国民民主党が新年度予算案に賛成した。立憲民主党との「野党共闘」と決別し、自公政権に接近して「与党入り」をめざす姿勢を鮮明にしたといっていい。もはや「野党」というよりは「事実上の与党」として「閣外協力」に転じたと認定すべきである。
国民の玉木雄一郎代表は2月21日の衆院予算委の締めくくり総括質疑で、当初予算案に賛成することを表明した。その理由について、ガソリン価格の上乗せ税率分を引き下げる「トリガー条項の凍結解除」によるガソリン減税について、岸田首相が検討する考えを明言したためと説明した。
玉木氏はトリガー条項の凍結解除を繰り返し主張してきたが、岸田首相は「凍結解除は適当ではない」と拒否してきた。ところが予算案採決が近づいた段階で「トリガー条項の凍結解除も検討から排除しない」と軌道修正したため、玉木氏は「実現に向けた方向性が明らかになった」として予算案そのものに賛成することにしたというわけだ。
岸田首相は「検討」としか言っていない。それでも玉木氏は記者会見で岸田首相と直接電話で協議したことを明らかにしたうえ「一国の首相と公党の代表である私との間で結んだことが全てだ」と主張。「予算に賛成した以上、こっちの言うこともちゃんと聞いていただきたい」と述べ、トリガー条項が凍結解除されることを確信しているとの立場を強調した。
国会で「与党」とは内閣を支持する勢力である。具体的には国会が内閣総理大臣を選ぶ「首相指名選挙」に勝った勢力だ。昨年秋の衆院選後に行われた首相指名選挙で自民・公明両党は岸田文雄・自民党総裁に投票。岸田氏は投票総数465票のうち過半数を大きく上回る297票を得て首相に就任した。だから岸田内閣の「与党」は自公両党である。
岸田首相に投票しなかった政党は岸田内閣を支持しない勢力=「野党」に色分けされる。しかしすべての野党が一致結束しているわけではない。衆院選で「野党共闘」した立憲民主党と共産党は立憲代表だった枝野幸男氏に投票した(108票)が、同じく「野党共闘」に加わったれいわ新選組の衆院議員3人は山本太郎代表に投票した(3票)。この時点でれいわは立憲を中心とする「野党共闘」とはすでに一線を画していた。
衆院選で躍進した日本維新の会は当時共同代表だった片山虎之助氏に投票した(41票)。維新は衆院選前から「打倒・立憲」を掲げて立憲から野党第一党の座を奪う戦略を鮮明にし「自公の補完勢力」とも指摘されていた。自党の代表に投票したのは当然の流れだったといえよう。
国民民主党は玉木雄一郎代表(11票)に投票した。国民は立憲と同じく旧民主党を源流とする政党で、ともに連合の支援を強く受けてきた。衆院選でも連合を介して立憲と選挙協力した。それにもかかわらず枝野氏ではなく自党の玉木氏に投票した時点で、れいわと同様、立憲とは一線を画す姿勢を明確にしていたといえる。
しかし、れいわが「反自公・反維新」の姿勢を鮮明にするのとは正反対に、国民は連合とともに政府・与党に急接近するとともに、維新との連携強化も進めてきた。立憲は連合や国民の意向を受けて共産との「野党共闘」を打ち切る姿勢に転じ、連合や国民をつなぎとめようとしてきたが、連合は今夏の参院選で「支持政党なし」の方針を決定して立憲を突き放していた。
そして今回、国民がついに岸田内閣が国会に提出した予算案に賛成したのである。玉木氏は連合の芳野友子会長にも予算案に賛成する意向を事前に伝えたという。
現内閣が提出した予算案への賛成は、現内閣への信任の意味を持つとされている。野党が個々の法律案に賛成することは珍しくないが、当初予算案に賛成するのは異例中の異例で28年ぶりだという。
首相指名選挙、内閣不信任案、当初予算案の三つは各政党が「現内閣を支持する与党か、現内閣を支持しない野党か」を色分けする指標といえる。その意味で予算案に賛成した国民民主党は事実上「与党入り」したという評価も成り立つだろう。自公補完勢力と指摘される維新でさえ予算案には反対したのだ。玉木氏自身、記者会見で「(国民民主党は)入閣もしておらず明確に野党だが、どのように映るかは国民の判断に委ねたい」と語った。
この通常国会が終了した後には参院選がある。国会会期末は与野党激突が予測され、野党が内閣不信任案を提出するのが常道だ。「野党は批判ばかり」との批判に怯え「提案型野党」を名乗って政権追及の精彩を欠く立憲でさえ、さすがに参院選を目前に控えて内閣不信任案を提出し、自公与党との対決姿勢を強めるだろう。この時、当初予算案に賛成した国民民主党が野党提出の内閣不信任案に同調する可能性はかなり低い。参院選前に国民民主党の「与党入り」は決定的となり、野党は戦線崩壊のまま参院選に突入することになりそうだ。
