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『小沢vs野田で立憲分裂!密かに進む「自公立」連立』に大きな反響〜「政治家が口にしないこと」に踏み込む政局先読み解説の意義

立憲民主党は日本維新の会に野党第一党を奪われる危機感から、9月解散・総選挙をにらんだ路線対立が激化している。泉健太代表に総選挙前の辞任を迫る動きが強まるだろう。

反自民票の受け皿として政権批判票を集中させるために維新や共産との「野党候補の一本化」を訴える小沢一郎氏や小川淳也氏ら反主流派に対し、野田佳彦元首相や枝野幸男前代表、安住淳国対委員長ら現主流派は維新とも共産とも共闘せず「立憲単独」で総選挙に臨むべきだとの立場だ。

立憲単独の場合、野党一本化候補として反自民票を独り占めすることで辛うじて当選してきた立憲議員の多くは落選必至だ。

小沢氏らのもとへ駆け込んだ立憲議員の多くは「せめて自分の選挙区だけには維新や共産は候補者擁立を見送ってほしい」と願っている。小沢氏の真の狙いは、落選に怯える立憲議員たちを結集させて「泉おろし」を仕掛けることだろう。

一方、野田氏ら主流派は泉体制のまま立憲単独で総選挙に臨み、選挙地盤の弱い立憲議員が落選してもやむを得ない、いやむしろそのほうが好ましいとさえ考えている。なぜなら、自力で勝ち抜いた議員だけが生き残る「コア立憲民主党」として、総選挙後に野田氏に代表を切り替えて岸田政権への連立入りを模索しているからだーーそのような分析をユーチューブ【5分解説】で配信したところ、賛否両論、大きな反響をいただいた。

批判的な意見で多かったのは、「野田氏らは連立入りを目指すなど言っていない」「小川氏らは倒閣運動ではないと言っている」などという内容だった。

私の分析の是非はさておき、「〇〇氏はそう言っていない」という反論についてはここでしっかりと回答しておきたい。ここは政治取材の肝だ。

政治家は自らに有利な政局の流れをつくるため、マスコミ各社の政治部記者をつかって世論誘導する。自分の都合の良い情報は大袈裟に発信するし、不都合な情報はできる限り伏せる。意図的にウソをつくことさえある。

政治家を取材すれば記事が書けるというものではない。むしろ取材することで騙され、読者をミスリードしてしまうことのほうが多い。

政治取材の現場で横行している「オフレコ取材」は、情報操作の格好の場だ。記者会見やマスコミ出演ではウソをつくことに慎重になっても、オフレコ取材ではウソをつくことへの抵抗感が極端に下がるものだ。

それら政治家の発言を濾過して真偽を検証し、他の政治家の発言、過去の経緯や現在の政治情勢などと照らし合わせ、これからの政局動向を複眼的に分析するのが、プロの政治記者(政治ジャーナリスト)の仕事である。どんなに取材してもすべての政治家の発言はウソやゴマカシだらけであるという前提で、それらを深く吟味し、読み解かなければならない。

今の立憲政局でいうと、小沢氏が「野党一本化」という旗を掲げて落選の不安に怯える衆院議員たちを引き寄せ数を確保し、小川氏を担いで「泉おろし」を仕掛けることを画策しているのに対抗し、野田氏らは財務省を介して岸田政権の「増税路線」に協調し、さらには総選挙後に連立入りすることを探っているーーそのような本音を当事者たちは決して口にしない。側近議員にも親しい記者にも打ち明けない。むしろ身近にいる者を欺くことで世論操作することが多い。

それでも小沢氏や野田氏ら主要プレーヤーが置かれた政治状況、過去の言動から読み取れる思考回路、最近の政治的行動、真偽はともかく最近のオンオフの発言の数々ーーなどから総合的に分析し、彼らの胸の内を読み解く必要がある。

民主党政権を崩壊させた「小沢vs反小沢」の党内抗争や、現主流派による「小沢・小川」外し、野田氏や安住氏と財務省・宏池会(岸田派)との10年以上にわたる強固なパイプ、岸田政権下の自民・森山裕選対委員長と立憲・安住国対委員長の裏交渉なども当然のことながら政局を読み込む重要な材料となる。

政局取材をはじめてかれこれ四半世紀になるが、政治家の心理を読み込み、彼らが描く政局の流れはこうだという結論をつかむには、相当な政局取材の蓄積と人間への洞察力が不可欠であると私は確信している。政治記者が育つには相当な歳月が必要なのだ。

