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全国で最も深い地下鉄六本木駅のエレベーターが故障し1カ月以上停止したまま!製造元の海外企業は日本撤退で交換部品を調達できず!「衰退日本」を映し出す衝撃の出来事を直視しよう!

日本の地下鉄駅で最も深いところにある都営大江戸線六本木駅(東京都港区)で、故障したエレベーターを修理できず、1カ月以上運転停止が続いているーー何とも衝撃的な出来事を毎日新聞が報じている。

日本社会の衰弱を直視し、これからどのような政策を展開していくかを考えるうえでとても貴重な題材であろう。

記事によると、地下1階と地下5階を結ぶエレベーターが突然停止したのは昨年12月17日夜だった。8日前に定期点検した際は異常が見つかっていなかった。都が保守・管理を委託している「東芝エレベータ」(川崎市)が調べたところ、駆動装置に異常が見つかり、部品交換が必要と判明したという。

大江戸線が全線開通した2000年にエレベーターを製造したのは、フィンランドに本拠を置く「コネ社」だった。ところがコネ社はすでに日本から撤退し、交換部品を調達できなかったのだ。

都交通局の担当者は「20年以上前のことで詳しい契約条件は定かではないが、少なくともコネ社の国内撤退は想定していなかった」と説明する、と記事は伝えている。エレベーター故障後、コネ社から代替部品を取り寄せようとしたが、同社は長らく購入時期も在庫の有無も明らかにせず、最近になってようやく調達のメドが立ったと連絡があったという。

他の駅のエレベーターは他社製品に更新されているが、六本木駅では2019年度に更新工事の入札が不調に終わり、コネ社のエレベーターを使い続けていた。

実に論点満載の出来事である。

大江戸線が全線開通したのは2000年。私はその前年に朝日新聞浦和支局から東京本社政治部へ異動し、大江戸線が走る港区で暮らし始めた。

バブル崩壊から10年。地方経済は疲弊し就職氷河期に突入していたものの、都心はマンション建設が相次ぎ、郊外から都心へ回帰する動きが強まっていた。東京はまだまだ活気があった。

地表から最深部まで42メートルある大江戸線六本木駅にコネ社のエレベーターが設置されたのはちょうどそのころである。20世紀末、都心の地下深くを周回する大江戸線の建設は「豊かだった戦後日本」を象徴する大規模プロジェクトだったといえるかもしれない。

あれから20年余。日本社会はデフレが長引き、非正規雇用が急増して賃金は上がらず、大企業や富裕層に有利な税制ばかりが導入されて株価は高騰する一方、庶民に厳しい消費税は増税され、貧富の格差が急拡大した。「結婚したくてもできない男女」が急増して少子高齢化が加速し、人口減社会に突入したのである。

政治はその間、無為無策を続けた。国民のひとりあたりの豊かさで日本はアジア諸国に次々に追い抜かれていった。

私は昨年10月、鮫島タイムスで『賃金は上がらないのに家賃ばかりが高騰する〜金持ちのための街に成り下がった東京から逃げ出す若者たち』という記事を公表した。以下のような書き出しである。

1999年に東京勤務になった時に驚いたのは、地下鉄の銀座線に乗ったときだった。一本やりすごしても2分で次の電車がやってくる。発着時間を調べる必要はまったくない。これは便利だと思ったものだ。長い東京暮らしで「地下鉄は待たずにやってくる」という感覚がいつの間にか身に染み付いた。

この夏、その銀座線のダイヤが改定され、地下鉄の運行本数が大幅に削減された。平日10〜16時と土休日8〜20時は1時間あたり18本から12本へ、朝夕ラッシュ時も1時間あたり最大4本減った(最も本数が多かった朝8時台は30本から26本となった)。

交通機関の変容は、その土地の勢いを如実に映し出す。東京はあきらかに老化し、弱ってきた。六本木駅のエレベーター問題は、私たちが目を背けたい現実を容赦なく可視化しているといっていい。

フィンランドのコネ社が日本から撤退したのは、世界における日本経済の影響力低下を物語っている。ソウルや香港、台湾、シンガポールなどへアジア拠点を移す海外企業は後をたたない。

19年度の入札不調は国内企業の衰弱を映し出している。中小企業は高齢化し、大企業は手っ取り早く目先の利益を出せる事業にしか手を出さなくなった。

それでも私たちは20世紀の経済成長期に作り上げた「遺産」を維持するためのコストを延々と支払い続けなければならない。

トンネル、道路、橋梁、鉄道、ダム、堤防…全国各地の山林を切り開いて作り上げた巨大インフラは老朽化が進み、倒壊・陥落などの事故がときおり報じられるようになった。巨大なリスクを内包する老朽化した原発も日本列島には所狭しと並んでいる。それらの保守・管理だけでも膨大なコストがかかるのに、この国の政府はなお南アルプスを貫通するリニア建設を進め、東日本大震災後の海岸線に長大な堤防を築き、原発の新増設を推し進めようとしているのだ。挙げ句の果てに米国から旧式ミサイルの大量購入を約束する始末である。

これらは単なる「税金の無駄遣い」にとどまらない。それらを保守・管理するためのコストに私たちはこの先延々と苦しめられていくのだ。故障しても交換部品は国内に見当たらず、放置しっぱなしという事態がこれから続出するであろう。安全面からも危険極まりないうえ、日本列島全体が廃墟のような光景に包まれるかもしれない。まさに幽霊列島だ。

それでもこの国の行政は水道など生活インフラの民営化を推し進め、海外企業に売り渡し、「無駄遣いをなくす」「身を切る改革」と胸を張っている。日本のお金は政治家や官僚に一部還流するだけで、あとは海外へ流出していくばかりだ。

朝日新聞社から独立してウェブサイトやユーチューブを舞台に「小さなメディア」を運営して気づいたのは、パソコン・カメラ・ソフトウェアなどデジタル時代に必要不可欠な最先端機材のほとんどを米国やアジア諸国などの外国製に依存しているということだった。かつて日本経済を主導したメーカーはソニーを除いてほとんど存在感がない。価格面どころか技術面で圧倒的に劣っている。最先端商品を製造さえしていないというケースが増えてきた。円安でこれら必要機材の調達コストは急上昇した。

電機と並んで日本経済を牽引した自動車もトヨタをのぞくと国際的な存在感は大きく薄れた。頼みのトヨタも国際標準の電気自動車では大きく出遅れ、将来の国際競争力を悲観視する専門家は少なくない。

この20年、この国の政治は国内経済の低迷と向き合わず、旧態依然たる産業(代表例が原発だ)を保護するため巨額の公金を注ぎ込み、将来にツケを残す大規模プロジェクトを平然と続け(代表例が東京五輪だ)、大企業と富裕層の資産を守るために金融緩和で株価を吊り上げ法人税を減税する一方、庶民への財政出動は渋るばかりか消費税増税を重ねてきた。

その成れの果てがすっかり活力を失った今の日本経済・日本社会である。大企業ばかり保護してきたのに、大企業の国際競争力は軒並み落ちたのだ。

六本木駅のエレベーター問題にはこの20年の日本の病理が凝縮している。じっくり掘り下げるに値する問題だと考え、今日のコラムにした。

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