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二階俊博元幹事長85歳、良くも悪くも見どころ満載の「引退会見」を徹底分析〜世耕氏へのあてつけ、麻生氏や茂木氏への牽制、小池知事の国政復帰…まだひと暴れはあるか?

自民党の二階俊博元幹事長が次の衆院選への不出馬を表明した。85歳。事実上の引退表明である。

安倍派や二階派の裏金事件では裏金額トップだった。これとは別に幹事長時代に使途を公開する必要のない政策活動費を党から5年で50億円受け取っていたことへの批判も浴びた。

岸田文雄首相が裏金議員82人を一斉処分する方針を固めたことを受け、先手を打って不出馬を表明した格好だ。これを受けて岸田首相は二階氏への処分は見送る方針である。

二階氏の不出馬表明は「処分逃れ」であることは間違いない。裏金事件がなければ次の衆院選に出馬していた可能性もあっただろう。裏金事件で政界引退に追い込まれたという総括は間違いないではない。

とはいえ、この記者会見は、良くも悪くも老獪な政治家の傲慢さやしたたかさが至る所に滲み出ていて、見応えはあった。

二階氏の意図を詳細に読み解いてみよう。

二階氏が記者会見冒頭に切り出したのは、以下の4点である。ここに二階氏の主張は凝縮されている。

①「政治不信を招いて国民と地元の皆様に深くお詫び申し上げます。派閥の会計責任者と私の秘書が刑事処分を受けた政治責任はすべて私にある」

②「自らの政治的責任を明らかにするため、本日、岸田総裁に対し、次期衆院選に出馬しないことを伝えた」

③「後継候補は地元の皆様のご判断にお任せする」

④「残りの任期は有権者から付託された議席であり、国土強靭化、大阪万博、観光立国の推進、外交、諸案件に力を尽くす」

①の「政治責任はすべて私にある」というのは、二階派の会計責任者や自らの秘書が刑事処分を受けた政治家として当然の発言であろう。だが、その「当然」が行われていないことに今の自民党の危機的状況がある。

安倍派幹部たちは記者会見や衆参の政倫審で裏金づくりについて「一切関与していない」と繰り返し、安倍派の会計責任者や自らの秘書に全責任を押し付けた。なかでも二階氏の地元・和歌山の政敵で、参院安倍派のトップだった世耕弘成元参院幹事長の責任転嫁ぶりは世論から激しい批判を浴びた。二階氏の冒頭発言は、とりわけ世耕氏へのあてこすりとみることもできる。

②のポイントは、不出馬の意向を直接、岸田首相に伝えたという点である。自民党史上最長の幹事長経験者として当然の振る舞いにみえるが、通常は不出馬の意向は茂木敏充幹事長に伝えるものだ。「俺は茂木など相手にしない」「俺が不出馬を伝える相手は自民党トップの総裁だけだ」という強い自負心が込められているように私は受け止めた。

③の「後継候補は地元の判断」も、麻生太郎副総裁や茂木幹事長が仕切る党本部に後継候補の決定は委ねないという強い意思表示である。

二階氏は自分の息子(長男ないし三男)に地盤を譲るつもりだ。だが、地元・和歌山では政敵の世耕氏が参院から衆院への鞍替えをうかがってきた。しかも次の衆院選は和歌山県内の選挙区数が3から2へ減るため、二階氏が出馬を予定していた和歌山2区もすんなり代替わりが進むかどうか見通せない状況なのだ。

世耕氏も二階氏に劣らぬほど裏金批判を浴びているなか、次の衆院選で鞍替えを果たすことは困難な情勢だ。二階氏は「むしろここは息子に円滑に地盤を譲る好機」ととらえ、政界引退を決断したのだろう。

警戒すべきは、党本部が「二階も世耕も両成敗」というトップダウンの決断を下すことだけだ。それを牽制するための「後継者は地元の判断」発言といっていい。

④は、衆院解散までは国会議員としての任期をまっとうするという宣言である。

4月28日投開票の衆院東京15区補選には、二階氏が気脈を通じてきた小池百合子東京都知事が電撃出馬するとの観測が広がっている。小池氏は国政復帰を果たした後、二階氏や萩生田光一・都連会長の後押しで自民党復帰を果たし、9月の総裁選に出馬して「初の女性首相」を目指すという見方も出ている。

