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安倍ー菅ー維新が仕掛けた「核兵器政局」を迎え撃つ岸田首相。さて、公明、立憲、国民はどっちにつく?

ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、日本政界では中国脅威論を強調して軍備拡張を唱える声が強まっている。

ロシア脅威論に対応して軍備増強を進めたウクライナがロシアとの軍事的緊張を自ら高め、最終的にロシア軍の侵攻を招いてしまった「ウクライナ外交の失敗」を日本は繰り返してはならない。私は前回記事でその点を強調した。

欧米vsロシアの主戦場と化したウクライナの失敗に学べ!日本の軍備増強は日本列島を米中対立の主戦場にする愚策だ

きょうは日本政界で高まる軍備増強論、なかでも非核三原則を見直して米国核兵器の国内配備を検討することを打ち上げた安倍晋三元首相の「核兵器政局」の仕掛けについて分析を進めていこう。

安倍氏がロシア軍のウクライナ侵攻に関連し、NATO加盟国の一部が採用している「核共有(核シェアリング)」を日本でも議論すべきだという考えを示したのは2月27日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で日本維新の会を創設した橋下徹氏との対談でのことだった。

口火を切ったのは橋下氏だった。「ウクライナ情勢を見てつくづく思ったのは、自分たちの国を守る力が絶対に必要だということ。ウクライナは今それで本当に苦労している。日本がいきなり核を保有するのは現実的でないにせよ、非核三原則の『持ち込ませず』は、米国と共同で(見直す)という議論をしていく。自民党はちょっと腰が引けている」と指摘したうえ、「この話をすると、一部メディアから思いきりたたかれるが、次の参院選でしっかり争点にしてほしい。核というものを考えていくのか、いかないのか。選挙で問うてもらいたい」と安倍氏に問いかけた。

安倍氏は「核の問題は、NATOでもドイツ、ベルギー、オランダ、イタリアは核シェアリング(核共有)をしている。自国に米国の核を置き、それを(航空機で)落としに行くのはそれぞれの国だ。日本は非核三原則があるが、世界はどのように安全が守られているかという現実について議論していくことをタブー視してはならない」と同調。そのうえで「かつてウクライナは世界第3位の核保有国だった。ブダペスト覚書で核を放棄する代わりに、ロシア、米国、英国が安全を保障することになっていたが、反故にされてしまった。もしあのとき一部戦術核を残して活用できるようになっていれば、どうだったかという議論が今行われている」と指摘し、「この(ウクライナの)現実に、日本国民の命、日本国をどうすれば守れるかについては、さまざまな選択肢をしっかりと視野に入れて議論するべきだ」と語った。

安倍氏は岸田政権発足後、高市早苗氏の幹事長起用などの人事案を退けられたうえ、長年の政敵である林芳正氏が外相に抜擢され、影響力の低下が指摘されている。岸田政権最大のキングメーカーである麻生太郎副総裁との盟友関係も軋み始めた。そこで一時は関係が冷え切っていた菅義偉前首相と再び手を握り、岸田政権への揺さぶりを強めている。ウクライナ情勢の緊迫を受けて、ハト派・宏池会を率いる岸田文雄首相や林外相への「先制攻撃」として非核三原則の見直し論を打ち上げたとみていい。

ここで重要なのは、この議論の口火を切ったのが維新創設者の橋下氏であったことだ。維新を率いる松井一郎代表と菅氏は橋下氏を大阪府知事選に擁立して以来の盟友関係にあり、菅政権が倒れて岸田政権が発足した後、維新は非主流派に転落した菅氏と連携して岸田政権批判を強めてきた。橋下氏の非核三原則見直し案に安倍氏が同調した経緯からは、安倍ー菅ー維新ラインが安全保障政策で岸田政権包囲網を築く「核兵器政局」を仕掛けた構図が浮かび上がってくる。

橋下氏がテレビ番組で「自民党はちょっと腰が引けている」「次の参院選でしっかり争点にしてほしい」と訴えたことからは、安全保障論を今夏の参院選に向けた一大政治争点に押し上げ、政局を動かす原動力に仕立てる意図が読み取れる。橋下氏が言う「腰が引けた自民党」とは「ハト派の宏池会が主導する岸田政権」だ。日本維新の会は今夏の参院選で非核三原則の見直しを掲げて岸田政権に挑み、安倍・菅連合が「維新の躍進・岸田自民党の敗北」を側面支援するという絵柄である。

