政治を斬る!

米国の仲介で日韓関係を修復し、両国を米国に追従させることを世界へアピールする「米国の国益」に貢献しただけの岸田訪米〜国内の関心は木原官房副長官の同行に集中

ワシントンから100キロほど離れた米大統領の別荘であるキャンプデービッドは、数々の重要会談が開かれた舞台である。今夏の日米韓首脳会談は、バイデン大統領がキャンプデービッドに初めて外国首脳を招いた会談であると岸田政権は喧伝し、日本マスコミもそれをそのまま報じた。

確かにキャンプデービッドという言葉は久しぶりに聞いた。この別荘を好んで使ったのは、ニクソン、レーガン、ブッシュ父子ら歴代の共和党大統領で、民主党のクリントンやオバマはさほど愛用しなかったようである。バイデンもしかり。ちなみに、トランプは共和党の大統領ながらあまり使っていない。

要するに、近年はあまり使われていないキャンプデービッドに「外国首脳を初めて招いた」ことを最大の売りにするほかないほど、今回の日米韓首脳会談は「目玉」がなかったということなのだろう。

このほか、岸田政権が事前にアピールした訪米ポイントは「3首脳がネクタイなしでランチをする」「安全保障のホットラインをつくる」…といったことばかり。外務省が訪米の目玉をつくることに腐心した様子がうかがえる。

それでも岸田首相は米国に向けて出発する際に「歴史的機会だ」と胸を張った。昨年末に防衛力の抜本的強化と防衛費の大幅増額をバイデン政権に促されるままに決定した際も「歴史的使命」と豪語したが、この首相は米国の意向に従ってそれを断行することが「歴史的」という政治感覚なのかもしれない。

今回の訪米に唯一の意味があるとすれば、日米韓3首脳が手を握り合ったことである。長らく対立した日韓関係を米国の仲介で修復し、米国が進める「ロシア包囲網」や「中国との覇権競争」に日韓が連携して付き従う約束を米国の立ち合いのもとでかわし、それを世界に向けてアピールするという「米国の国益」に沿った政治ショーが、今回の日米韓首脳会談であった(マスコミは決してそのように報じないから、岸田訪米の本当の意味はなかなか日本国内には理解されない)。

訪米直前にハワイを襲った山火事が大々的に報道され、バイデン大統領が日米首脳会談後にハワイを訪問すると表明すると、岸田政権はただちに2億9000万円を支援を打ち出したのも印象的だった。これでは朝貢外交としか見えない。

ハワイの山火事がいたましい災害であることは間違いないが、日本列島がガソリン高騰に加え、大雨や猛暑(水不足)に見舞われている最中に、国民生活そっちのけで、米国には貢物を手に馳せ参じる岸田外交に冷ややかな視線が送られるのは当然であろう。

広島サミットやキーウ訪問で内閣支持率を引き上げた「成功体験」の再現は期待できそうにない。

今回の岸田訪米で日本国内の関心は高かったのは、文春砲のスキャンダルが直撃して「雲隠れ」していた岸田最側近の木原誠二官房副長官が同行するかどうかの一点だった。

木原氏は岸田派の次世代ホープで、岸田官邸の内政・外交の調整を一手に担い、「影の総理」「事実上の官房長官」と呼ばれている。岸田首相が少人数に絞ったキーウ訪問にも同行し、最側近ぶりを示していた。

ところが、妻が元夫の不審死事件の重要参考人として警視庁に事情聴取されながら「木原氏の妻」であるという理由で捜査が不自然に打ち切られた疑惑を週刊文春が報じた後、木原氏は文春報道を刑事告訴する一方、記者会見や報道陣の取材を避けてきた。

衆参の官房副長官が交互に同行することになっている首相外遊も参院の礒崎仁彦副長官が2回続けて同行し、自民党内からも「木原氏は機能しておらず、内閣改造で退任すべきだ」との声があがっていた。今回の訪米に同行しなければ「岸田首相は木原氏を退任させる意向だ」との見方が急速に広がったことだろう。

そうはさせまいと、木原氏は岸田首相とともに米国行きの政府専用機に乗り込んだのである。岸田首相がそれを認めたということは、やはり木原留任をベースに人事構想を練っているとみてよい。

内閣支持率が続落し、当面は解散総選挙は難しいなか、さらに支持率が下落することを覚悟のうえ、官邸を切り盛りする最側近の木原氏を守るということだろう。岸田派のエースを見殺しにするわけにはいかないという派閥の事情もあるに違いない。

いずれにせよ、岸田政権は「木原擁護」によって、ますます防戦一方になりそうだ。マイナンバーカード問題で批判殺到の河野太郎デジタル担当大臣も「首相の弾除け」として留任させる方向に傾いているようである。河野氏を更迭してマイナンバー政策を大転換し、支持率を回復させるつもりはなく、この点にも「守りの政権運営」で当面はしのぐという岸田首相の姿勢がにじんでいる。

訪米報道で違和感を覚えたのは、マスコミ各社が「木原同行」に焦点をあてた報道をほとんど発信しなかったことだ。

警察庁長官が文春報道を完全否定し、木原氏が刑事告訴するなかで、マスコミ各社は木原疑惑の報道に及び腰である。一方、ネットを中心に木原疑惑への関心はすこぶる高く、内閣支持率の続落の主要要因になっていることから、完全無視もできない。

そこでマスコミ各社は、木原氏が岸田首相とともに政府専用機に乗り込むシーンなどの映像(写真)を伝える一方、あえてそこを強調する報道は控えるという「アリバイづくり」的な報道を展開した。マスコミがよくやる手なのだが、木原疑惑に関心を持つ多くの視聴者や読者はしっくりこなかったに違いない。

政権の意向を忖度しながら伝えるマスコミ報道と、国民の関心がかけ離れていることを改めて実感させる岸田訪米でもあった。

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