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長時間演説で深夜国会に持ち込みながら予算案の年度内成立を受け入れた立憲民主党の不可解な国会対応〜与党が予算案の年度内成立にこだわるのは参院での裏金追及を無力化するため!

新年度当初予算案は3月2日、衆院を通過し参院に送付された。衆院の予算委員会と本会議が異例の土曜日に開催され、最後は自民党と立憲民主党が合意して採決された。憲法の規定により、予算案は参院送付後30日で自然成立する。このため、新年度当初予算案の年度内成立が確実になったとマスコミ各社は伝えている。

つまり3月31日までに予算案を確実に成立させるためには、3月2日に衆院本会議で可決して参院に送付する必要があった。わざわざ土曜日に国会を開いて予算案の採決をしたのはそのためである。

そこで疑問として浮上するのは、以下の2点である。

①与党はなぜ予算案を年度内に成立させる必要があるのか?

②与党は参院でも過半数を握っているのだから年度内に採決すればよいのに、どうして30日前までに衆院を通過させることにこだわるのか?

①について結論を言うと、年度内に予算案が成立しなくても「暫定予算」を編成すれば問題はない。

暫定予算も国会の承認を得ることが必要だが、与野党が暫定予算を早急に承認したうえで予算案の審議を丁寧に行うことで合意すればいいだけだ。

野党が暫定予算の承認にも抵抗すれば、予算の空白が発生して行政執行に支障が生じるため、世論の批判は野党に向かう。さすがに野党も暫定予算を人質に取ることはしないだろう。

②についても、与党は参院でも過半数を握っている限り、野党がどんなに抵抗しても、強行採決すれば予算案の成立は可能だ。

もちろん与党の強行採決があまりに理不尽だと、世論の批判が与党に向かう。与党はこれを避けるため、できるだけ野党との合意で国会運営を進めるのである。

つまり、与党が予算案の年度内成立や3月2日までの衆院通過にこだわるのは、年度内成立を確実にしたうえで参院の予算審議に入ることで、野党との交渉を優位に進めることに狙いがあるといっていい。

衆院の予算審議最中に裏金疑惑をめぐる政倫審が実現したのは、自民党の国対委員長(浜田靖一氏)が予算の審議や採決を急ぐよう求めるのに対し、立憲民主党の国対委員長(安住淳氏)が政倫審開催を条件にあげて交渉してきたからである。これがいわゆる「国対政治」だ。

数の力では与党が強いため、野党は通常は押し切られる。だが、世論が味方についた場合、与党は数の力で押し切ることを避け、野党に歩み寄る。そこで野党は世論を味方につけることが重要となる。これが衆院の予算審議をめぐる与野党の攻防だ。

では、参院はどうか。

予算案の衆院通過・参院送付が3月3日以降の場合、暫定予算の編成を避けるには、与党は野党に譲歩を重ねて3月31日までに予算案を可決・成立させる必要がある。その過程で、裏金議員の参考人質疑や証人喚問をのまされる恐れが出てくる。

仮に暫定予算の編成が必要となった場合は、そこでも野党に協力を求める必要があり、さらなる譲歩を迫られる恐れがある。

ところが、3月2日までに衆院通過・参院送付が行われた場合は、予算案の年度内成立は確実となり、与党は野党に譲歩する必要がなくなる。与党は極めて優位な立場で野党と交渉できるわけだ。

今年の場合、最大の焦点は自民党の裏金問題である。野党が裏金議員たちの証人喚問を迫ったところで、与党は一切応じず、参院の予算審議が紛糾しても、予算案は3月31日に自然成立するので困らない。

自民党が土曜日の衆院の予算委員会と本会議を開催してまで3月2日の衆院通過にこだわったのは、参院での裏金問題追及を無力化するためといっていい。

つまり、自民党は衆院での政倫審開催で裏金問題を事実上幕引きし、これ以上の真相究明するつもりはないということである。

立憲民主党は3月1日に小野寺五典・衆院予算委員長の解任決議案と鈴木俊一財務相の不信任決議案を相次いで提出し、本会議で長時間演説を行って審議を引き延ばした。国会は午前11時半ごろまで延々と続き、いわゆる深夜国会となったのである。

立憲の目的は、3月2日までに予算案が衆院を通過して参院に送付されることを阻止し、年度内成立を確実にさせず、参院の予算審議日程で主導権を握って、裏金議員の証人喚問を実現させることにあると私は思っていた。そのための徹底抗戦なら支持できると考えていた。

ところが、立憲は一夜明けると3月2日の衆院の予算委員会と本会議での予算案採決を受け入れ、同日の衆院通過・参院送付を許してしまったのである。これにより年度内成立は確実となり、参院の予算審議を人質に裏金議員の証人喚問を迫ることはできなくなった。

いったい、何のための長時間演説だったのか。証人喚問を実現させるためではなく、世論に向かって「深夜まで国会で抵抗しています」とアピールするアリバイ作りにすぎなかったのか。

立憲の安住国対委員長は予算案の衆院採決にあたり、自民党の浜田国対委員長と①政治とカネの問題について参考人招致などの協議を継続する②4月以降、衆院に『政治改革特別委員会』を設置するーーなどの合意をかわしたが、この内容では裏金疑惑の真相解明は進まないだろう。この合意は、3月2日の衆院採決を容認した安住氏の顔を立てるための作文でしかない。

3月2日の衆院通過・参院送付による予算案の年度内成立を許した一点をもって、立憲国対は自民国対に敗北したのである。裏金疑惑追及に対する世論の追い風をこれほど受けながら「3月2日の壁」を乗り越えられないようでは、自民・立憲の国対間で裏取引があったと疑われても仕方がない。

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