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医師会の元副会長が厚労副大臣に、全国郵便局長会の元会長が総務副大臣に〜岸田内閣改造人事で族議員政治が復活した!

自民党で田中角栄以来の経世会支配を打破し、清和会時代を確立したのは小泉純一郎政権だった。

小泉氏は2001年総裁選で「自民党をぶっ壊す」と絶叫して経世会(当時は平成研究会)の橋本龍太郎氏らを打ち破り、「構造改革」の旗印を掲げて「族議員」たちの既得権を次々に奪っていったのである。

建設族、農林族、厚労族、郵政族・・・経世会からは各省庁ごとに族議員の大物が生まれ、業界への利益誘導を主導し、政治資金や選挙支援の見返りを受けた。自民党の内実は「族議員の集合体」だった。首相といえども族議員の利権には手出しができなかった。

小泉氏は官邸主導政治を強化し、民間出身の竹中平蔵氏を経済財政担当相に起用して規制緩和や民営化を推進させ、族議員や各省庁が牛耳ってきた業界利権を「ぶっ壊した」のである。その象徴が郵政民営化であったといえるだろう。

小泉構造改革の歴史的評価は割れる。既得権にメスを入れて政官業癒着の闇を照らし出した功績は大きい。一方で新自由主義的な弱肉強食の競争社会が全国津々浦々に浸透し、貧富の格差は拡大した。族議員の政治力は大幅に弱まり、それに比例して党執行部に従順なサラリーマン政治家が急増し、首相官邸への権力集中が一気に進んで批判勢力は姿を消した。霞が関の官僚も首相官邸に従順になり、首相の意向を過剰に忖度して行政の中立性・公正さは大きく歪んだ。

歴代最長の安倍政権の登場は、小泉構造改革の「果実」であり「負債」でもある。

約30年ぶりとなる宏池会の岸田文雄政権が誕生し、さらには清和会を受け継いだ安倍晋三氏が死去し、清和会支配は終焉した。

宏池会は財務省をはじめとする中央省庁と極めて親和性が高い。党人派と呼ばれる武闘派政治家がひしめく経世会と官僚OBが多いリベラルな宏池会が手を結び、右派の清和会を隅に追いやってきたのが、小泉政権以前の自民党政治だった。

自民党はいま、約20年ぶりに振り子の原理が働き、権力の重心が清和会から宏池会へ移行した。権力の中心に官僚や族議員が復権しつつある。

小泉政権で閣僚を務めた自民党OBと最近、じっくり話す機会があった。岸田首相が8月に断行した内閣改造人事ついて、彼が真っ先に指摘したのは以下のことだった。

「こんな露骨な組閣人事は近年、見たことがありませんよ。農水大臣は元農協役員、厚労副大臣は元医師会副会長、総務副大臣は元全特会長です。これでは族議員政治に逆戻り。なぜマスコミはそう書かないんでしょうか」

たしかに、露骨な族議員政治への回帰である。中央省庁を重視する宏池会らしい人事といっていい。

野村哲郎・農水大臣は鹿児島県農業協同組合(JA)中央会に長年勤め、常務理事を経て2004年参院選で初当選した典型的な農林族議員だ。地元テレビ局の取材にも「JA時代の35年、国会議員になって18年。すべて農政をやってきたので、これ以外に融通が利かない男なんです」と語っている。

小泉構造改革で最も切り崩されなかった族議員は農水族と言われる。小泉氏の次男である小泉進次郎氏が一時期、農協改革に意欲を燃やしたのはそうした経緯からだ。その意味で農水族の農水大臣就任はまだ「想定内」といえるかもしれない。

この自民党OBが特に強い違和感を示していたのが厚労副大臣と総務副大臣の人事である。

羽生田俊・厚労副大臣は2010年から日本医師会副会長を務め、13年参院選で初当選した。参院厚労委員長や自民党政調の厚労部会長代理を歴任した典型的な厚労族だ。医師会は診療報酬改定のたびに自民党に強く働きかけ、それを引き換えに選挙では自民党を強く支援してきた。コロナ禍でも自民党と医師会の密接な関係が注目を集めた。そうした自民党と医師会をつなぐ結節点となってきたのが羽生田氏である。

柘植芳文・総務副大臣は2009年に全国郵便局長会(全特)会長となり、小泉構造改革で郵政民営化が実現した後の日本郵政に絶大な影響力を誇った。全特は経世会(平成研究会)の野中広務氏ら郵政族議員と結束して郵政民営化に断固反対したが、小泉政権で経世会が壊滅して清和会時代に突入するなかで、柘植氏は新たな総務族(旧郵政族)のドンとなった菅義偉氏らを通じて清和会政権との関係を強化し、第二次安倍政権下の13年参院選で初当選。自民党総務部会長代理などを歴任してきた。

元医師会副会長と元全特会長。この二人の副大臣起用は、たしかに族議員政治の典型である。

小泉政権はもちろんのこと、安倍政権や菅政権でもここまで露骨な族議員の内閣への起用はなかったーー自民党OBはそう指摘した。岸田政権の誕生で、自民党政治は小泉以前に先祖返りしたというわけだ。

自民党政権の内部で、権力構造や利権構造の転換が着実に進んでいる。

政治報道に携わるマスコミ記者たちも20年以上続いた清和会支配にすっかり慣れ、小泉以前の政治の弊害を知る記者は少なくなった。清和会政治が格差を拡大し、政治家や官僚のモラルを崩壊させた側面は見逃せない。一方で、それ以前の旧態依然たる族議員政治が復活してよいわけでもなかろう。

今回の内閣改造人事でほとんど報じられていない側面を指摘した自民党OBの言葉に私は大きく頷いた。

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