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能登半島地震から1か月でボランティアは延べ2739人、ボランティア元年の阪神大震災の62万人と大きな差〜「多くのアマ市民の自発的参加」から「行政管理下のプロ集団の活動」へ変質〜初期段階で現地入り自粛を煽り、ボランテイア機運に水を差した政治家たちの責任

能登半島地震でボランティア活動をしているのは震災発生後1ヶ月で延べ2739人にとどまり、阪神大震災では延べ62万人だったーーと神戸新聞が報じている。初期段階で「現場を混乱させる」として現地入りを自粛するムードが広がり、SNSで現地入りした人々を批判する投稿が続出して萎縮ムードが広がったことが原因と分析している。

阪神大震災が発生した1995年は「ボランティア元年」と言われた。それから29年、能登半島へのアクセスは阪神より難しいとはいえ、日本社会のボランティア活動を取り巻く状況は「市民の自発的参加」から「行政の管理下での活動」に激変している模様だ。

被災ボランティアは、被災地の現状を心を痛めて「何ができることがあるのなら」という思いで駆けつける「アマ」ではなく、ボランティア経験と知識を身につけた「プロ」が行うものだという認識が広がっているといえるかもしれない。市民社会のあり方そのものを問う問題といえるだろう。

私は1995年の阪神大震災発生時は朝日新聞記者の1年生で、茨城県のつくば支局に勤務していた。神戸市に生まれて尼崎市で育ったこともあり、ただちに手を挙げて現地取材に入った。

当時は学生をはじめ「アマ」のボランティアが多数駆けつけた。全員が組織化されて活動しているとはいえなかったが、それぞれが「自分に何かできることはあるか」という思いで現地を駆け回っていた。被災者の人々にとっても各地から若者が多数集まってくることは大きな励みになっているようにみえた。

能登半島地震でボランティア活動の自粛ムードを広げた背景には、災害ボランティア経験が豊富なれいわ新選組の山本太郎代表が初期に現地入りしたことに対して、日本維新の会の音喜多駿政調会長がSNSで「何やってんだよ、本当に」などと激しく批判し、与野党にも山本代表の現地入りを疑問視する風潮が広がったことがある。

さらに自民、公明、立憲、維新、国民、共産の与野党6党首は当初、現地視察を自粛することを申し合わせ、与野党国会議員が現地入りを控えるムードが一気に広がった。ボランティアが現地に向かえば交通渋滞が発生して災害物資の運搬などに大きな支障が出るという認識が一気に拡散したのだ。

ところが、現地入りしたジャーナリストらのSNS発信で、交通渋滞はほとんど起きておらず、むしろボランティア不足が深刻である実態が徐々に明らかになってきた。それを受けて政界もようやく動き出し、岸田文雄首相や馳浩石川県知事が震災発生に2週間後にようやく現地視察を実施したという経緯がある。

だが、被災地の衝撃的な映像が伝わってボランティアへの機運が高まる初期段階で「自粛ムード」が広がった影響は計り知れない。発生から1か月以上が経ち、ここから改めてボランティアへの機運を高めるのは容易ではなかろう。

私の被災地取材経験では、被災者の人々が最も恐れているのは「孤立」である。日本社会から見放されていくのではないかという彼らの「恐怖」を何よりもやわらげるのは、やはりボランティアをはじめ多くの人々が元気を訪れ、言葉をかわし、手を握ることであると思う。

そのような圧倒的多数の「アマ」たちのボランティア機運に水を差した当初のSNS上の言論を煽った政治家や著名人たちはどう考えているのか。さらに山本代表の現地入りを批判し、ボランティア自粛ムードを煽った政治家や言論人たちは、この事態をどう受け止めているのだろうか。

まずは、現地視察の自粛をもうしあわせた与野党6党首が、その判断が正しかったのかを自己総括し、ボランティア不足の現状にどう対処するつもりなのかを説明すべきであろう。

岸田首相ら政治指導者たちは、震災発生後にボランティア参加を積極的に訴え、自分たちも真っ先に現地入りして被災者を直接励ますべきだったと私は思っている。

今回の政治家たちの振る舞いは、ボランティアというものは行政が主導して行う「プロ」たちの専売特許で、経験や知識に乏しい「アマ」が近づく場所ではないという歪んだ認識を流布してしまった点において、取り返しのつかない失態だった。市民社会の成熟を妨げた政治責任は極めて大きい。

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