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岸田政権の命運は「防衛増税」を容認した公明党に握られた?来年の税制改正で梯子を外されて退陣に追い込まれる恐怖のシナリオ

岸田文雄首相が打ち上げた「1兆円の防衛増税」は、法人税・所得税・たばこ税で財源を賄う仕組みは固まったものの、肝心の増税実施時期は「2024年以降の適切な時期」とぼやかされ、最終決定は来年の税制改正に持ち越された。

自民党内からは「防衛増税は無期限延長になった」との声が公然とあがり、今後の行方は不透明だ。岸田首相が来年の税制改正で増税実施を決定できず、退陣に追い込まれるという展開も十分にありうる。

防衛増税決定の先送りを余儀なくされたことで、「岸田おろし」の起爆装置を埋め込まれたといえるのではないだろうか。

自民党の宮沢洋一税調会長は防衛増税の実施時期を決める与党内論議について、年末恒例の税制改正とあわせるか、あるいは切り離して前倒しして行うか、いずれもありうるとの見解を示している。

この議論に踏み切った段階で、自民党内は再び緊迫した政局に突入して「岸田おろし」が吹き荒れる恐れがあるため、岸田首相はタイミングを慎重に見極めることになる。岸田首相は来年5月に地元・広島で開催するG7サミットで議長役を務めることには並々ならぬ意欲を示しており、少なくとも5月より前に防衛増税の党内論議を蒸し返すことは避けるに違いない。お盆休み明けから年末にかけて山場を迎えるのではないか。

防衛増税をめぐる「岸田おろし」が高まるか否かの鍵を握るのは、公明党ではないかと私はみている。以下、解説していこう。

そもそも年末の税制改正で、岸田首相が「防衛増税」に踏み切ることができたのは、公明党が早々にして増税方針を容認したからだった。

増税が必要な理由は、憲法の専守防衛を逸脱しかねない「敵基地攻撃能力の保有」を進めるため、米国から巡航ミサイル・トマホークなどを大量購入することである。本来なら「平和の党」を掲げる公明党が慎重にならなければおかしいテーマだ。

ところが、公明党は敵基地攻撃能力の保有に加え、防衛増税の方針も、意外にあっさりと受け入れた。日本維新の会や国民民主党ばかりではなく、立憲民主党まで自民党へ接近し、さらには国民民主党が連立入りする構想まで報道され、防衛力強化や防衛増税に真っ向から反対すれば連立政権内での発言力が低下することへの危機感があったのは間違いない。

だが、ここにはもうひとつ重要な「戦略」が隠されているように私は思う。

公明党が早々に防衛増税への賛成を示さなければ、自民党最大派閥・清和会で増税反対論が高まるなかで、岸田首相は強気で防衛増税を提示することはできなかったであろう。岸田首相にとって「公明党との増税合意」は命綱なのである。

ここまで首相が前面に立って防衛増税を主導した以上、与党内の反対で撤回に追い込まれれば、首相退陣論が高まるのは避けられない。

裏を返せば、岸田政権の命運は公明党が握ったともいえる。来年の税制改正にあたり、公明党が手のひらを返して「増税に踏み切る景気状況ではなくなった」と言い出せば、岸田首相はいきなり「お手上げ」になるのだ。

この年末の税制改正で、公明党が意外にあっさりと増税方針を容認したのは、清和会の反対で年内には増税時期の決定には至らず、来年に先送りされることを見越したうえでの判断だったと私はみている。

岸田首相が来年のどこかで防衛増税の時期をめぐる議論を再開するまで、公明党は岸田首相にさまざまな要求を突きつけることができるだろう。岸田首相は公明党の離反を恐れて丸呑みするほかない。

それでも税制改正の段階で公明党が寝返りする可能性は捨てきれない。公明党はそもそも岸田首相の政敵である菅義偉前首相や二階俊博元幹事長と親密な関係にある。菅氏や二階氏と水面化で気脈を通じ、今回は早々に賛意を伝え、岸田首相が「防衛増税」を打ち上げる背中をあえて押し、「岸田おろし」の起爆剤を埋め込むことに一役買ったのではないか。

公明党は国政選挙のたびに全国の比例票を減らし、組織力の低下が指摘されている。長年の与党暮らしで平和や福祉で自民党に譲歩する場面が相次ぎ、存在感も埋没する一方だ。来年の税制改正で、防衛増税に対する世論の批判が頂点に達したところで手のひらを返し、増税阻止を主導すれば、久々に存在感を示すことができる。

岸田政権が増税撤回で倒れ、菅氏や二階氏が主導する新政権が発足すれば、公明党が立憲や維新、国民などの野党よりもはるかに優遇されるのは間違いない。「増税を阻止した」という手柄を掲げて、新首相のもとでただちに行われるかもしれない解散総選挙になだれ込むことも可能だ。

永田町の政局を長くみてきたが、今回の「防衛増税」のように、賛否の割れる重大な政策決定を先送りすると、多くの場合は失敗に終わり、政権は倒れる。

岸田首相は本気で「防衛増税」を断行したいのなら、この年末に実施時期まで決め切らなければならなかった。半身の姿勢で妥協して来年に持ち越すことになったのは、非主流派ペースのように私には思える。政局の運び方は、岸田首相より、老獪な菅氏や二階氏のほうが一枚上だ。

「岸田おろし」の起爆剤は確実に埋め込まれた。来年のどこかで炸裂するとしたら、起爆装置のスイッチを押すのは公明党かもしれない。


12月20日発売のサンデー毎日に『2023年はこうなる 政治 岸田首相はズルズル居座る』を寄稿しました。①岸田首相は自ら衆院解散を断行せず、ポスト岸田レースが混沌とするなかで2024年秋の自民党総裁選まで居座る戦略を描いている②しかし防衛増税の撤回に追い込まれて退陣すれば、次期首相のもとでただちに解散総選挙が行われる可能性が高いーーと解説しています。よろしければご覧ください。

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