政治を斬る!

小泉進次郎は「農協のドン」森山幹事長に勝てるのか~米価高騰に切り込む新大臣と鉄のトライアングルの攻防

日本の農政に激震が走った。新たに農水大臣に就任した小泉進次郎氏(44)が、就任早々「米価を下げる」と宣言。備蓄米を農協ではなくスーパーに直接売り渡す方針を打ち出したのである。

これに対抗するのが、農協のドンにして自民党幹事長の森山裕氏(80)。農水族のトップに君臨し、日本の農政を牛耳ってきた張本人だ。

進次郎氏は、日本農政の象徴ともいえる「農水省・農水族・農協」の鉄のトライアングルに風穴を開けられるのか。その行方は、政権の命運さえ左右しかねない。

■農政を牛耳る南九州の「三強」

日本の農政は、南九州のベテラン議員によって支配されてきた。森山氏(鹿児島4区)、森山の最側近である坂本哲志国対委員長(熊本3区)、そして先日「コメは買ったことがない」発言で更迭された江藤拓前農水相(宮崎2区)の三人が、その中核だ。

彼らはいずれも農協との結びつきが強く、農水族議員として農協の利益を最優先する政策を推進してきた。農協は農家から米を集荷し、スーパー等に販売して利益を得るビジネスモデル。その収益構造を守るため、米価を高く維持する政策が何十年にもわたり続けられてきた。

その象徴が「減反政策」だ。農水省は、米の生産量を地域ごとに事実上割り振って生産量を意図的に抑制。さらに、水田で小麦や大豆をつくる農家に補助金をばらまいて米の生産量を抑え込み、米価を維持してきたのである。

その結果、日本の米づくりは担い手不足に陥り、気がつけば米の慢性的な不足、そして米価の高騰という事態を招いてしまったのだ。

■備蓄米放出にメスを入れた進次郎

小泉新農水相が最初に手をつけたのが「備蓄米の放出方法」だった。

これまでは、農協に売却して倉庫で眠らせるのが常態化。流通量が増えると米価が下がるため、農協は様々な理由をつけて出荷を遅らせてきた。農水省も農協に売る際、「将来買い戻す」と約束することで、米価維持の仕組みをあらかじめ組み込んでいた。

こうした“茶番”に、進次郎氏は終止符を打つと言い切った。「需要があれば無制限に備蓄米を出す」「農協を通さず、スーパーに直接売る」――。これは鉄のトライアングルに対する明確な挑戦状だ。

一方で、米価下落を恐れる農協の反発は必至。進次郎氏の一挙手一投足が、日本農政の根幹を揺るがすことになる。

■石破首相と森山幹事長の複雑な関係

ここで注目すべきは、石破茂首相と森山幹事長の力関係だ。消費税減税をめぐっても、石破氏は党内の声に傾きかけたが、森山氏の反対で断念。そんな「影の総理」とも呼ばれる森山氏が、なぜ小泉進次郎の農水相起用を認めたのか?

カギは就任プロセスにある。進次郎氏は記者会見で、石破首相だけでなく森山幹事長からも前日に打診されたことを明かしている。つまり、石破首相は森山氏との合意の上で進次郎起用を決断したと考えるのが自然だ。

進次郎氏を農水相に据える――。それは、世論の怒りの矛先をかわす“風除け”にすぎない。森山氏からすれば、かつて進次郎氏が挑んだ「農協改革」は失敗に終わっており、今回も大したことはできまい、と見ている節がある。まさに「なめられている」のだ。

■問われる「本気度」 進次郎は突破できるか?

米価高騰を本当に解決するには、生産量の増加が不可欠だ。しかし、それには農家が安心して米づくりを続けられるよう、米価下落分を政府が直接補填する「戸別所得補償制度」の導入が不可欠だ。

これは、かつて民主党政権が導入した政策だが、自民党は政権奪還後にまっさきに廃止した。農水省・農水族・農協にとっては、農家と政府を直接つなぐこの制度こそが最大の脅威。農協という中間組織が不要になるからだ。

つまり、森山氏の“最終防衛ライン”はここにある。進次郎氏が、米価の一時的な引き下げにとどまらず、コメ増産につながる制度改革にまで踏み込めるかどうか。そこに真の勝敗ラインがある。

もし彼が再び敗れるなら、今回の起用もまた「改革の演出」で終わるだろう。