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議論されなかった「政権交代への道筋」〜書生論に終始し、想定通りに終わった立憲民主党代表選

立憲民主党代表選は泉健太氏(47、京都3区)が決選投票で逢坂誠二氏(62、北海道8区)を破り、新代表に選ばれた。

第一回投票では泉氏、逢坂氏、小川淳也氏(50、香川1区)、西村智奈美氏(54、新潟1区)の順だったが、いずれも過半数には届かず、決選投票にもつれこんだ。

泉氏は民進党→希望の党→国民民主党を経て立憲民主党に合流。立憲民主党を旗揚げした枝野幸男代表との代表選にいわば「国民民主党側の代表」として挑み、敗北したものの、政調会長に起用されていた。

今回の代表選では「国民民主党組」を手堅くまとめるとともに、小沢一郎氏の支援も取り付けて議員票で優位に立った。立憲民主党を旗揚げした枝野代表ー福山哲郎幹事長体制下で埋没していた「国民民主党組」や共産党との共闘に批判的な「連合の組織内議員」らの支持が泉氏に集まったとみられる。

泉氏は地方議員や党員・サポーターズの投票も手堅く集めた。立憲民主党の党員らは労組関係者らが多く、一般世論を映し出しているとは限らない。

1600人以上が回答したSAMEJIMA TIMESのアンケート調査は、①小川淳也氏(31%)②適任者なし(26%)③西村智奈美氏(22%)④逢坂誠二氏(14%)⑤泉健太氏(7%)の順だった。

アンケート調査は世論を正確に表しているとはいえないものの、アンケートでは最下位の泉氏がトップで、下から二番目の逢坂氏が第二位という代表選結果は、立憲民主党の党内世論が世間の感覚とズレていることを物語っているようにもみえる。

私は代表選が始まる当初の記事『立憲民主党は来年夏の参院選で勝てる「新味ある顔」を新代表に選べ!』で、泉氏を「本命」、逢坂氏を「対抗馬」と予測した。まさにそれが的中する結果となった。

世論を巻き込むシナリオなき劇的な代表選レースとはならず、立憲民主党に多少の情報網を持っている人ならば十分に「票読み」できる範囲の穏当な結果に落ち着いたといえる。

衆院選惨敗を受け、党再建の契機とすべき代表選のあり方として、はたしてこれで良かったのか。世論を引き寄せるドラマは最後まで起きなかった。

11月30日の代表選では、4候補が国会議員投票の前に最後の演説をした。決選投票の直前には勝ち残った泉氏と逢坂氏が二回目の演説をした。これは民主党時代からの代表選と同じ進行である。

ちなみに自民党総裁選には候補者が投票目前に最後の演説をするという慣行はない。演説よりも水面下の多数派工作を重視する「総裁選の本音」が如実に現れている。これに対し、民主党代表選には最後の演説が勝敗を決するという「伝統」がある。この代表選の進行を私はとても気に入っている。

だが、今回の4候補の「最後の演説」は、正直言って拍子抜けした。自らの人となりや人間性をアピールする内容が相次いだからだ。まるで国政初挑戦の4人が自らの選挙区の有権者に政治家を志望した動機を訴えているかのようだった。

いうまでもなく今回の代表選は、衆院選の大惨敗を受けたものである。最大の争点は「なぜ衆院選に惨敗したのか」のはずだ。4候補の政治家としての歩みは二の次でいい。

惨敗の要因をしっかり総括したうえで、野党第一党として、次の衆院選での政権交代を目指してどんな道筋を描くのか。私はそのような具体的な政治論が大激論されるとばかり思っていたが、12日間にわたる代表選でそれはほとんど議題にのぼらず、4候補の最後の演説でもほとんど言及されなかった。「どんな政治・どんな政党をめざすのか」という書生論に終始し、政権奪取への構想や具体的な戦略を競い合う「大人の政治論」はほとんど交わされなかったのである。

有権者の価値観は多様化する現代、選挙制度がどんなに二大政党に有利だとしても、もはや立憲民主党に単独で政権を担う力はない。本気で政権交代をめざすなら、立憲民主党のあり方を議論するだけではまったく足りない。野党全体のリーダーとして、野党全体で政権交代を実現させる道筋を描かなければ、政権交代のリアリズムはいつまでたっても高まらない。

それなのに、代表選では野党共闘のあり方について、明確な方向性はまったく示されなかったのである。立憲民主党代表選が他の野党の代表選よりも大きく扱われるのは、野党第一党のリーダーは「野党全体の首相候補」になるからだ。政権交代を目指さないのなら、連日報道するほどのことはないのである。

泉氏は代表選勝利後の記者会見で共産党との「閣外協力」合意について「衆院選に向けてかわしたものと理解している。現時点で何かが存在しているということではない」と述べ、リセットする姿勢を示した。それでは、野党共闘に代わる「政権交代の構想」をどう描くのか。連合の意向を受け、国民民主党と寄りを戻して「民主党」「民進党」を復活させ「単独政権」を目指すということなのか。

本来はそのようなことを代表選で議論すべきではなかったのか。

47歳の若き代表の誕生は歓迎したい。世代交代で党刷新を進めるのも良いだろう。しかし、今回の代表選をみていると、泉体制のもとで立憲民主党が野党第一党として新機軸を打ち出すと感じることはできなかった。

来年夏の参院選では、新自由主義を鮮明に掲げる日本維新の会と超積極財政を鮮明に掲げるれいわ新選組の「対決」に注目が集まり、立憲民主党はますます埋没していくのではないかーーそんな予感が強まる代表選だったと思う。

泉・立憲民主党については幹事長人事など新体制が決まった段階で改めて考察することにしたい。

最後に私の同級生である小川淳也氏について。

映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」で一躍有名になったものの、小川氏の政治家像は十分に知られていなかった。今回の代表選出馬が実現し、「小川淳也像」が広く知られたことは政治家として大きな一歩といえるだろう。一方で推薦人集めに苦労して党重鎮らの力に頼った結果、各方面に配慮するあまり政策的主張が不鮮明になるなどの課題も見えた。

さらに小川氏の最大の売りである「誠実さ」や「純粋な涙」というものが、ひとりの野党政治家としては「魅力」に映る場合があるにしても、野党第一党のリーダーとして首相を目指す政治家としてはどうなのかという新たな課題も浮かんだようにおもう。この点も機会があれば考察を深めたいと思う。

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