立憲民主党の小沢一郎氏が7月15日夜、維新創設者の橋下徹氏のインターネット番組に出演し、次の衆院選に向けて、野党第一党の座を争う立憲と維新が「予備選」を実施し、小選挙区の候補をひとりに絞り込むことで意気投合した。
岸田文雄首相が解散風を煽った6月、小沢氏は維新とも共産とも選挙協力しないと明言した泉健太代表の姿勢では衆院選惨敗は免れないとし、党内で野党候補の一本化を求める有志の会を立ち上げた。この会に立憲所属の衆院議員の約7割が参加したことで、泉代表は前言を翻し、地域事情によって「候補者調整」に取り組む姿勢に転じた。
しかし、維新は一切の選挙協力を拒否する姿勢を崩さず、共産も政策協定なしの「候補者調整」では一方的に候補者を降ろすことになるとして激しく反発。泉代表の姿勢は定まらず、小沢氏はこのままでは野党候補の一本化は遅々として進まないと判断して橋下氏への接近を試みたとみられる。
橋下氏はかねてより立憲を激しく批判する一方で、小選挙区に維新と立憲がともに候補を擁立すれば自公与党の候補には絶対に勝てないと指摘。自公与党を過半数割れに追い込むことを唯一の共通目的として、立憲と維新の候補を一人に絞り込む予備選の実施を強く主張してきた。
これに対し、維新の馬場伸幸代表は「立憲をぶっ潰す」と明言して野党第一党の座を奪うことを最優先目標に掲げ、橋下氏が提唱する予備選には慎重な姿勢をみせている。
立憲民主党内で非主流派の立場にある小沢氏と、維新を離れて現執行部からは「目の上のたんこぶ」的な存在になりつつある橋下氏。小沢氏が今回の対談に込めた狙いは、橋下氏の提唱する予備選構想を丸呑みすることで、立憲・維新双方の執行部に対し、いわば場外から予備選実施を迫ることにあるのだろう。
小沢氏81歳、政界再編を仕掛け続けてきた政治人生における最後の博打といえるかもしれない。番組で「橋下先生」と繰り返す小沢氏が印象にのこった。
立憲と維新は一時は国会共闘に踏み切りながら、国会終盤に決別し、今では激しく罵り合っている。立憲支持層には維新アレルギーが強く、橋下氏と会談した小沢氏への批判も強い。
一方で、立憲と維新が野党第一党を争って各地の小選挙区に双方の候補が乱立すれば、自公与党が漁夫の利を得て圧勝するのは確実だ。このまま無策で解散総選挙を迎えるのは野党第一党としての責任放棄ともいえる。
二人の対談の行方を私も注目して視聴したが、政局の現状認識は重なっており、予備選の具体的なイメージも共有したのではないかと思った。その是非はさておき、番組から浮かんだ「予備選像」を議論のたたき台として私なりに整理してみよう。
①予備選を「選挙協力」ではなく、相手を蹴落とす「準決勝」と位置付ける
立憲と維新の政治理念や主要政策には大きな開きがある。それを棚上げして「選挙協力」や「候補者一本化」を強引に進めたら、政治家も支持者たちもついてこれず、無党派層にも「野合」のイメージを与え、かえってマイナスだ。
そこで、予備選をあえて「選挙協力」ではなく、自公与党との選挙本番(決勝)に進む切符を争う「準決勝」と位置付ける。「立場の違いを乗り越えて仲良く協力する」のではなく「真正面から激突して競い合い、勝った方だけが選挙本番に進める」「どちらか一方を選挙本番前に蹴落とす」ものにしようというわけだ。
②予備選に敗れた方は選挙本番で無理に相手を応援する必要はない
この二番目の視点は斬新だ。
予備選で仮に維新候補が勝ち、立憲候補が敗れた場合、立憲候補は小選挙区から出馬することは許されないが、選挙本番で維新候補を無理に応援する必要もないと割り切るのである。極論すれば、維新よりはマシだとして自公候補を応援してもいいというのだ。逆の場合もしかりである。
