自民党総裁選(9月17日告示ー29日投開票)は石破茂元幹事長が出馬するかどうかが大きな焦点となってきた。当初は不出馬の意向を示唆していたが、感染爆発と医療崩壊を招いて支持率が続落する菅義偉首相の再選が有力視されるなかで石破氏への出馬要請が殺到。石破氏は8月27日に地元・鳥取市で「まったく白紙だ。告示日前日までよく考えないといけない」と記者団に語り、待望論が広がれば出馬を検討する姿勢に転じた。
SAMEJIMA TIMESは8月27日、総裁選への出馬意向を示している菅首相、岸田文雄・前政調会長、下村博文政調会長、高市早苗・前総務相の中から「あなたが自民党員なら誰に投票しますか」という投票アンケートを呼びかけた。28日23時現在で、投票総数は925。このうち56%が「棄権する」を選択している。「投票したい候補者がいない」という国内世論を映し出しているといえるだろう(ちなみに各候補への投票内訳は、岸田氏28%、高市氏9%、菅氏6%、下村氏2%)。石破氏待望論が急速に広がる可能性がある。
SAMEJIMA TIMESにも「石破氏を選択肢に含めて再投票を実施してほしい」という提案が相次いでいる。さっそく、石破氏を選択肢に追加して、いまいちど投票アンケートを実施してみよう。
あなたが自民党員なら、自民党総裁選で誰に投票しますか?(石破氏を選択肢に加えて再度問います)
石破氏以外の4人については、以下の前回記事で紹介したので参照にしてほしい。
コロナ危機下の自民党総裁選、あなたが自民党員なら誰に投票しますか?
今日は石破氏からみた今回の総裁選について考察しておく。
振り返れば、自民党が政権復帰する直前に行われた2012年9月の総裁選は、5人が乱立する激戦だった。石破氏は1回目の投票で党員投票の55%を集め1位に立った(国会議員を含む投票全体では過半数に届かず)。安倍氏は2位だった。石破氏は国会議員だけによる決選投票で安倍氏に敗れた。決選投票に地方票を加味する現制度で行われていたら、勝者は石破氏だったかもしれなかった。
安倍氏は国民的人気の高い石破氏を幹事長に起用し、2012年12月の衆院選挙に圧勝して政権を奪取。そこから日本史上最長となる安倍政権がはじまる。「安倍首相、麻生太郎副総理、菅官房長官」のトロイカ体制を7年8ヶ月継続したのだった。
安倍氏はそりのあわない石破氏を徐々に干し上げていく。2014年9月の党役員・内閣改造人事で石破氏を幹事長から外し地方創生相として入閣させた。体良く「降格」させたといっていい。石破氏は閣僚の一員として2015年9月の総裁選への出馬を見送り、安倍氏は難なく再選を果たした。石破氏は当時の菅官房長官から「安倍氏の次の総裁はあなただ」と説得され自重したという。実際に安倍氏の次の総裁になったのは菅氏だった。梯子を外されたといっていい。
2016年8月の人事で石破氏は閣外へ転じ、無役となった。ここから非主流派として露骨に干されることになる。2018年9月の総裁選に出馬するものの、安倍氏に敗れ、孤立感を深めた。「モリカケサクラ」と呼ばれる安倍政権で相次ぐ疑惑に対して批判を強め、安倍氏との確執はいっそう深まった。
安倍氏が病気を理由に電撃辞任したことに伴う2020年9月の総裁選で、安倍氏は「石破政権阻止」の一点で二階俊博幹事長と手を組んで菅氏を支持。主要派閥は菅氏に雪崩を打ち、菅政権が誕生した。石破氏は岸田氏にも及ばす3位に沈み、石破派会長を辞任。石破派は退会者が相次ぐなどして求心力は大幅に低下し、石破氏の永田町における存在感は大きく陰った。
石破氏の頼みは、菅内閣の支持率が急落し「ポスト菅」をめざす有力者も出現しないなかで、国民的人気が衰えなかったことである。「ポスト菅」を問う各種世論調査では河野太郎ワクチン担当相と1位を争ってきた。
今回の総裁選にあたり、石破氏は不出馬の意向を示唆してきた。石破派の求心力低下に加え、安倍氏主導の「石破包囲網」に抑え込まれてきたここ数年の政局の流れを変えるにはいったん身を引いたほうがよいという政治判断もあったのだろう。ここにきて「石破待望論」が広がりつつあるのは、いったん自重してみせた「待ちの戦法」が功を奏してきたといっていい。
石破待望論にもっとも慌てているのは安倍氏であろう。石破氏が党員の圧倒的な支持を受けて派閥の数の力を押し切り勝利する展開になれば、安倍氏をめぐる数々の疑惑が石破氏主導で蒸し返され、失脚に追い込まれる危険があるからだ。
石破氏が出馬に踏み切れば、安倍氏は昨年秋の総裁選同様、「石破政権阻止」を最優先して二階幹事長と手を組み、「菅首相再選」に全力を尽くすだろう。派閥の数の力を背景に菅首相の再選を支持する見返りに二階幹事長の交代を迫る戦略は大きく狂うことになる。
昨年秋との違いは、菅首相がコロナ対策の失態続きで国民的支持を完全に失っていることだ。その菅首相を担いで石破氏を押さえ込もうとすれば、それ自体が世論の反発を受け、さらに石破待望論をヒートアップさせる可能性もある。その場合は菅首相の再選を断念し、石破氏に対抗する候補擁立を探るしかない。安倍氏に充実な岸田文雄氏では石破氏に勝てないだろう。安倍氏が世代交代を進めるとして警戒してきた河野太郎氏に乗るしかないという展開もありえる。
二階幹事長が今回も安倍氏と手を組むとも限らない。
二階氏は菅首相の後見人として党運営を主導する一方、菅首相が安倍氏に屈して「二階外し」を受け入れることを警戒し、常に「ポスト菅」のカードを用意してきた。このうち小池百合子東京都知事は東京五輪とコロナ対策をめぐる迷走で世論の反発を浴びたうえ、総裁選が衆院選挙に先行して実施される方向となり、自民党の衆院議員に復帰して総裁選に出馬することは不可能になった。また、野田聖子幹事長代行も党内での支持が広がらず、菅首相に対抗するカードとしては力不足だ。
二階氏の手元に残る最後のカードが石破氏だった。二階氏が「菅おろし」が加速する可能性を承知のうえで「衆院選挙に先立って総裁選をフルスペックで実施する」とあっけなく決めたのも、いざとなれば「石破カード」を切る筋書きを用意してのことだろう。石破氏擁立をちらつかせて安倍氏らとの駆け引きを優位に進め幹事長留任を勝ち取り、安倍氏らと折り合わなければ石破氏を擁立して総裁選を制するという「両面狙い」の戦略に手応えを感じているのではないか。
石破氏が出馬すれば、総裁選の構図は一変する。石破カードが二階氏による安倍氏牽制の道具として消費されることがあってはならない。
安倍氏66歳、麻生氏80歳、二階氏82歳、菅氏72歳。石破氏が「二階氏に担がれる」のではなく次世代を結集するかたちで主導権を握り出馬することができれば、4氏による長老支配に終止符を打つスタートラインとなるだろう。
それでは、いまいちど投票を呼びかけます。
あなたが自民党員なら、自民党総裁選で誰に投票しますか?(石破氏を選択肢に加えて再度問います)
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