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ワクチンは切り札か? 菅首相や尾身会長は「接種後も他人に感染させることはある」とはっきり言うべきだ

ワクチンを1回接種した成人は8割を超え、2回接種した成人は6割を超えた英国では、3回目の接種の仕方について研究が進んでいる。ボリス・ジョンソン首相は、ワクチン接種率の上昇によってコロナに感染しても重症化するリスクは減ったとして、コロナ対策の防衛ラインを「感染者数を減らす」から「重症者数を減らす」に引き下げ、日常の経済社会活動を取り戻すことを優先する政治判断を下したようだ。

BBC報道『新型ウイルスワクチンの追加免疫接種、秋の開始に向け準備=英保健相』などで英国の状況を知ると、ワクチン接種率が先進国最下位でありながら「ワクチンが切り札」と言って東京五輪の強行開催に進んできた私たちの国の政治がいかに幼稚であるかを痛感する。

何が言いたいのかまったく伝わってこない菅義偉首相にしろ、首相との対立が取り沙汰されている政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長にしろ、記者会見で私たち国民に訴えるのは「自粛」や「行動変容」ばかりだった。

あなたやあなたの大切な人を守るためにステイホームしてほしい、お酒は控えてほしいなどと説く前に、「切り札」であるワクチンにはいったいどのような効果がどのくらい期待できるのか、国民にわかりやすく説明することが「いの一番」に大切だと思うのだが、そうした話はあまり伝わってこない。

その結果、ワクチンさえ打てばコロナに感染することはないし他人に感染させることもないという「ワクチン信仰」が広がり、すべての対策を中途半端にしているのが目下のこの国の現状ではないだろうか。

医療は素人の私でも、ワクチンをめぐる世界の情報を冷静に読み込めば、副作用のリスクや未成年者の接種の是非といったセンシティブな問題はともかくとして、少なくとも以下の三つの重要な論点があることがわかる。この三つの論点に対する回答次第で「ワクチンの効力」は大きく上下するだろう。菅首相や尾身会長は「ワクチンが切り札」と言うのなら、国民に「自粛」や「行動変容」ばかりを繰り返し要請するよりも、この三つの論点について明確な見解を示してほしいものだ。

①ワクチンは重症化を防ぐとされるが、感染そのものを防ぐ効果はどのくらいあるのか。

② ワクチンを2回接種して獲得した免疫は、どのくらいの間、効力が続くのか。

③現在接種が進むワクチンは、変異株に対してどのくらい効果があるのか。

私の理解が正しければ、私たち人類はこれらの問いに対して「絶対に正しい」という見解をいまだに得られていない。

①についてはワクチンを2回接種したのに感染した事例が相次いで報道されている。BBCの人気司会者韓国のIOC委員の感染例はその典型だ。ワクチンは重症化を防ぐ効果が高いにせよ、感染することも感染させることも絶対にないとは言い切れないようである。この点はワクチンを打った人々に徹底的に周知すべき点だ。「ワクチン証明書」自体の有効性をめぐる議論にも発展する論点である。

②について「未来永劫効果が続く」ことがない場合、私たちは「2回の接種」を定期的に受け続けなければならないことになる。毎年の摂取が必要なのか、半年ごとなのか、数年間は接種しなくても大丈夫なのかによって、今後のコロナ対策のありようは大きく変わってくる。「ワクチン証明書」を発行するにしても「有効期限」をどのくらいに設定するのかという問題ともかかわってくる。効力が続く期間があまりに短い場合、ワクチンは「切り札」とはとても言えないことになる。

③について変異株への効果が落ちるとすれば、これまたコロナ対策への影響は大きい。これから未知の変異株が現れ、ワクチンがまったく効かないことも十分に想定されるだろう。これまたコロナ対策の抜本を揺るがすことになる。

いずれにしろ、「ワクチンが切り札」と言い立ててワクチンを絶対視するのは極めて愚かな選択であると言えるだろう。ワクチンについてはまだまだ不明なことが多いのだ。

ワクチン頼みで世界各地から大勢の人々を東京に一時期に集中して呼び集める五輪開催が極めて大きなリスクを伴うことは容易に想像がつく。東京五輪の選手・関係者が「ワクチンを接種しているから安全」とは断言できないはずだ。バッハIOC会長の「我々が日本にリスクを持ち込むことは絶対にない」というのはどうみても「虚偽答弁」である。

ワクチンに重症化を抑える効果があるのは間違いないようだ。感染拡大防止にも一定の効果はありそうだ。しかしワクチンを打てば感染することはないし感染させることもないからその他の対策は不要というのは明らかに間違いである。

ワクチンは我が身を守るのに有効な対策のひとつであって、すべてではない。ワクチンを接種しても他人に感染させることは十分にありえるというメッセージを、菅首相も尾身会長も国民に向かって明確に発したうえで、緊急事態宣言などの対策を断続的に続けて「あくまでも感染拡大防止」をめざすのか、英国のように「感染拡大をある程度容認し、ワクチン接種で重症化数を減らす」ことに防衛ラインを引き下げるのか、今後のコロナ対策について世論の合意形成を進めるべきである。

それを言うと、国民不安が高まり、東京五輪反対論が一層強まり、政権批判が高まるから、菅首相はあいまいにしておきたい。尾身会長にしても、ワクチンに対する国民の期待を高めておいたほうが、検査・医療体制の整備の遅れをはじめ専門家が主導してきたコロナ対策の「失敗」に対する批判をかわすことができる。だからこそ「ワクチンの限界」を国民に明確に伝えようとしないのではないかと私はみている。

ワクチンに対する過剰な信仰が崩れた時、社会不安は一気に増大し、コロナ危機は新たな局面を迎えるだろう。菅首相にすれば秋の総選挙まで「ワクチン信仰」が持続すればよいと考えているのかもしれないが、私たちの暮らしは総選挙の後も続いていく。「ワクチンの効果」を認めつつも、はやめに「ワクチンの限界」を社会全体で共有しておくことが、コロナ対策を進化させていくためには必要不可欠であり、非常に重要なリスクヘッジにもなると私は思う。

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