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岸田首相に「宏池会解散」を入れ知恵したのは古賀誠元幹事長? 麻生太郎氏の宿敵による「麻生つぶし」が炸裂?

岸田文雄首相は「宏池会解散」で3月退陣論を回避したが、この捨て身の逆襲を首相に入れ知恵したのは一体誰なのかーー。

朝日新聞政治部時代に宏池会を担当していた私のもとへは、永田町やマスコミの関係者からそんな質問が寄せられている。

その質問の根底にあるのは「昨年の6月解散見送りにしろ、所得税減税にしろ、これまで打つ手、打つ手を間違えてきた岸田首相が、宏池会解散という起死回生の一策を思いつくはずがない」という前提だ。

私もまったく同感である。

それでは、岸田首相に入れ知恵したのは誰か? 私は、岸田首相に宏池会会長の座を譲り渡した古賀誠元幹事長だとみている。

岸田首相が生まれた1957年に池田勇人が旗揚げした宏池会。第8代会長が古賀氏、第9代会長が岸田首相だ。それ以前の宏池会会長は全員他界している。

岸田首相が宏池会解散を事前に根回しするとしたら古賀氏しかない。ところが、古賀氏は宏池会解散後、まったくといっていいほどマスコミに登場していない。

古賀氏は政界引退後も宏池会に影響力を残してる。宏池会解散に反対なら、派閥重鎮としてマスコミに登場し、一言二言イヤミを言ってもおかしくはない。少なくとも古賀氏は岸田首相の決断を止めなかったのは間違いないだろう。

いや、古賀氏にはこのタイミングでの宏池会解散を積極的に支持する動機もある。

宏池会解散が引き起こした「派閥解散ドミノ」で最も窮地に追い込まれたのは、派閥存続にこだわるキングメーカーの麻生太郎副総裁だ。古賀氏は地元・福岡で麻生氏の長年の宿敵である。そればかりではない。岸田首相は2022年総裁選で勝利するにあたり、麻生氏に古賀氏との決別を迫られ、それを受け入れていたのだ。

古賀氏は岸田首相の決断に激怒し、宏池会の名誉会長を退任したといわれている。その後、岸田政権で非主流派となった菅義偉前首相と連携を深めていた。

今回の宏池会解散は、岸田首相と麻生氏の関係を断ち切り、岸田首相を自らのもとへ引き戻すことを狙った古賀氏の「逆襲」と考えると、さまざまな辻褄があう。

麻生氏は岸田政権のキングメーカーとして君臨し、岸田首相を自民党本部にしばしば呼びつけ、ポスト岸田に茂木敏充幹事長を担ぐ構えもみせていた。

岸田首相は次第に「麻生氏からの自立」を探るようになる。昨年9月の内閣改造・党役員人事では茂木幹事長の更迭を画策したが、土壇場で麻生氏に猛反対されて断念。それでも麻生氏らの反対を押し切って所得税減税を打ち出すなど、「麻生離れ」をじわりと進めてきた。

裏金事件で麻生派・茂木派は立件を免れたのに、岸田派は安倍派と二階派とともに立件されるに至り、岸田首相は麻生・茂木・岸田の主流3派体制に終止符を打つことを決断。菅氏が主張してきた「派閥解消」に乗り、先手を打って岸田派解散を表明し、「派閥解消」を最大の政治争点に据えたのだ。

これを受け、二階派、安倍派に続いて、検察に立件されなかった森山派も解散を決め、麻生派と茂木派が孤立する展開となった。

ここでポイントとなるのは、岸田派立件の捜査方針は、土壇場で急に決まったことだ。これは、岸田首相が3月退陣を受け入れないことに苛立つ麻生氏の意向に沿って、検察当局が岸田首相に「引導」を渡したものだと私はみている。

宏池会の元会計責任者として略式起訴されたのは、宏池会事務局に長く務めてきた佐々木和男・元事務局長(80)だ。

私が宏池会や古賀氏を番記者として担当した2003年当時も佐々木氏は宏池会の事務を取り仕切り、古賀氏の信任も熱かった。佐々木氏は検察の事情聴取内容を含めて捜査の状況を岸田首相だけでなく、古賀氏にも報告していた可能性は高い。

古賀氏は佐々木氏から略式起訴されることをいち早く知り、「立件される安倍派、二階派、岸田派」vs「立件を免れる麻生派、茂木派」という新たな対決構図を作り上げようとしたのではないか。

岸田首相が先手を打って宏池会解散を打ち出せば、二階派と安倍派も追従せざるを得ず、麻生・茂木・岸田の主流3派体制は崩壊し、麻生氏が一転して孤立する。そんな政局展望は、百戦錬磨の古賀氏ならすぐに思い浮かぶに違いない。(私は番記者として古賀氏に政局観を磨かれた)

追い詰められた岸田首相は、宏池会会長の前任者である古賀氏から思わぬ提案を受け、麻生氏と決別して古賀氏や菅氏と寄りを戻す大転換に踏み切ったーー。かつて古賀氏や宏池会の番記者を務め、古賀氏の政治行動をずっと見てきた私の肌感覚からすると、以上のようなシナリオがもっとも腑に落ちる。

今すぐに古賀氏を取材してこのシナリオを尋ねても、完全否定するだろう。麻生氏が完全失脚すれば、全貌を打ち明けることがあるかもしれない。

政治家と政治家の裏交渉はすぐには決して表面化しない。そこが政局取材の難しいところであるし、面白いところでもある。


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