そこまで取材と洞察を尽くしても、政局の読みを間違えることはある。政治情勢は刻一刻と移ろっていくから、当事者である政治家たちが心変わりすることも少なくない。政局記事を発表することで、当事者である政治家たちが密かに温めてきた政局構想を修正することもある。

それでも、水面下で進行している政局構想を炙り出し、世の中に伝えることには、とても大きな意義がある。なぜなら、政治家が政局について本心を打ち明ける時は、もう政局は動き始めており、その時点から有権者が賛否を主張しても、もはやその動きは止まらないからだ。

権力闘争とは、そういうものである。いったん仕掛けると、もはや後戻りはできない。戦争は開戦前に防がなければならないのと同じように、「悪い政局」は動き出す前に構想段階でつぶさなければならないのだ。

だからこそ、政治記者(政治ジャーナリスト)は、政局が動き出す前に、政治家の本心を覗き込んで、彼らが描く政局を自分の責任で分析・解説し、あらかじめ有権者に提示することで、その是非をめぐる議論を喚起する責務がある。そのような事前報道を受けて、はじめて政治家は自らの構想を見つめ直し、「これでは世論の支持を得られない」と判断した場合には軌道修正するのである。

現在の政治取材は単に政治家の発言を垂れ流すか、政局が動き出した後に表面的事象を淡々と伝えるばかりで、政局が動き出す前に提示して議論を喚起する役割を放棄している。

とりわけ解散総選挙前の政局は急変する。それぞれの衆院議員が自らの生き残りをかけて、なりふり構わず動くからだ。

前々回の2017年総選挙では、野党第一党の民進党が小池百合子東京都知事が旗揚げした希望の党に合流するという野党再編が勃発した。この政局を一か月前に予想したマスコミ報道は皆無であり、世論はこれをどう受け止めてよいのか定まらず、一時は希望の党への期待が高まって政権交代の機運さえ芽生えながら、小池氏が枝野氏らを排除したことをきっかけに一気に冷めて希望の党は急失速するという、目まぐるしい展開をたどったのだった。

あらかじめ希望の党構想が報道されず、世論にもまれることなく抜き打ち的に政局が始まった結果、民進党と希望の党の合流という事態の是非が十分に議論されることがないまま、総選挙になだれ込むドタバタ劇となり、有権者が冷静に投票先を選ぶ機会を奪ってしまったのである。あらかじめこの合流劇を予測する報道があったならば、政局の展開は大きく違っていたことだろう。

前回の2021年総選挙では、立憲、共産、社民、れいわの4党が野党共闘の旗を掲げて小選挙区の候補者を一本化して自公与党に対峙した。

しかし野党第一党の立憲を率いる当時の枝野代表がすべての野党のリーダーとして共闘を取りまとめる最終責任を負うものではなく、政治学者の山口二郎氏らが率いる市民連合が4党の共闘を橋渡しする脆弱な構造だったため、候補者調整では数で勝る立憲が共産やれいわを一方的に押し切るケースが続出した。マスコミはこうした野党共闘の実像を伝えず、表層的にしか報道しなかったため、野党共闘の幻想が野党支持層に浸透し、その後の混迷につながった側面は否めない。

立憲では衆院選惨敗を受けて野党共闘の見直し論が台頭し、枝野氏が「共通公約として消費税減税を掲げたのは間違いだった」と公言するに至る。共産党の志位和夫委員長は「歴史的な第一歩」として野党共闘の政治的意義をふりまいただけに、立憲にそっぽを向かれても後戻りできず、迷走状態だ。れいわと立憲の確執は深まり、れいわの櫛渕万里衆院議員の懲罰に立憲が賛成するほどまで対立は決定的になった。すべての原因は、そもそもの野党共闘の実態がただしく分析・解説されず、それぞれが自分に都合よく解釈していた結果だろう。

政治家が言うことだけを伝え、あるいは、政治家が言わないことを伝えないという政治報道は、過去2回の総選挙報道をみても、最終的には悲劇をもたらす可能性が極めて高い。

今回の総選挙報道でも、野党再編の行方について、当事者の政治家たちが「口にしないこと」本心を、現在の党内権力構造や過去の経緯、人間関係などを総合的に分析し、彼らが政局を仕掛ける前に報じていくことはとても重要なのである。

政局が動き出してから是非を議論するのではとても間に合わない。政局の急変に追いつかない。先読みの政治解説の意義は、あらかじめ議論を喚起することにある。

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