これに対し、岸田首相は9月の総裁選再選を目指し、今国会での衆院解散を視野に入れてきた。

二階氏があえて「任期まっとう宣言」をしたのは、解散政局あるいは総裁選に絡むという強い意思表示であろう。通常は引退表明した政治家は求心力を一気に失う者だが、二階氏ほどの大物政治家であれば、政界引退した後も強い影響力を残している森喜朗元首相や古賀誠元幹事長のように、一定の存在感を維持するであろう。

以上、二階氏の主張はここで尽きるのだが、以下は、私が印象に残った部分である。二階氏は冒頭発言に続いて以下のエピソードを語り始めた。

「私が県議だった時、地元の青年団の皆様が新潟に行くと真剣な顔で訪ねてきた。地元の道路の要望を何十年も地元の国会議員に頼んだが、一歩も動かない。私たちの痛みをわかってくれるのは田中角栄先生しかいない。私は悔しい思いでした。もう故郷のみんなにこんな思いをさせてはいけない。私が自ら国政に挑戦することを誓った日だ」

「初めて国政に立候補した頃、名もない私に初めて会った人が朝ごはんをね、食べさせてくれた。私は感激しだ次第だ。政治の原点は故郷にあり。政治はひとりの力ではできない、尊敬する田中角栄先生の最も印象的な言葉だ」

自民党はかつての中選挙区時代、全国各地で派閥同士が競い合った。新人候補は通常、党公認を受けられず、無所属で出馬し、現職の公認候補を蹴落として当選すれば追加公認を受けることができた。そして自らの選挙区の先輩たちとは別の派閥に身寄せたのである。

この時代、自民党の国会議員にとって、自らの公認権を握る総裁や幹事長よりも、地元の有権者のほうがよほど大切だった。公認を得たところで活きのいい新人候補が無所属で挑んできたら、有権者の支持がない限り、落選してしまうからだ。

だが、小選挙区が導入されると、党公認を得ることが何よりも重要になった。党公認さえ得られれば、小選挙区で野党との一騎打ちに勝てる可能性が高まる。仮に敗北しても比例復活で救われる可能性が高い。地元の有権者から少々嫌われても、総裁や幹事長に気に入られ、党公認を得ることが最重要課題となったのだ。

自民党の国会議員はかくして上司に忠実なサラリーマン議員と化し、地元活動を疎かにするようになった。

一度は自民党を離党し、数多くの政党を渡り歩いて自民党に復党し、歴代最長の幹事長となった二階氏。常に地元の政治基盤を強固にしてきたことが、その政治遍歴を支えてきたのだろう。「有権者より上司」に眼を向ける今の国会議員たちへの苦言には、それなりの説得力がある。

続いて質疑応答に入ったが、ここから先は二階氏の傲慢さが前面に出る展開となった。

政倫審出席を拒んだことや離党の意思がないことなど、嫌な質問を投げかけられると、自らは答えず、隣に立つ最側近の林幹雄衆院議員が代弁する展開となった。このあたりは今の時代に対応できない「老害」ぶりを曝け出したといっていい。

そのなかで印象的だったのは、「次の衆院選を機に引退ということでよいのか」という質問に対する態度だった。林氏がおおきくうなずいた途端、二階氏は急に口を開き、「それは地元の皆さんがお決めになることだ」と否定したのだ。

衆院解散まで何が起きるかわからない。今の時点で早々に「政界引退へ」とは報道させるわけにはいかない。最後の最後まで影響力維持に躍起になる姿は、老獪政治家そのものである。

岸田首相が裏金事件で一斉処分に踏み切る方針を固めたことが不出馬表明に影響したのかという質問に対しても自ら答え、「影響ありません。自ら決めたことです」と言い切った。影響がないわけがないのだが、それを認めるわけにはいかないという強い意思表示である。

記者会見の最終盤で、不出馬を決断するにあたり年齢の問題も考慮したのかと問われると、二階氏は「年齢の制限があるか? お前もその歳がくるんだよ。ばか野郎」と言葉を荒げた。この映像が広く報じられ、二階氏の傲慢ぶりを振り撒くかたちで「引退会見」は終了した。老獪政治家が時代に即さなくなったことを端的に示す幕引きとなった。

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