えた。野田氏はガラスのコップを手に登場して、アベノミクスが掲げた「大企業や富裕層が受ける経済成長の恩恵は庶民層へ滴り落ちていく」という「トリクルダウン」の理論を「コップ酒」に例えて否定してみせたのである(こちら参照)。

大衆酒場では、私はコップ酒頼むんです。一升瓶を持ってきて店員さんがなみなみと注いでくれて、こぼれ落ちるんですよ、下の受け皿までたまる。なみなみと入れようと私はアベノミクスはしてきたと思います、成長力をね。だけど、下で待ってる受け皿には来なかったんですよ、届かなかった。届いたところと届かないところの格差が広がってきた。だから分配に力を入れようというのが岸田さんの新しい資本主義なんじゃないですか。

大衆酒場のコップ酒という話題で庶民に寄り添う政治家像を演出してみせた。与野党から笑いが漏れ、国会質疑の現場は融和的な空気に包まれ、マスコミは好意的に報道したのである。

だが、この質疑で本当に重要な場面は別にあった。野田氏は岸田首相が掲げた防衛力強化と防衛増税について次のように述べているのだ(こちら参照)。

防衛費の増額、借金か増税か、この話はいろいろ出ていると思います。私これ一言だけ言いたいのはですね、突然、震災復興特別所得税の話が財源として出てきました。私は復興増税やった時の総理大臣なんですよ。被災地の復興のためにと、国民にご理解をお願いして、被災地のためならばということでご理解をいただいた(中略)防衛でどうしても国民の負担をお願いするというんだったら、人のふんどしを使うようなやり方じゃなくて、正々堂々と、防衛のためのこれだけお金が必要だと、足りなかったら増税というやり方をすべきだ。

自分のやった増税は正しかった、防衛費が必要なら増税すべきだーー要するに財務省の振り付け通りに増税を主導した自分の過去を正当化し、岸田首相にも同じ道を歩むように求めているのである。

前段の「コップ酒」は庶民性を装う演出であり、後段の「増税」にこそ野田氏の本質があるというほかない。

庶民感覚に鈍感な間抜けな政治家3世の首相よりも、庶民性を装いながら庶民の暮らしを直撃する増税を推進する狡猾な元首相のほうがタチが悪いかもしれぬと私は思ったのだった。


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