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トランプの“静観”が突きつける現実──行き詰まる高市外交と「逃げ切り解散」の誘惑

トランプ大統領が習近平国家主席と高市早苗総理に立て続けに電話を入れた。その順番と中身が示すのは、アメリカが日中対立への深入りを避け、米中協調を優先するという冷徹な現実である。とりわけ、台湾問題で対中強硬姿勢を貫く高市政権にとって、これは想定外の痛手だ。

11月25日、トランプから高市総理に電話会談が持ちかけられた。午前10時から25分間、高市総理は「緊密な連携を確認した」と強調し、「極めて親しい友人」と持ち上げられたことを記者団に披露した。しかし具体的なやりとり、とくに台湾問題については一切語らなかった。総理がここだけ頑なに沈黙したのは意味深だ。

なぜか。高市総理に電話をかける数時間前、トランプは習近平と1時間に及ぶ濃厚な対話をしていたからだ。

中国側は台湾問題を「第二次世界大戦後の国際秩序の中核」と位置づけ、米中協調を迫ったと欧米では報じられている。トランプ自身も「米中関係は非常に強固だ」とSNSで強調し、「大きな進展があった」とまで言い切った。レアアース規制の回避というアメリカの最優先課題を考えれば、トランプが台湾問題を深掘りしたくないのは当然だ。

この流れを踏まえれば、高市総理と台湾問題が話題にならなかったとは考えにくい。もし「そんな話はなかった」と言えるなら、高市総理は迷わず否定していただろう。否定しなかったということは、トランプが日中対立への関与に消極的であることが、高市総理にとって“痛い現実”として突きつけられた可能性があるということだ。

中国側はむしろ強気だ。高市発言に対抗して、渡航自粛、水産物輸入停止という二段階の制裁をすでに発動し、レアアース輸出禁止までちらつかせている。トランプが日中対立から距離を置く姿勢を見せたことで、中国は「高市政権をここで叩く好機」と判断しているだろう。

じつは中国にとって、高市政権の誕生そのものが“ショック”だった。中国との対話窓口として重宝されてきた二階俊博元幹事長が引退し、後継の森山裕前幹事長も高市政権で失脚。逆に、対中強硬で知られる麻生太郎副総裁が権力の中心に戻り、自民より右寄りな維新が連立に加わった。

そこに82%という驚異的支持率でスタートした高市政権が、早期解散で単独過半数を回復する可能性まで見えてきた。中国からすれば、「このまま長期政権にされては困る」という危機感が強まるのは当然だ。

だからこそ、中国は経済的圧力を積み上げ、高市政権の出鼻をくじきに来ている。公明党、森山前幹事長ら“対中配慮”のラインとも利害が一致する。高市総理が折れない限り、圧力は続くだろう。

では、高市総理はどう動くのか。

結論から言えば、譲歩はほぼ不可能だ。台湾有事が「存立危機事態になりうる」という答弁を撤回すれば、保守層が激昂し支持率は一気に崩れる。高市人気の核心である“ストレートな物言い”にも傷がつく。しかも国会は少数与党、自民党は麻生支配。政権を支える最後の柱が世論の支持なのだから、中国に弱腰を見せる政治的余裕はどこにもない。

とはいえ、対中強硬を貫けば経済的ダメージは避けられない。外交が長引くほど政権は消耗し、支持率の高止まりも保証されない。

高市総理が最も避けたいのは、経済悪化が鮮明になって解散総選挙のタイミングを逸することだ。

だからこそ浮上するのが、「逃げ切り解散」である。米中の綱引きが不利に傾く前に、国民人気が高い今のうちに選挙で政権基盤を固めておく。外交の行き詰まりこそ、解散の背中を押す最大の要因になりつつある。

トランプの“静観”、中国の“圧力”、そして高市政権の“強硬”。三者の思惑が交錯しながら、政局は急速に緊張感を増している。日中関係の悪化が本格的に家計を直撃する前に、高市総理が勝負に出るのか。いま、永田町では「選挙風」が明らかに強まっている。