このような見立てを裏付けるように、維新の松井一郎代表(大阪市長)は2月28日、日本国内に米国の核兵器を配備して日米で共同運用する「核共有」について「議論するのは当然だ」と表明。「非核三原則は戦後80年弱の価値観だが、核を持っている国が戦争を仕掛けている。昭和の価値観のまま令和も行くのか。米国の原子力潜水艦をリースしてもらうというような議論もすべきだ」と踏み込んだ。菅氏も3月2日のインターネット番組収録で「日本は(非核)三原則は決めているが、議論はしてもおかしくない」と続いたのである。

この「核共有」に対し、岸田首相は3月2日の国会答弁で、日本には非核三原則があるとして「政府として認めることは難しい。議論することは考えていない」と全面的に否定した。議論すること自体を打ち消す強い姿勢で安倍氏らが仕掛けた「核兵器政局」に対抗したのだ。戦後日本のハト派路線を主導した老舗派閥・宏池会の第9代会長であり、被爆地広島の選出でもある岸田首相にとって、非核三原則の見直しは「議論」の土俵に乗ることさえも避けたいテーマなのだ。

非核三原則見直しの提起で岸田政権包囲網をめざす安倍ー菅ー維新と、真っ向から対抗する岸田首相。ロシア軍のウクライナ侵攻は日本政界の対決構図をくっきり浮かび上がらせた。さて、このどちらにつくのか。与野党政治家の非核三原則をめぐる議論に注目すれば、政局の対決構図がいっそうはっきり見えてくる。

麻生副総裁は今のところ静観しているようだ。麻生氏はタカ派政治家の印象が強いが、彼が現時点で描く野望は麻生派、岸田派、谷垣グループが結集して安倍派を上回る「大宏池会」を結成することである。非核三原則見直し議論を否定して安倍氏との緊張関係を強めることは避けつつも「大宏池会」の枠組みを優先して安保強硬論が政治争点に浮上するのは避けたいところだ。

自民党の茂木敏充幹事長は記者会見で、安倍氏の発言について「日本が核共有すべきだという発言とは私は受け取っていない」と語った。記者団から「安倍氏は『タブー視せずに議論していくべきだ』という意見だった」と問われると「それは安倍さんに聞いてください」と答えた。非核三原則の見直し論には与しない岸田首相と歩調をあわせた格好だ。茂木氏は安倍・麻生両氏と近いとして幹事長に起用されたが、幹事長就任後は麻生ー岸田ラインとの関係を強化しており、安倍氏と一線を画す姿勢を鮮明にした格好だ。麻生氏の意向を代弁したといえるのではないか。

これに対し、安倍氏を後ろ盾とする高市早苗政調会長は「国民の安全が危機的状況になった場合に限り、非核三原則の『持ち込ませず』の例外を作るかどうかについての議論を封じ込めるべきではない」と主張し、安倍氏とぴったり歩調をあわせた。高市氏にとってこれ以外の選択肢はない。

注目すべきは自民党の福田達夫総務会長の態度である。核共有について「議論は回避すべきではない。それが国民と国家を守るのであれば、どんな議論も避けてはいけない」と述べ、安倍氏に歩調をあわせたのだ。福田氏は安倍派に属するが、安倍派は安倍系と福田系の対立の歴史があり、福田氏は昨年の自民党総裁選で安倍氏が推す高市氏ではなく岸田氏を支持。岸田首相が福田氏を総務会長に一本釣りしたのは、安倍氏の足元を揺さぶる狙いだった。実際、福田氏は安倍派内で「ポスト安倍」に急浮上しており、安倍氏の派閥内の求心力は陰っていた。福田氏が非核三原則をめぐり安倍氏と歩調をあわせたのは、岸田内閣の支持率が下降傾向に入ったことを踏まえて安倍氏とのバランスを取ったのか、そうではなくてタカ派色が強い安倍派内の空気に寄り添うことで支持基盤を固めようとしているのか、定かではない。いずれにしろ福田氏の「核兵器政局」への対応は今後注目すべきだろう。

もうひとり注目すべきは石破茂元幹事長である。石破氏は3月2日に石破派を「グループ」に移行して初めての勉強会を開いた。この場で「非核三原則が日本の抑止力にどれだけ寄与しているのか検証が必要だ」と述べ、核共有の議論に賛意を示したのだ。生粋の防衛族である石破氏の従来の持論を主張したものなのか、安倍ー菅ラインの「核兵器政局」に便乗したものなのか。石破氏は安倍氏や麻生氏の「天敵」である一方、菅氏とは一定の関係を維持している。岸田政権ですっかり薄れた存在感の回復を狙って、「核兵器政局」を機に菅氏と連携を強化して岸田政権包囲網に加わる可能性がある。この勉強会はウクライナ情勢をテーマに石破氏が講演する形で行われ、グループ所属議員のほか、他派閥からも合わせて50人余りが参加し、石破氏は一定の手応えを感じたようだ。

