岸田政権で失脚した二階俊博元幹事長と、安倍晋三元首相が死去して弱体化した清和会(安倍派)の世耕弘成参院幹事長が、地元・和歌山県で11月に予定される知事選で「代理戦争」を展開している。
二階氏は国民民主党の衆院議員だった岸本周平氏を支援するのに対し、世耕氏は和歌山出身の総務官僚である小谷和也氏(現在は青森県総務部長)を擁立。保守分裂の激突になる様相だった。
ところが、世耕氏が9月13日に記者会見して「状況が変わった。(小谷氏に)出馬をお願いする状況にない」と明言した。
この直前、県町村会は世耕氏に反旗を翻して岸本氏の推薦を決定。農業や建設の業界団体も追従し、二階氏が影響力の大きさを見せつけていた。世耕氏がはやめに白旗をあげ、二階氏との激突を回避した格好だ。
世耕氏は安倍氏の有力側近で、安倍政権で経産相など要職を歴任。参院幹事長として清和会を代表する幹部の一人となった。これまで衆院に鞍替えして総理・総裁を目指す意欲を隠してこなかったが、地元・和歌山政界の実力者である二階氏に阻まれてきた。
次の衆院選で和歌山県内の選挙区は3から2へ減る見通しだ。世耕氏と二階氏はともに「新2区」(新宮市、御坊市など)を地盤としている。二階氏が幹事長を退任し、次の衆院選で引退するとの観測も広がるなか、世耕氏としては今回の知事選で二階氏の影響力を削いで和歌山県政界を掌握し、衆院鞍替えに道筋をつけたいところだった。
しかも安倍氏の死去で清和会のリーダー争いは激化している。森喜朗元首相は、萩生田光一政調会長、西村康稔経産相、松野博一官房長官、高木毅国対委員長、世耕氏の5人をリーダー候補にあげている。世耕氏としては清和会のリーダーに名乗りをあげるためにも衆院鞍替えを急ぎたい。
とはいえ、二階氏との代理戦争に敗れれば、影響力は一気に陰る。町村会などが二階氏に同調したことを見定めて今回は激突を回避し、80歳を超えた二階氏の政界引退のタイミングを待って巻き返そうということだろう。
だが、知事選の「不戦敗」が世耕氏の存在感を薄めるのは避けられない。ライバルの萩生田氏は旧統一教会問題で大きく傷ついたものの、清和会のリーダー争いでは入閣している西村氏や松野氏から一歩出遅れたといえるだろう。
二階氏はこれまで野党陣営にいる岸本氏を水面化で支え、世耕氏を牽制してきた。与野党にまたがる人脈を駆使して政局の主導権を握るのは二階氏の真骨頂である。
世耕氏の知事選撤退で岸本氏が知事選に勝利する可能性が高まり、二階氏は和歌山県政界での影響力を維持することになった。
一方、中央政界で二階派の展望は開けない。岸田首相は二階幹事長の交代を掲げて自民党総裁選に勝利した経緯があり、二階派は非主流派に転落。連携する菅義偉前首相も8月の内閣改造で副総理への起用が見送られた。当面は国政選挙や総裁選が予定されていないなかで非主流派が結束を維持するのは簡単ではない。
落ち目の二階氏が地元の知事選で世耕氏の挑戦を退けたのは、清和会の弱体化が二階派のそれ以上に加速していることを映し出している。