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ロシアのウクライナ侵攻が日本に大政翼賛政治を引き起こす懸念〜「憲法改正」を参院選の争点にしないために

ロシアがウクライナに侵攻した。北・東・南からの大規模な軍事侵攻でウクライナ政権を一気に転覆させ、親ロシア政権を樹立させることが目的であろう。明白な国際法違反であり、断じて許されない。

国際社会はロシアの暴挙を抑えることができなかった。米国はアフガン・イラク両戦争に疲弊し、軍事力で対抗するつもりはない。米国は激しい分断社会となっており、バイデン大統領は政権基盤維持に精一杯だ。EUは長年の盟主だったドイツのメルケル首相が引退し、フランスのマクロン大統領は大統領選を控え身動きがとれず、英国はEUから脱退した。ロシアのプーチン大統領は今こそ国際秩序を強引に変更する好機とみたのだろう。

欧米は経済制裁で対抗するだろうが、中国がどこまで協力するかは定かではない。プーチン大統領は「速攻」でウクライナに親ロシア政権を樹立し、軍事侵攻を既成事実化すれば、欧米はいずれ追認するしかないと踏んでいるに違いない。欧米の威信の低下は誰の目にも明らかだ。

武力に勝る国が軍事力で現状秩序を強引に変更できるという現実。それが引き起こす影響は計り知れない。もはや国連も米国もEUもあてにならないのなら、世界の国々は自前の防衛力を強化し、軍拡競争を引き起こし、世界はますます不安定になる。それは東アジアにも波及する。日本も対岸の火事ではない。

ウクライナ情勢は長引き、国際秩序を乱す。日本でも安全保障論が沸騰するだろう。憲法9条改正や敵基地攻撃能力の保有を求める声が強まりそうだ。核武装論まで飛び出しかねない。今夏の参院選をにらみ、自民党は「安全保障」を最大の争点に据えてくる可能性が高い。

だが、軍備増強で平和は訪れるのか。参院選の政策論争を地に足のついたものにするためにもしっかり問わなければならないテーマである。

ロシアのウクライナ侵攻の大きな目的は、ウクライナのNATO加盟を防ぐことである。長い国境線を接するウクライナに米国をはじめNATO軍が配備されたら、ロシアの安全保障は危機にさらされる。それは絶対に阻止したいというわけだ。

ウクライナが軍事力をもっと増強していたとしても、ロシアと対等なほどの軍事力を保有しない限り、ロシアの侵攻は止められなかっただろう。世界で突出する軍事力を持つ米ロ中3国の軍事侵攻を止めるため、軍事力で対抗するのはそもそも無理なのだ。

そこで登場するのが軍事同盟である。国際秩序を軍事力で強引に変更しようとする国家を、各国が連携して封じ込める集団安全保障という考え方だ。ウクライナはそれを手に入れるためにNATO加盟を求めた。ロシアはNATO加盟を事前に防ぐためにウクライナ侵攻を急いだ。このプロセスでロシアとウクライナの双方の利害を調整し、軍事侵攻という最悪の事態を避ける国際政治は機能しなかった。それが今回の結末である。

どんなに軍事力を増強しても、軍事同盟を強化しても、最強国の武力侵攻は止められない。むしろ軍事力増強は軍拡競争を招き、経済力に勝る国家の軍事力増強に口実を与えるだけだ。東アジアにおいてそれは中国である。

日本が軍事力を増強すれば、中国は対抗してますます軍事力を増強する。その軍拡競争に、経済力で大いに劣る日本は決してついていけない。北朝鮮のミサイル攻撃に対応するための軍事力増強と言っても、中国はそう受け止めてくれない。中国との軍拡競争になるのは目に見えている。

軍拡競争に持ち込むのは衰退国家・日本にとって損なのだ。人口減社会に突入した私たちの国に軍拡競争を闘い抜く国力はない。まずはこの現実を受け止めよう。

ならばどうするか。周辺諸国との経済的相互依存を強めることである。

なぜロシアがウクライナに侵攻したのか。国内外の様々な理由があると思うが、そのうちの大きな理由のひとつとして、ロシアの経済的孤立が進んだ点は見逃せない。冷戦崩壊で東欧諸国が次々にEUに入るなか、ロシアは欧州とエネルギー供給でつながるだけだった。ロシアの経済力は低下し、いまや韓国と同水準である。米国と世界を二分した大国がそこまで凋落したのだから、ある種の歪んだナショナリズムが台頭するのも想像できる。

欧州がロシアを経済的に取り込み、同一の経済圏が出来上がっていたら、ウクライナ侵攻という事態には発展しなかっただろう。もちろん資本主義の発展段階は大きく違うし、民主主義の成熟度も大きく違うから、欧州にロシアへの警戒感が強いのは理解できるが、その結果、仲間外れにしすぎると、今回のような軍事侵攻というかたちで跳ね返ってくる。それを抑え込む圧倒的な軍事力がない以上、経済的相互依存関係を強化するしか軍事侵攻を防ぐ手立てはなかったのではないか。

それに比べて、東アジアは北朝鮮をのぞいて経済的相互依存関係は強い。日本、韓国、台湾、中国、米国、東南アジアは経済的に密接につながっており、ロシアのウクライナ新興ほど簡単には武力侵攻は起きないだろう。ここが重要だ。北朝鮮は中国への経済依存度は高いが、それ以外とは経済的関係が薄いから軍事的に緊張しやすいのである。むしろ北朝鮮を経済的相互依存関係に取り込むことが安全保障政策にとって重要なのだ。

だが、近年の潮流は正反対に向かっている。むしろ「経済安全保障」という考え方に立ち、中国をはじめ競争国との経済関係に制約を加えるという安全保障論が主流になっている。私はこれをすべて否定するつもりはない。ただしこの戦略は、相手国より自国の経済力・技術力が圧倒的に強い時は機能するが、ハイテク技術をはじめ中国が世界のトップレベルに浮上した今は、むしろ経済ブロック化を推し進めるだけで、安全保障環境はより不安定になるのではないかと私は思う。

安全保障論が政治争点化すると、日本では「憲法9条」をめぐるイデオロギー対立になりがちだ。ウクライナ情勢を受けた国際情勢の変化とかけ離れた机上の空論のイデオロギー論争に終始するのは意味がない。まして憲法改正を参院選の争点に掲げる動きには要注意だ。これこそ自民党政権が多くの社会問題〜コロナ失政、格差の拡大、福祉の切り捨て〜から目を逸らす格好の題材なのである。

気になるのは、衆院選で躍進して野党第一党の奪取を目指す日本維新の会は憲法改正で自民党に同調し、国民民主党は当初予算案に賛成して与党に接近し、野党第一党の立憲民主党の立ち位置が定まらない野党の現状である。ここで安全保障論が高まり、国家的危機が叫ばれるようになれば、これら野党はそれを口実に一気に自公政権との連携に傾き、大政翼賛体制に発展するのではないか。

ロシアのウクライナ侵攻をうけて立憲民主党からも「国会休戦」の声があがっている。ただでさえ立憲は「批判ばかりの野党」という批判に怯えて「提案型野党」を名乗り、今国会はまともな追及をしていない。当初予算案の衆院審議はさしたる見せ場もなく、トントン拍子に採決に至ってしまった。このまま自公与党への接近が強まるのではないか。昨今の迷走する野党をみていると心配だ。

ウクライナ情勢の「国内政治利用」に目を光らせなければならない。

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