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岸田首相「私は四面楚歌とは感じていない」の真意〜内閣支持率は10%台、生みの親の麻生副総裁も非主流派の菅前首相も敵対関係、党内からは退陣要求が噴出…最後の頼みは石破元幹事長?

岸田文雄首相は21日、今国会閉会にあたって記者会見した。9月の自民党総裁選への対応、解散総選挙や内閣改造・党役員人事について問われても「先送りできない課題に取り組む」「今は考えていない」という従来の見解を繰り返すばかりで、覇気のない会見に終わった。

定額減税を実施し、政治資金規正法を改正したうえで、6月に解散総選挙を断行し、9月の総裁選で再選を果たす道筋をつけるという戦略は完全に崩壊。内閣支持率は10%台に低迷し、自民党内からも公然と退陣論が噴出。内閣不信任案を否決して国会を閉会したものの、9月再選は極めて困難な情勢だ。

国会最終盤に3年ぶりに開催された党首討論では、野党党首から内閣総辞職を迫られ、国民民主党の玉木雄一郎代表からは「四面楚歌」と揶揄された。

岸田首相は「私は四面楚歌とは感じていない」と応じ、引き続き政権運営にあたる考えを示したが、受け答えは弱々しく、まさに政権末期の様相を呈している。公明党は岸田首相のもとでの解散総選挙には断固反対する姿勢だ。

岸田首相の最後の命運を握るのは、政権の生みの親である麻生太郎副総裁、非主流派のドンである菅義偉前首相、そして政治資金規正法の改正案で合意した日本維新の会の馬場伸幸代表だった。しかしいずれも土壇場でそっぽをむかれ、孤立無縁の状況に陥った。

①麻生太郎
岸田首相は昨年秋、財務省と親密な麻生氏の反対を振り切って定額減税を打ち出し、ふたりの関係は冷え込んだ。さらに裏金事件を受けて派閥解消を打ち上げたことで、両者の関係悪化は決定的となった。今回の政治資金規正法改正で岸田首相が麻生氏の反対を振り切って公明に譲歩したことは、トドメといえるかもしれない。

岸田首相はサミット外遊前に麻生氏に関係修復の会食を呼び掛けたが、拒絶された。

首相が外遊で不在の間、麻生氏は首相と険悪な関係になっている茂木敏充幹事長と密会。自らも政治資金規正法改正について公然と批判し、麻生派若手からも首相退陣論が噴出。首相帰国後、麻生氏との会食が実現したが関係修復には程遠そうだ。
②菅義偉

菅氏は麻生氏とキングメーカー争いを続けている。公明嫌いの麻生氏に対し、公明や維新とのパイプがあるのが菅氏の強みだ。

政治資金規正法の改正で岸田首相が公明や維新と歩み寄ったことは、菅氏には追い風となった。岸田首相とすれば、麻生氏と決別しても菅氏の支援を受ければ総裁再選を果たせるという淡い期待もあったかもしれない。

しかし、菅氏はつれなかった。地元・横浜で市連会長が公然と首相退陣を要求。誰がみても菅氏の意向が働いたのは間違いない。

菅氏は非主流派の萩生田光一前政調会長(安倍派)、加藤勝信元官房長官(茂木派)、武田良太元総務相(二階派)との連携を強め、HKTと呼ばれるメンバーとの定期会合に小泉進次郎元環境相を招いて、総裁レース号砲の機運を盛り上げた。岸田首相にすれば、菅氏とも組めないのかという気分に陥ったことだろう。

③維新
岸田首相が密かに期待していたのは、維新を自公連立に加えて局面転換を図るウルトラCだ。

このため政治資金規正法の改正でも維新の主張を受け入れ、衆院では賛成に引き込んだ。ところが維新がこだわる旧文通費の公開のあり方などを変える法改正を今国会では見送ることになり、維新は反発。参院では改正案に反対に転じ、「嘘つき内閣」と激しく批判して首相問責決議案を提出した。立憲が提出した内閣不信任案にも賛成し、岸田首相との連携(さらには自公維連立)の機運は一気に萎んだ。

岸田首相とすれば自公維連立で局面転換を図る道も閉ざされ、いよいよ打つ手なしの状況だ。自民と維新の土壇場の決裂は、岸田首相の手足を縛ろうとする自民党執行部が維新との関係を壊すためにあえて今国会成立を見送ったのではないかと私はみている。

④唯一の仲間は?
四面楚歌の岸田首相だが、唯一の仲間がいるとすれば、石破茂元幹事長かもしれない。国会閉会後の内閣改造・党役員人事で世論調査では次の首相1位の石破氏を幹事長に取り込むことで総裁選出馬を阻む戦略が寝られているようだ。

これに対し、石破氏も「総裁に幹事長就任を頼まれれば断るわけにはいかない」と周囲に漏らしたことが波紋を呼んでいる。このタイミングで岸田泥船政権に乗り込めば、石破氏はポスト岸田レースがから脱落だ。そんな愚かなことをするのかと憶測を呼んでいるのだ。

石破氏を対抗馬のカードとして検討してきた菅氏も、幹事長を引き受けるようでは総裁選に担げないという意向を示しているとも報道された。

それでも石破氏は党内基盤が弱く、このまま総裁選に出馬しても勝てる保証がない以上、幹事長を引き受けることでまずは党内基盤を再建させる道を選ぶ可能性もある。

岸田首相が「四面楚歌とは感じていない」という言葉の裏側には、石破氏の存在があったのか?

だが、党内外で嫌われ者となった岸田首相と、これまた党内で不人気の石破氏が手組む「嫌われ者連合」で活路が開けるのかはわからない。しかも岸田首相が石破氏に幹事長を打診してハシゴを外されれば、それこそ万事休すだ。

やはり岸田政権の行方はかなり厳しい。

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