当初予算案への賛成は野党として一線を越える決断となるため、国民民主党内でもさすがに異論が相次いだ。前原誠司・元民主党代表が体調不良を理由に衆院本会議を欠席したのは、さすがに現時点で「与党入り」を表明することへの抵抗感を示したものだろう。裏を返せば前原氏らの反対を振り切って予算案に賛成票を投じた玉木代表らの「与党入り」の決意は固いといっていい。産経新聞によると、国民民主党内には「(同じ第三極の)維新が現政権に批判的な今こそチャンスだ」という声もあるという。
国民民主党はルビコン川を渡ったのだ。
さて、自民党は国民民主党の歩み寄りをどう受け止めているのか。
岸田首相は衆院本会議後、玉木氏を訪ねて「感謝します。引き続きよろしくお願いします」と”腕タッチ”した。茂木敏充幹事長は「今後、おそらく政策提言などもあると思うが、真摯に受け止めていきたい」と歓迎した。岸田首相から抜擢された福田達夫総務会長は「国民民主党の方々が提案されていること、頷けることも随分ある。正直、人によっては一緒に仕事したいと思う方もいる」と大歓迎し、「与党入り」を期待してみせた。
一方、安倍晋三元首相を後ろ盾とする高市早苗政調会長は「トリガー条項凍結解除には、法改正が必要で時間がかかる。灯油や重油は対象外だ」と慎重論を見せている。安倍最側近の萩生田光一経済産業相もこれまで慎重姿勢を示してきた。
自民党と参院選の相互推薦をめぐってギクシャクしている公明党の山口那津男代表も「玉木代表から連絡をもらい、ちょっとびっくりした」と述べ、警戒感をにじませた。岸田首相と連立政権の枠組みに影響を与えないことを確認したという。維新の藤田文武幹事長も「(岸田首相の答弁は)前向きだったんですかねえ。なんとも判断つかないようなご答弁だった」と違和感をにじませた。ここで重要なのは、公明や維新は岸田政権で非主流派に転落した菅義偉前首相と極めて近く、岸田政権との距離感が指摘されていることだ。
以上の反応からは、岸田ー麻生ー茂木ラインが仕切る自民党の現執行部に近い勢力は「国民民主党の与党入り」を歓迎する一方、現執行部に距離を置く安倍氏、菅氏、公明、維新は警戒感を強めているという構図が浮かんでくる。岸田首相が安倍ー菅ー公明ー維新ラインによる「岸田包囲網」への対抗手段として「国民民主党の与党入り」カードを握ったといえそうだ。国民民主党の「予算案賛成」が極めて政局的行動であることがおわかりいただけるだろう。
以下の記事は、私が昨年秋の衆院選前に、岸田首相は維新よりも国民民主党に接近することを予測したものである。現在の政局を読み解くうえでも参考になるのでぜひご覧いただきたい。
岸田政権は竹中平蔵氏や菅義偉氏が主導した新自由主義を否定し「維新」より「国民民主党」へ接近する
立憲民主党はどうか。泉健太代表は「与党と論戦する政党がひとつ減る。非常に信じがたい対応だ」と述べたが、「信じがたい」で終わらせていいのか。
国民や連合は立憲との連携にあたり「共産と手を切ること」を迫ってきた。泉代表はその要求を受け入れて共産との「野党共闘」を白紙に戻したのだ。そこまで譲歩しながら、この仕打ちである。国民の玉木代表に立憲との共闘を続ける意思がみじんもないことは明らかだ。「信じがたい」どころか「決別」を宣言しなければならないのではないか。このままでは参院選を前に野党陣営は自壊するだろう。
日本政界は「①自民党主流派の岸田首相・麻生副総裁・茂木幹事長・福田総務会長の執行部+国民民主党+連合」vs「②自民党非主流派の安倍元首相・菅前首相・高市政調会長+公明+維新」vs「③野党(れいわ+共産)」という三つ巴の対決構造がみえてきた。ただひとり立ち位置が不鮮明なのは、野党第一党の立憲民主党である。このままでは三つ巴の対決構図のなかを彷徨い続け、参院選ではすっかり埋没し、大惨敗を喫するだろう。
野党第一党が参院選前に①や②の立場をとることはあり得ない。立憲民主党は③の立場を鮮明にし、れいわや共産との信頼関係を再構築するしか進むべき道はない。そのためには連合や国民民主党と決別し、維新との対決姿勢も鮮明にするしかないのである。その決断に踏み切れず、迷走を続けるようなら、早ければ参院選前の空中分解もありえるだろう。
維新は、敵か、味方か。立憲民主党の泉代表は自らの考えを表明すべし!
公明党「参院選で相互推薦見送り」に二階・菅・古賀氏の影〜自公連立が揺らぎ、その先に政界再編はあるのか