政治とマスコミを斬る
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兵士は「この臆病者を見ろ。彼はウクライナのために戦おうとしていない」と叫んだ。群衆から非難のブーイングが起き、男性は兵士に付いて行った〜ゼレンスキー国会演説の前に読んでほしい記事

ウクライナには戦いたくない人々もいる。

ロシア軍のウクライナ侵攻は国際法に違反する許されない暴挙だ。しかし、ゼレンスキー大統領が国民総動員令を出して18歳から60歳の男性の出国を禁止し、ロシア軍と戦うことを命じることは支持できない。大日本帝国が国家総動員法に基づいて国民に戦いを強要したのと同じだ。

私はそう考え、ウクライナのゼレンスキー政権への支持を表明し武器を支援する岸田政権に反対する姿勢を鮮明にしてきた。私たちが寄り添うべきは戦争を遂行するゼレンスキー政権ではなく、戦争に巻き込まれるウクライナの人々であり、日本がとるべき行動は、戦争当事国の一方に軍事的に肩入れするのではなく、避難民への人道支援や停戦を促す外交努力であると主張してきた。

その立場から私はゼレンスキー大統領の国会演説に慎重な意見を示してきた。明らかにゼレンスキー政権に肩入れすることになる。日本社会に「ロシア=悪・ウクライナ=正義」の善悪二元論がますます広がり、異論を許さない全体主義に覆われることも懸念してきた。以下の記事はそのような私の見解をまとめたものである。

ゼレンスキー大統領の国会演説に前のめりの与野党とマスコミの平和ボケ〜敵国よりも怖いのは暴走する自国の国家権力だ

この記事に対して、予想を上回る賛同をいただく一方、想定したことではあるが「ロシアの味方をするのか」「ウクライナ国民はゼレンスキー大統領を支持しているのに文句を言うのか」などという批判も殺到した。

私はロシアのプーチン政権を擁護するつもりは毛頭ない。だが、国家権力が他国の軍隊に対抗するため、法律に基づいて、戦いたくはない人に武器を持たせて無理やり戦わせる人権侵害には反対である。いったん戦争が始まると、戦いを強要する同調圧力が強まる。大日本帝国の戦争がそれを証明している。私たちは多大な犠牲を生んだ敗戦から何を学んだのか。

そんな思いを募らせているところで、ウクライナ国境から迫力のあるルポが届いた。ニューズウィーク日本版『「みんなトラウマになる」「この臆病者を見ろ」「どこの国境でも人種差別」…ウクライナ難民ルポ』である。

とくにゼレンスキー政権を強く支持している方々にご覧いただきたい記事だ。

大量の避難民が押し寄せるウクライナ国境のルポである。

このなかで、2月半ばにウクライナ入りしたものの戦闘が始まったため20時間以上も歩いてポーランドに逃げ戻った米国人ジャーナリストの話が出てくる。彼は国境地帯でウクライナ軍の兵士が若い男性が出国しないように見張っていると証言している。以下の一節は強烈だ。

「ある男性が、妻と一緒にいたいと主張する場面に遭遇した。すると兵士は群衆のほうを向いて『この臆病者を見ろ。彼はウクライナのために戦おうとしていない』と叫んだ。群衆の間からは男性に対して非難のブーイングが起き、男性は結局、兵士に付いて行った」

私はこの場面を読んで、私たちの国でも約80年前、津々浦々でこのような光景が繰り広げられたことに思いを馳せた。国家総動員法や治安維持法を根拠に日本軍の軍人や特高警察が戦争に反対する人々、戦争に協力したくない人々を弾圧し、極右過激派が愛国心を煽って世の中を跋扈し、市井の人々は「非国民」と罵られることを恐れて押し黙り、父や夫や息子の生命を国家に差し出したのである。大日本帝国は「お国のため」に命を落とした国民を美化し、さらに新しい命を戦地へ駆り出したのだ。

当然のことであるが、今のウクライナでも戦いたくはない人々はいる。ロシア軍の侵攻を許せないと思ってはいても、武器を持って殺し合いたくない人はいる。死にたくないし、殺したくもない。家族とともに国外へ逃げたい。その「戦わない自由」を合法的に剥奪し、さらには同調圧力をもって家族と引き離すのが、戦争という現実である。

最も尊重すべき個人の基本的人権が国家権力によっていともたやすく蹂躙される事態を招くからこそ、私はすべての戦争に反対する。国民を総動員して戦争を遂行する国家権力を支持することに反対する。

