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私学助成金を廃止し、学生に直接現金給付を!〜相次ぐ私大不祥事をなくす秘策

日本大学板橋病院の建て替えをめぐる脱税・背任事件が注目を集めている。東京地検特捜部に所得税法違反容疑で逮捕された田中英寿・前理事長は政界に幅広い人脈を持ち、「俺が逮捕されるようなことがあれば、今まで政治家に渡した裏金のことも全部ぶちまけてやる」と語っていたとの報道もあり、捜査が政界に波及するのかという視点からの関心も高まっている。

安倍政権以降、繰り返し浮上してきた「官邸権力と検察権力」の歪んだ関係が岸田政権で変化したのかどうかという視点からも、この事件の行方は注視していかなければならない。「官邸べったりの政治部報道」と「検察べったりの社会部報道」が改善されたのかという視点からマスコミ報道を厳しくチェックしていくことも重要だ。

きょうはこの事件はひとまずおき、私立大学で不祥事が相次いでいることを受け、文部科学省が検討している「学校法人のガバナンス(統治)強化案」について考察したい。

朝日新聞デジタルの『私大理事会の権限維持 評議員会に監督権/理事の解任可能に 文科省案、私大側に配慮』(12月14日)によると、文科省は日大アメフト部の悪質タックル問題や東京医科大などの医学部不正入試を受けて7月に学校法人のガバナンス改革を議論する有識者会議を設置。同会議は、教職員ら学内関係者が中心となっている理事会の「歪み」がさまざまな不祥事を生んでいるとして、理事会の権限の大幅縮小を提案した。

ところが、私大側はこれに反発し、私大側と密接な関係にある自民党文部科学部会でも反対論が続出したことから、文科省は有識者会議案をそのまま採用せず、妥協策を検討しているという。

この記事からは、自民党政権の「政官業の癒着」の構図が透けて見えるので、解説してみたい。

自民党の文部科学部会に所属する国会議員は「文教族」といわれる。かつての文教族の大物としては森喜朗元首相や麻生太郎元首相らが有名だ。安倍晋三元首相の最側近である萩生田光一経産相や下村博文前政調会長も有力な文教族である。

文教族の力の源泉のひとつが私学である。私学には巨額の私学助成金が税金から投じられている。文教族は私学助成金の拡大を文科省に迫り、それを勝ち取ることで、私大側から選挙などで支援を受けてきた(日大のような巨大私学はOBや教職員をはじめ幅広いネットワークを持ち政治力も強い)。私学側は文教族を応援することで私学助成金の増額を勝ち取ってきたのである。

それら私学助成金は適正な額なのか、学生の負担軽減に的確に使われているのか、不正に使われていないのかをチェックするのが文科省の役割である。ところが文科省も私学側に教授のイスなど天下りポストなどをあてがわれ「癒着」してきた経緯がある。つまり、文教族の政治家、文科省の官僚、私学の経営者の三者が「私学助成金」という税金を分取ってともに潤うという構図が「政官業の癒着」だ。

これに対し、「規制緩和」を掲げて文教族・文科省・私学の「既得権」に切り込む勢力もある。

安倍政権下で発覚した加計学園疑惑は、安倍氏と親しい新興勢力の加計学園グループが文教族以外の政治家ルートを使って「規制緩和」を掲げて獣医学部新設を進めたという構図であった。この時、規制緩和派の先頭に立っていたのは菅義偉官房長官であり、文教族のドンとして抵抗したのが麻生太郎副総理兼財務相だった。菅氏らは文教族の利権を奪い「新文教族」を形成しようとしたともいえる。「自民党内部の利権争い」から加計学園疑惑が表面化したといっていい。

私がここで指摘したいのは、自民党がお得意の「業界を通じた支援」を中心とした政策を続ける以上、結局は自民党政権内部の「利権争い」が繰り広げられ、どちらが勝っても「政官業の癒着」の構図は温存され、税金の無駄遣いや中抜きはなくならないということだ。

これを抜本的に変える方法がある。「業界を通じた支援」を「個人への直接支援」に転換してしまうのだ。

私学助成金を例にとればわかりやすい。私学助成金は「学生の負担軽減」「授業料の抑制」という大義名分のもと、学校法人に対して税金を支給しているのである。そこに「利権」や「中抜き」が発生する。だから、私学助成金を全廃して、その財源をすべて学生個人に直接現金支給すればいいのだ。いわば「返還不要の奨学金」として学生に配るのである。

配り方はさまざまな視点で議論すればよい。一律給付するやり方もあるし、所得制限を導入するやり方もある。国公立と私立で差をつけるかどうか、地域別に差をつけるかどうかという論点もあろう。その詳細はさておき、まずは学校法人に投入してきた私学助成金をゼロにして、学生に直接給付すれば、「政官業の癒着」の闇に消えてきた巨額の税金が「学生の負担軽減」にもっと効率的に使われることは間違いない。

それで困るのは、文教族の政治家、文科省の官僚、私学経営者だけである。学生は授業料が多少上がっても、それを大幅に上回るお金を国家から直接受け取ることになるだろう。それを授業料に使ってもよし、留学資金に使ってもよし、起業資金に使ってもよし、自由に使えるようにすれば、独創的な学生が続々と現れるのではないか。巨額の税金が「政官業の癒着」に消えゆくより、よほど意味のある税金の使い方だ。

私学のガバナンス改革というのならば、「私学助成金の廃止」と「学生への直接支給」がもっとも効果的だ。なぜ有識者会議はそれを提言しないのか。それは有識者会議のメンバーの多くも「政官業の枠組みの身内」だからである。

私学助成金にとどまらず、ありとあらゆる業界への支援を個人への直接支給に転換すれば、多くの政治腐敗は浄化され、税金はもっと効率良く使われる。農林水産省も、国土交通省も、経済産業省も、厚生労働省も、すべて同じ構図である。

この改革は自民党には絶対にできない。これこそ自民党政治の本丸だからだ。だからこそ、野党に期待したい。ところが野党第一党の立憲民主党からはそのような声は聞かれない。彼らもまた連合などとの関係を通じて「業界」とつながっているのだ。

業界よりも個人を重視する政党、業界を通じた支援ではなく、個人を直接支援する政策を掲げる政党。そのイメージにいちばん近いのは、れいわ新選組だろう。その他の既存政党の多くは何かしらの企業・団体を個人よりも重視しているように思う。

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