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自民党安倍派の5人衆で松野官房長官が最初の標的になった理由〜岸田政権から茂木政権への移譲を狙う麻生氏の意向に沿った検察の国策捜査と朝日新聞のスクープ

自民党最大派閥・安倍派の裏金疑惑は内閣の要・松野博一官房長官の更迭にとどまらず、安倍派5人衆(松野氏、萩生田光一政調会長、西村康稔経産相、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長)の全員更迭に発展しそうだ。

5人衆はいずれも派閥パーティー券のノルマを超えた分を政治資金収支報告書に記載しない裏金としてキックバックされていた。松野氏、高木氏、世耕氏は5年間で1000万円を超え、萩生田氏は数百万円、西村氏は100万円と報じられている。さらに松野氏、西村氏、高木氏は派閥運営に責任を持つ事務総長を務め、所属議員にノルマを超えた分を裏金として還流させた側としての責任も問われる可能性がある。

5人衆のなかで最初に標的にされたのは、松野氏だった。東京地検特捜部と一体化していることで知られる朝日新聞が「松野氏に1000万円超」と大々的にスクープしたのだ。特捜部のリークに基づく報道であることは間違いない。

これに対し、松野氏は国会や記者会見で「政府の立場」を理由に説明を何度も拒否。内閣のスポークスマンである官房長官としての職責を果たせる状況ではなくなり、世論の批判が沸騰した。松野氏の対応が傷口を一挙に広げたといっていい。

岸田首相は当初、松野氏の更迭を否定していたが、世論の批判の高まりをうけて更迭やむなしと判断。松野氏を更迭する以上、同様に裏金を受け取っていた5人衆全員を更迭しなければ示しがつかないと判断したのだろう。

最大派閥・安倍派は、安倍晋三元首相が急逝した後、集団指導体制を率いてきた5人衆が「全滅」する格好で壊滅状態となる。

検察当局は「正義の味方」ではなく「時の権力者の味方」であることは、鮫島タイムスで繰り返し強調してきた。

岸田内閣の支持率が続落して岸田首相では解散総選挙は戦えないとの見方が広がり、首相官邸の求心力が大幅低下するなかで、現在の「時の権力者」はキングメーカーである麻生太郎・自民党副総裁である。

特捜部の捜査は麻生氏が描く政局に沿って進められていると私はみている。つまり「国策捜査」だ。

麻生氏は来春の予算成立の首相訪米を花道に岸田首相を退陣させ、茂木敏充幹事長に引き継がせる構想を描いてきた。麻生派・茂木派・岸田派の主流3派体制を維持することを最優先にした戦略だ。

岸田首相が来年秋の総裁任期満了まで居座れば、党員も投票に参加する正規の総裁選が実施されることになり、国民人気の高くない茂木氏は不利だ。一方、麻生氏のライバルである菅義偉前首相は、世論調査「次の首相」のトップに返り咲いた石破茂元幹事長を対抗馬に担ぐとみられており、茂木氏では太刀打ちできない。

岸田首相が任期途中で退陣すれば、党員は投票に参加せず国会議員と都道府県連代表だけで決める緊急の総裁選が行われる。この場合、派閥の論理が優先し、無派閥の菅氏や石破氏よりも、主流3派が担ぐ茂木氏のほうがはるかに優勢となる。

だが、最終的な鍵を握るのは、最大派閥・安倍派の動向だ。菅氏は、政界引退後も安倍派のドンである森喜朗元首相が寵愛する萩生田氏と親密である。麻生氏はこれに対抗して世耕氏に近づいた。世耕氏は地元・和歌山で、菅氏と近い二階俊博元幹事長の宿敵だ。敵の敵は味方である。世耕氏が麻生氏に接近するのは自然な流れだった。

特捜部の捜査戦上に最初に浮かんだのは、萩生田氏の子分として知られる池田佳隆衆院議員だった。当選4回の中堅ながら安倍派で最もパーティー権を売り捌く「パー券営業部長」と呼ばれ、ノルマ60万円のところ毎年1000万円程度を売り、差額の900万円程度を裏金としてキックバックされてきたとされる。池田氏の疑惑は週刊文春が報じ、萩生田氏にプレッシャーがかかることになった。萩生田氏と親密な菅氏にも大打撃だ。

続いて標的となったのが、松野氏である。事務総長として裏金を渡す側だったことに加え、自らも5人衆でトップレベルの5年間で1000万円超の裏金を受け取っていた疑いが強まった。内閣の要である松野氏が集中砲火を浴びたことは、岸田首相にとって大打撃となり、来春の退陣へ引導を渡す効果を狙ったともいえよう。

これに対し、麻生氏に近い世耕氏は事務総長を務めていないことから参院幹事長にとどまる強気の姿勢をみせていたし、西村氏も裏金の規模が少ないことから松野氏と比して余裕が感じられた。ふたりとも捜査の標的は松野氏、高木氏、萩生田氏とみて、自らは逃げ切れると踏んでいたのだろう。

だが、世論の批判は想像を超えて過熱。特捜部が12月13日の国会閉幕後に国会議員を含む関係者に一斉に事情聴取する方向が固まり、岸田首相は全員更迭の判断に傾いた。来春の予算成立と訪米までは何としても踏みとどまりたい。そのためには5人衆を一掃してでも事態を鎮静化させたいという判断だ。

麻生氏としても、ここまできたらむしろ安倍派に壊滅的な打撃を与えて干し上げたほうが、主流3派による茂木政権への移行が円滑に進むと判断したとみられる。

5人衆を全員更迭するとなると、事実上の内閣改造・党役員人事といえる。政治資金問題を徹底的に調べられることを覚悟し、いつ退陣するかもしれない泥船政権に今更加わる政治家がどれほどいるのか。新たな体制をつくることが可能なのか。壊滅的状態の安倍派は分裂に進むのか。政局は混迷を増し、シナリオなき権力闘争に突入した。

 

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