橋下氏や小沢氏の考え方は極めて合理的だ。立憲と維新は野党第一党の座を競い合うが、ともに政党支持率は二桁に届いていない。有権者全体からすれば極めて少数勢力なのだ。予備選で敗れた側の支持層が離反しても、大した票数にはならない。
むしろ「予備選に勝った候補」として自公与党との決勝戦に挑む候補には、自公の政治に満足していない無党派層がなだれ込み、投票率が上がって自公候補を十分に倒せるというのである。予備選こそ、圧倒的マジョリティーの無党派層の支持を引き寄せる最も効果的な仕組みであるというわけだ。
絶対数が少ない野党支持層を奪い合うのではなく、潜在的に自公政治に満足していない無党派層に支持を大きく拡大させなければ、政権交代など夢のまた夢である。その意味で、予備選という「準決勝」で無党派層の関心を引き寄せるのは極めて効果的であろう。
予備選に敗れたら、出馬はできないが、本番で相手を応援する必要がないという割り切りは、橋下氏と小沢氏の予備選プランの核心部分といってよい。
③予備選の形式は「党員投票」でなくていい
予備選というと、党員による投票をイメージするが、立憲と維新が別の政党のまま予備選を行う場合、具体的にだれに投票資格を与えてどう実施するかで利害が衝突し、合意に至らない可能性がある。この点、橋下氏と小沢氏は党員投票にはこだわらず、世論調査会社による情勢調査を実施して高い支持を得た候補に絞り込めばよいという認識で一致した。
主要政党で公認争いが生じた場合、このような世論調査の数字で優勢な方を選ぶということはしばしば行われている。両党でそれをルールかすれば、さほど高いハードルではないというのはそのとおりであろう。むしろ党員に限らず、無党派層を中心に世論一般の支持を競い合ったほうが、選挙本番に強い候補者を選ぶことにもなる。
橋下氏と小沢氏が共有する「予備選」のイメージを私なりに解釈して説明した。このまま解散総選挙に突入すれば、維新が議席を伸ばし、立憲は議席を減らし、野党第一党が入れ替わることはあっても、自公与党が安泰であることに変わりはない。
そうであれば、「維新は嫌いだ」「立憲は嫌いだ」とののしりあうだけでは、政党としての責務を果たしたとはいえないだろう。双方の政治理念や主要政策の違いを棚上げすることなく、自公与党の過半数割れを唯一の共有目標として予備選を実施し、無党派層の関心を引き寄せ、候補者を一人に絞り込む(敗退した方は小選挙区から出馬しない)という橋下氏と小沢氏の提案は、十分に考慮に値する。
勢いづく維新に今の時点で立憲と予備選を行うメリットはないという指摘はあるだろうが、仮に維新が野党第一党に躍り出た場合、野田佳彦元首相や安住淳元財務相ら立憲重鎮たちは自公与党に接近し、維新包囲網の形成に動く可能性がある(実際に大阪ではそのような動きになっている)。仮に維新が躍進して自公過半数割れに追い込むことができたとしても、自公が政権安定のために連携を探るのは、勢いづく維新ではなく、むしろ落ち目の立憲ではないか。
選挙後に相手が自公との連立に転じるかもし得ないという不信感を払拭するため、橋下氏と小沢氏の予備選構想に私なりにひとつ提案を追加するのなら「予備選に勝利して衆院選で当選した者は、その任期中、衆院での首相指名選挙で自民党議員には投票しない」という合意文書をかわしておくのはどうか。
自公過半数割れが実現した場合、立憲や維新が個別法案を成立させるために自公との修正協議を経て賛成することはあっても、連立政権そのものに加わることはあらかじめ否定しておくことが「有権者への裏切り」を防ぐために不可欠であろう。
橋下氏は嫌いだ、小沢氏は壊し屋だ…と食わず嫌いで一蹴するには惜しい予備選構想であると私は思う。