上記ルポにはそのほかにも生々しい戦争の現実が記されている。列車への乗車を拒まれているとみられる黒人の人々や、列車に乗ろうとしている黒人の少女をウクライナ兵が押しのけて白人の少女を乗せているとみられる様子がSNSで拡散されているという。

戦争からの避難民が溢れる国境地帯で繰り広げられている、人種や国籍、宗教をめぐる差別の実態に胸がしめつけられる思いだ。

戦争は人間の理性を奪う。日常では理性で抑えられている差別意識が戦時はむき出しになるのかもしれない。やはり戦争は嫌だ。

このルポのなかで、欧州に押し寄せる大量の難民をめぐる分析は読み応えがある。とくに大量の難民が発生したシリア内戦に基づく分析は秀逸だ。以下、一部を抜粋して紹介したい。

現在、ロシアの爆撃や戦車の攻撃から逃れようとするウクライナ人への同情と共感は急速に高まっている。

しかし、こうした寛容な姿勢をいつまでも維持できるだろうか。

米ノースイースタン大学のセリーナ・パレク教授は、ウクライナの窮状をめぐる社会的な対話を継続できなければ、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンのシナリオどおりになってしまうと警告する。

「これで難民危機が起きたらプーチンの思うツボだ。彼の目的は欧米の民主主義を不安定にし、反動的な右派や独裁的指導者の台頭を促すことにありそうだから」とパレクは本誌に語った。「2015年の難民危機後の状況が再現されてしまう」

当時、シリアを中心に約130万人が紛争で荒廃した母国を離れ、安全なヨーロッパを目指した。そしてヨーロッパに押し寄せる難民の数は第2次大戦後最大となった。

当初は、難民の窮状を伝える映像に接した人々が同情し、支援したいという思いが高まった。

だが、時とともに人々の態度は一変した。シリアの惨状を伝える報道が少なくなると、今度は難民を問題視する声が上がった。

パレクによれば、右派の指導者はシリア難民がヨーロッパ諸国の経済的な負担になっていると吹聴し、宗教や文化の違いをことさらに強調した。

シリア人と違って、ウクライナ人には肌の色や宗教など、ヨーロッパとの共通点がある。

だが西ヨーロッパには、東欧の人々は貧しく、文化的価値観を共有していないという先入観がある。だから軋轢が起きるリスクはあるとパレクは言う。

2015年には欧州の政界でこうしたテーマが強調され、欧州全域で右派的な感情がさらに高まった。同じことが再び起これば、プーチンに有利に働く可能性がある。

「ここ8年ほどの間に誕生した右派政権には独裁的な傾向があり、法の支配や人権の原則、国際的に認められた条約から離れようとしている」とパレクは指摘する。

この記事を読めば、ゼレンスキー政権への武器支援よりも、欧州に押し寄せる避難民たちへの支援がいかに重要かがおわかりいただけるだろう。プーチンの侵略に対抗して基本的人権や民主主義という価値を重んじる社会を守るには、プーチンと同じ土俵に乗って市井の人々の「戦いたくない自由」を奪って戦争を遂行するのではなく、一刻も早く停戦を実現させることが重要ではないか。

欧米メディアには欧米政権のプロパガンダに乗って「ロシア=悪、ウクライナ=正義」の善悪二元論を吹聴する劣悪なものもある一方、このルポのように戦争の実態を的確に分析するものも少なくない。

ところが、日本のマスコミは前者のプロパガンダばかりを「輸入」し、後者の的確な分析を伝えない。その結果、日本社会は善悪二元論が席巻してしまった。

国際報道部の特派員たちは欧米政権のプロパガンダに乗って「ロシア=悪、ウクライナ=正義」の善悪二元論を垂れ流すのではなく、ウクライナ国境へ向かって避難民たちからウクライナ国内の実像を取材し、ゼレンスキー政権がウクライナ国民を戦争に駆り立てている実態を伝えるべきだ。それこそ潤沢な取材経費を持ち、海外取材に慣れた特派員を抱える大手マスコミの責務ではないのか。

ゼレンスキー大統領の国会演説がこの善悪二元論を加速させ、日本から戦争当事者の一方への軍事的支援を拡大させ、日本社会の全体主義の風潮がますます強まることが心配だ。

私は戦争を遂行する国家権力とは一線を画し、あくまでも戦争に巻き込まれる民衆の立場に徹し、発信を続けていきたい。

ゼレンスキー大統領の国会演説に前のめりの与野党とマスコミの平和ボケ〜敵国よりも怖いのは暴走する自国の国家権力だ

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