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立憲民主党の新代表に野田佳彦元首相!財務省との連携路線が強まる 自民党総裁選で本命に浮上した石破茂氏にはさらなる追い風か 将来的には消費税増税を旗印とした大連立の可能性も

立憲民主党代表選(9月23日投開票)に野田佳彦元首相が勝利した。立憲創始者で前代表の枝野幸男氏、現職代表の泉健太氏、新人議員の吉田晴美氏を破った。

同時並行で行われている自民党総裁選で本命視された小泉進次郎氏の刷新感に対抗し、重厚感・安定感のある野田氏を推す空気が立憲民主党内で広がった。第一回投票で過半数には達しなかったものの、決選投票で枝野氏を振り切り、想定通りのシナリオで勝利したといっていい。

一方、自民党総裁選では小泉氏が失速し、石破茂氏が本命に浮上してきた。石破氏も実績や経験を売りにしており、野田氏とかぶるところがある。政権与党としては野党との対立軸を薄めたほうが解散総選挙をしのぎやすい。野田氏の勝利は石破氏の総裁レースを後押しする可能性がある。

野田氏は当選後のあいさつで「心を合わせて打倒自民党へ向かっていきたい。本気で政権をとりにいく覚悟だ」と述べたうえ、自民党総裁選で誰が勝利しても10月1日には臨時国会が召集され、解散総選挙が早期に実施されると指摘。新体制の発足を急ぐ必要があるとして「明日午前までには人事の骨格を決める」と宣言した。

代表選が筋書き通りの展開に終わり、すでに固めていた人事構想に従って執行部を発足させるのだろう。

幹事長には野田最側近の安住淳国対委員長が有力だ。安住氏は通常国会で裏金事件をめぐる質疑に野田氏を何度も起用し、野田待望論を醸成してきた。選対にも国対にも通じており、幹事長候補の筆頭だ。民主党政権では野田氏から財務相を受け継いだ。野田氏と並ぶ大物財務族議員だ。野田ー安住体制になれば、立憲民主党の緊縮財政路線はいっそう強固になるだろう。

政調会長に有力なのは、当選1回の吉田晴美氏だ。吉田氏は推薦人20人を集めるのに難航したが、土壇場で減税を掲げる江田憲司氏との一本化が実現し、出馬にこぎつけた。ただ、当初から推薦人のなかには野田側近議員も含まれていた。野田氏は自分自身に対する「昔の名前」批判をかわすためにも、当初から吉田氏を代表選に出馬させて党執行部に抜擢する構想を描いていたに違いない。

選挙対策委員長に有力なのは、小沢一郎氏である。民主党政権では消費税増税を進める野田氏に反発して離党した因縁がある。しかし今回の代表選では政権交代を目指して和解し、野田氏勝利への流れをつくった。小沢氏も80歳を超えて政治力に陰りがみえ、かつての反小沢勢力の警戒感も和らいでいる。とはいえ「選挙のオザワ」への期待感は高く、選対委員長に起用して政権交代の機運を盛り上げるのは効果的だ。

決選投票を争った枝野氏は代表代行ではないか。地方議員を中心に創始者である枝野氏には強固な支持基盤があり、総選挙前に挙党一致を示すには執行部から外すわけにはいかない。

大物財務族の野田氏の代表就任で、立憲民主党はますます緊縮財政志向を強めるだろう。自民党総裁に同じ緊縮財政路線の石破茂氏が就任すれば、来年夏の参院選後に消費税増税を旗印にした大連立構想が持ち上がる可能性もある。

野田氏は代表選の決選投票前の演説で「政と官の信頼」を強調した。民主党政権の失敗は官僚と対立したことになるという認識に基づく発言だ。最終的には財務省と連携して消費税増税に舵を切ったことは「成功」と位置付けているのである。

私はそうは思わない。民主党が総選挙で消費税増税を約束していないにもかかわらず、政権獲得後に財務省と組んで消費税増税を進めた「裏切り」こそ、民主党政権の失敗の本質であると考えるからだ。官僚と対立したことが失敗だったのではなく、官僚に丸め込まれて国民を裏切ったことが失敗だったのだ。

野田氏が民主党政権の失敗の本質を直視せず、消費税増税は成功だったと評価している限り、仮に野田政権が誕生しても再び同じ過ちを繰り返すと多くの有権者は疑うだろう。それでは立憲民主党への期待感は膨らまない。

野田氏は代表選で共産党やれいわ新選組との共闘の柱だった消費税減税を否定した。これにより、れいわ新選組との決別は決定的だ。さらに野党共闘の要だった安保法制反対についても柔軟な姿勢に転じた。共産党は早くも反発しており、共産党も離反する見通しである。

一方、維新や国民民主党はこのところ失速しており、野田氏の代表就任を機に、目前に迫る総選挙にむけて候補者一本化が進む可能性がある。

立憲民主党の代表が野田氏に決まったことで、次の焦点は、自民党総裁選だ。

野田氏としては、右派の高市早苗氏が最も戦いやすいだろう。高市氏は自民党員の人気は高いが、一般世論の中間層には警戒感もあり、穏健保守の野田氏が浸透する余地がでてくる。

小泉進次郎氏が勝利した場合は、国民人気では野田氏は劣勢だ。しかし小泉氏は実績不足による不安定感が懸念され、ボロが出れば野田氏の安定感が引き立つ可能性もある。小泉氏の自滅に期待する展開となろう。

最も戦いにくいのは、石破氏だ。実績や安定感の部分で重なり合い、対立軸をつくりにくく、立憲民主党が埋没する恐れがある。一方で、政策面では連携しやすく、来年夏の参院選が終われば消費税増税をはじめ与野党の政策協議を進めることで大連立を含む政界再編を仕掛ける展開もあるかもしれない。

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