政治とマスコミを斬る
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五輪スキージャンプの審判員に「日本人は文句のひとつも言わない」と称賛されたこの国に未来はあるのか?

東京五輪を強行開催したことと朝日新聞はじめ全国紙が横一列で五輪スポンサーとなり礼賛報道を繰り広げたことで、私はオリンピックへの関心がすっかり冷めてしまった。

このため北京五輪の競技はまったく見ていないのだが、ここにきてたいへん気になるニュースが世界を駆け巡っている。スキージャンプ混合団体で、日本の高梨沙羅選手をはじめ世界のトップアスリートの5人が「スーツ規定違反」で失格処分となった事件だ。

日本では高梨選手が涙を流して謝罪し、国内では「高梨選手は悪くない」という世論が高まっている。高梨選手が悔し涙を流す気持ちは痛いほどわかるが、少なくとも国民に向かって涙を流して謝る必要はない。

日の丸を背負って五輪の舞台に立つ選手たちが日本社会の同調圧力に窒息しつつある姿を目の当たりにするとこの国の将来に暗澹たる思いを感じる。「国家対抗戦」の五輪のあり方そのものも「20世紀の遺物」だろう。世界でも日本でも人々の「五輪離れ」は加速していくに違いない。またしても巨額の税金を投じる「札幌五輪」の誘致などもっての外だ。

そんな眼差しでスキージャンプの「失格」報道を流し読みしていたら、Yahoo!ニュース(THE DIGEST)に非常に興味深い記事をみつけた。近年は新聞社の記事でテイクノートすべき内容は激減している。インターネットのほうが「早く安く深く」世界を知ることができる。

それは『「彼女の涙を見たが…」高梨沙羅ら5名を失格にした担当審判員を地元メディアが直撃!「日本人は文句を言わない」【北京五輪】』という記事である。

失格処分にされたのは、高梨(日本)、カタリナ・アルトハウス(ドイツ)、シリエ・オプセット、アンナ オーディン・ストロム(ともにノルウェー)、ダニエラ イラシュコ・シュトルツ(オーストリア)の5人の女子選手。彼女たちをスーツ規定違反とジャッジしたのは、ポーランドのアガ・ボンチフスカ審判員だ。国際スキー連盟(FIS)の役員でもあるという。

記事によると、このボンチフスカ審判員はすでに母国ポーランドに帰国したのだが、地元メディアが同氏を直撃し、「あっという間に世界的な有名人になりましたね」とインタビューした。同氏は「インターネットの情報を見ないようにはしていますが、どうしても友人や家族から話が伝わってくる。酷い嵐のようです。とりわけ失格処分となった国々から厳しい意見が出ていると推測します」と答えたうえで、次のように語ったのだ。ここは記事を引用しよう。

日本代表チームが示した真摯なリアクションに対して「日本人は文句のひとつも言わない。間違いを認め、ちゃんと謝罪をしてくれます。これ以上なんら問題にはならないだろうと思います」とコメント。一方でドイツなど他の3か国に関しては、「日本とは状況が違います。彼らは結果を引き出すために、なにが起こったのかを徹底的に問い詰めます。それはとても感情的なものなのです」と説明した。

日本人は文句のひとつも言わない。間違いを認め、ちゃんと謝罪をしてくれる。ドイツなど他の3国はなにが起こったのかを徹底的に問い詰めるーー。審査員が語る彼我の差をこの記事は「日本代表チームが示した真摯なリアクション」とさりげなく総括しているのである。

これぞ、日本。「文句のひとつも言わない」という評価を「褒められている」と受け止め、「真摯なリアクション」として満足している。それに対して「なにが起こったのかを徹底的に問い詰める」ドイツなど他国の姿勢を「感情的」として冷ややかに眺める。まさに現代日本を象徴している。

スーツ規定の審査は的確に行われたのか。一部を狙い撃ちしたアンフェアな審査が行われたのではないか。競技運営側は審査の経緯を明確に説明する責任を果たすべきだ。そもそもスーツ規定のルール自体は適正だったのか。そのルールは透明な手続きのもとでフェアに決定されたのかーー不利益処分を受けた者には、さまざまな疑問を主張する権利がある。徹底的に抗議し、納得のいく説明を受ける資格がある。自らの権利は自ら主張して勝ち取るものだ。徹底的に合理性を争う。それがフェア(公正)というものだ。他の3国こそ世界の常識、グローバルスタンダードである。

いきなり泣いて謝るのは「泣き寝入り」でしかない。審査プロセスが不透明でも、説明責任が果たされなくても、ルールそのものが歪んでいても、審判員が決めた以上、その「決定」は絶対であり、それに異を唱えるのは「真摯的」ではなく「感情的」だーーそんな日本の常識は世界の非常識である。

この「審判員」を「政府」に、「スーツ規定」を「法律」や「政府見解」に置き換えれば、現代日本そのものである。「審判員の決定」に異論を唱えようものなら袋叩きになりかねないーー高梨選手の感じた息苦しさを、大なり小なり、日本で暮らす多くの人々が感じているに違いない。ネット上にあふれる「高梨選手は悪くない」という声は、この国を覆う閉塞感の現れであろう。

権力者の公式見解を従順に受け入れ、権力者が設定したルールに疑問を感じずに従い、それに異を唱えて反発する少数者を異端扱いしてのけ者にする。合理性や公正さよりも同調性や従順さを重んじる日本社会のありようは、個人の自由を尊重して多様性を重視する世界の潮流とは真逆の方向に向かっている。これでは日本はますます内向きになり、世界からどんどん取り残されていくだろう。

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