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参院選序盤の情勢調査を読み解く〜「ネットより電話」世代に支えられる立憲民主党に有利に出るはずなのに…大惨敗の予感

参院選の序盤情勢を伝える記事が新聞各紙に躍っている。各社とも有権者を対象にした情勢調査をもとに独自の判断を加味して報じたものだ。6月24日朝刊の見出しは以下の通りだった。

朝日新聞「自公、改選過半数の勢い 野党、1人区ふるわず」

読売新聞「比例投票先 自民36% 維新10% 立民8%」

産経新聞「与党、改選過半数の勢い 改憲勢力3分の2も」

電話による情勢調査は生データが当たるとは限らない。いや、むしろ生データは外れる。電話調査に対応してくれる人が一部に偏っており、本当の世論を映し出していないからだ。

固定電話を使う人が激減したため、固定電話と携帯電話を組み合わせて調査するのが一般的になったが、それでも「偏り」をなくすことは不可能である。

その偏りを補正して情勢をどう予測するのかが各社の世論調査専門家たちの腕の見せ所だ。過去の調査と実際の結果を照らし合わせながら「偏り具合」を解析し、生データを補正していく。

新聞各紙の情勢調査は、昨秋の衆院選では大外れだった。朝日新聞を除くほぼ全てが「自民伸び悩み、立憲民主は大幅議席増」と伝えたが、結局は自民圧勝、立憲惨敗に終わったのだ。生データの補正に失敗したのである。

唯一当たったのは朝日新聞だった。朝日と他紙の違いは、調査の中心を電話からインターネットに移したことだった。朝日はその結果、「自民圧勝・立憲惨敗」を予測し、的中させた。業界では「ネット調査は偏る」と否定的に見られていたが、実際にあたったのはネット調査だったのだ。

私は昨年の衆院選前に主要政党やマスコミ数社の電話調査結果を入手していた。それらは「自民伸び悩み、立憲大幅議席増」を予想するものだった。私は自らの取材感覚と政局観からして立憲が大幅に議席を増やすことはあり得ないと思っていた。SAMEJIMA TIMESでも各紙の情勢予測とは反して「立憲惨敗」の見立てを紹介し続けた。朝日新聞の情勢調査を当てにしたわけではなかったが、結果的には朝日新聞と同様の見立てを示したのである。

もはや電話よりネットの調査の方が実際の世論に近づいている。新聞やテレビよりもYouTubeやSNSなどのネットに世論の中心は移った。新聞社やテレビ局はその現実に向きあいたくはない。しかしその現実から目を背けていると「大外れ」を繰り返すだろう。

さて、今回の参院選で新聞各紙が昨秋の衆院選の大失敗をどう修正してくるかは見ものである。朝日新聞に倣ってネット調査を導入するのか、電話調査を続けながら生データの補正方法を変えることで対応するのか。

いずれにせよ、肝心なのは電話調査は実際よりも立憲民主党への支持が強く出てしまうということである。

SAMEJIMA TIMESはマスコミ各社の情勢調査よりも選挙ドットコムの情勢調査の数字を紹介することが多いが、それは選挙ドットコムが電話調査とネット調査を併用し、それぞれの数字を公表しているからだ。

ここで毎回注目されるのは、立憲民主党の支持率である。電話調査では10%を超えているのに、ネット調査では2%前後にとどまることが多く、れいわ新選組を下回ることも珍しくない。

立憲民主党ほど電話調査とネット調査の差がくっきり出る政党はない。それほどこの政党が電話に出る世代(高齢世代)からの支持に偏っており、ネット世代(現役・若手世代)から見放されているということだ。時間が経って新しい世代の有権者が増えるほど、この政党は凋落する運命にある。

昨年の衆院選で各紙が情勢報道で間違えたのは、「立憲支持層は高齢世代に偏っており、電話調査では実際よりも強すぎる数字が出る」ということを軽視し、生データの補正具合を誤ったからだ。

新聞各紙がその反省を今回の情勢調査でどこまで修正してくるかはこれからのお楽しみだが、6月24日朝刊を見る限り、朝日も他紙も「自公、過半数確保の勢い」「立憲振るわず」という予測で一致している。やはり各紙とも衆院選の反省を踏まえ、これからますます立憲の獲得議席を弱含みで予測することになろう。それは立憲への逆風をますます強める効果をもたらすのではないか。

以下は朝日新聞が6月24日朝刊で示した獲得議席推計である。電話とネットの両方を使った調査に基づき、独自判断を加味したものだ。予測が外れることを恐れてかなり幅を広げて数字を出しているが、今後の目安になると思われるので、ここに紹介しよう。

合計欄に示されたのが今回の参院選の獲得議席予測だ。改選議席と比較すれば、党勢が拡大するのか縮小するのかがわかる。

改選議席を大きく伸ばすと予測されているのは、すでに圧倒的多数を握っている自民党だ。今回の参院選が「自民圧勝」「自民一人勝ち」と言われるゆえんである。

公明党と共産党という組織政党は投票率が大きく上昇しない限り、一定の組織票を手堅く固め、さほどの議席の増減はないとみられている。

注目を集めるのは、立憲民主党と日本維新の会の野党第一党争いだ。非改選議席に大きな開きがあり、参院全体で立憲が野党第一党から転落する可能性は小さい。しかし、改選議席に限ると、立憲が維新に追い抜かれる可能性は十分にある。

立憲が維新を上回ったとしても、改選議席を大きく下回る可能性はかなり高い。立憲は昨秋の衆院選に続いて「惨敗」と認定され、泉健太代表の進退問題に発展するだろう。さらには次期衆院選に向けて「立憲民主党のままではとても勝てない」という空気が強まり、分裂・解党に追い込まれる展開は十分にあり得る。野党再編の始まりだ。

立憲が分裂・解党した場合に野党第一党に躍り出る可能性が高いのは維新だ。立憲や国民の「残党」を集めて議席数が膨れ上がる可能性は否定できない。その場合、維新は菅義偉前首相を窓口に自民党に接近し、国会全体が与党一色に染まる大政翼賛体制へ突入する恐れもある。

次に連合が立憲や国民の「残党」を集めて新党結成を後押しする可能性もある。しかし連合は麻生太郎副総裁を窓口に自民党に急接近しており、維新と同様、与党化する可能性が高い。連合傘下の労組の足並みが乱れる展開も十分にあり得るだろう。

そこで注目されるのが、れいわ新選組の動向だ。山本太郎代表が衆院議員を辞職して参院選に出馬した以上、前回同様の2議席程度にとどまれば、野党再編を主導するのは難しい。だが、予測以上に議席を積みませば、立憲の「残党」のうち、維新にも連合にも抵抗を感じる議員たちを糾合して一気に主要政党へ躍り出る可能性はある。

いずれにせよ、参院選はまだ始まったばかり。7月10日の投開票まで情勢は大きく変わる可能性は十分にある。とはいえ、自公与党が過半数割れに追い込まれるほど大惨敗を喫する展開は予測しにくく、今回の参院選はやはり「野党の主役を決する戦い」という位置づけとなるであろう。

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