つづいて、他党の反応をみていこう。

公明党の山口那津男代表は記者会見で「公明党は非核三原則をつくってきた立場だ。これからも三原則を堅持すべきで『作らず、持たず、持ち込ませず』という姿勢を貫いていくことが大事だ。岸田総理大臣もわれわれと同じ考えだと思う」と強調した。公明党の立場として当然の発言といえるが、政局的には「意外」とも受け取れる。なぜなら公明党はロシア軍がウクライナに侵攻する前まで、今夏の参院選で自民党との「相互推薦」を見送る方針を示し、岸田ー麻生ー茂木ラインと距離を置く姿勢を鮮明にしていたからだ。岸田政権で非主流派に転じた菅氏らと連携し、岸田政権を揺さぶる側に立っていたのである。

公明党が政局的立場を優先するのなら、今回の「非核三原則見直し論」にも同調しなければならない。しかし「平和」を掲げる公明党にとってそれは相当ハードルが高い選択であり、非核三原則についてはさすがに「党是」を優先するしかなかったのだろう。公明党の姿勢は政局的立場と政策的主張が矛盾し、参院選に向けた政党戦略が迷走していることを端的に物語っている。ウクライナ情勢の緊迫は公明党にとって想定外の難題であり、安倍ー菅ー維新ラインが仕掛けた「核兵器政局」への対応に頭を痛める局面が続きそうだ。

新年度予算案に賛成して岸田政権へ急接近する国民民主党の玉木雄一郎代表は、核共有について「非核三原則や平和国家の歩みからすると、一足飛びの議論だ。唯一の戦争被爆国として核廃絶という大きな目標を掲げてやっていくべきだ」と慎重な姿勢をみせる一方、「どのような形であれば、憲法が掲げる平和主義と反せずに核抑止が機能するのか、現実的な議論を積み重ねていくことが大事だ。特にこれまで議論を避けてきた、非核三原則の『持ち込ませず』の部分が、一体何を意味するのか、日米の具体的なオペレーションの在り方を含め冷静な議論を始めるべきだ」とも述べた。当面は岸田首相と共同歩調をとることで「与党入り」を目指すことを最優先にしながらも、将来的な安保政策の選択肢は縛りたくないという思惑も透けて見える発言といえるだろう。

最後に、低迷する野党第一党の立憲民主党について。

泉健太代表は「核はお互い持つべきでない兵器だ。特に日本は被爆国なので、われわれが持つ、持ち込ませるという態度ではいけない。なんだって議論はよい、というのは違う」と議論の必要性を明確に否定した。小川淳也政調会長も「非核三原則は国是だ」という立場だ。

立憲民主党は岸田政権に接近する連合や国民民主党の背中を追いかけつつ、菅氏ら自民党非主流派と連携する維新とも連携を探り、一方で昨年の衆院選で「野党共闘」した共産党との連携は白紙に戻し、野党第一党としてリーダーシップを発揮するどころか孤立感を深める状態だった。それにともない、いったいどんな社会像を目指すのか、政党としての立ち位置も不透明感を増していた。そのなかで勃発した「核兵器政局」は久しぶりに反対姿勢を鮮明にできるテーマといえる。政党戦略を立て直す機会となるかどうか。

橋下氏が主張したように「核兵器政局」が参院選の大きな争点に浮上すれば、立憲としては維新と手を切るきっかけになるかもしれない。一方、自民党内の岸田ー麻生ー茂木ラインと安倍ー菅ラインの対立が激化すれば、岸田首相は安倍ー菅ラインが連携する維新への対抗カードとして連合や国民民主党の「与党入り」を急ぐだろう。そのとき、連合と国民民主党の背中を追いかけている立憲民主党内にも同調する動きが広がる可能性がある。

立憲民主党に所属する議員の選択肢は三つ。「岸田政権ー連合・国民民主」との連携か、「安倍・菅両氏ら自民党非主流派ー維新」との連携か、「共産・れいわ・社民との野党共闘」の復活か。自民党内の権力闘争である「核兵器政局」が野党再編の引き金を引く展開は十分にある。公明党と並んで立ち位置が不鮮明な立憲民主党の動向に注目したい。

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