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朝日新聞の凋落は日本凋落の縮図でもある〜企業論として読んでほしい『朝日新聞政治部』〜辻野晃一郎さんにとってのソニーと、私にとっての朝日新聞

巨大新聞社の崩壊過程を描く『朝日新聞政治部』は政界やジャーナリズム界に興味のある人々には関心を持って読んでいただけると確信して執筆したのですが、実は私がもっとも期待したのは、朝日新聞社の「危機管理の失敗」に基づく企業論・組織論として経済人たちに読んでいただくことでした。

そんな思いを抱いていたところ、辻野さんからTwitterのDMにいきなりお便りをいただいたのは、5月27日の発売日からまもなくのことです。

辻野さんはソニーでVAIOなどの大ヒット商品を手がけ、Google日本法人に転じて社長を務めた改革派の経営者です。私とは直接の面識はありませんでしたが、Twitterでは相互フォローし、お互いのツイートに「いいね」で呼応しあう関係でした。

私がTwitterやSAMEJIMA TIMESで『朝日新聞政治部』を読んだ方々から感想コメントを呼びかけていたのですが、辻野さんはDMでこうおっしゃってくれたのです。

私も最初の自著『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』で書きましたが、大組織で奮闘しながら挫折して辞めた立場なので『朝日新聞政治部』にシンパシーを感じながら読了しました。追ってまた感想を書かせていただきますが、一人でも多くの人に読んで欲しい素晴らしい内容でした。

私は辻野さんのお便りに感激しました。講談社の編集者から日経新聞の広告に推薦コメントを掲載してくれる経済人はいないかという相談をちょうど受けていたので、辻野さんならこの上もなくありがたいと思い、厚かましくもお願いしたところ、推薦コメントにとどまらず、書評を書いてくださることになったのです。

本書は日本経済の停滞・埋没が止まらない原因を解明する好材料だ。朝日新聞の凋落は日本凋落の縮図でもある。これは誰にとっても他人事ではない

6月16日の日経新聞朝刊の広告には辻野さんの推薦コメントが載っています。

辻野さんからいただいた書評は、それは素敵なものでした。私は冒頭からぐいぐい引き込まれるように読んでしまいました。こんな書き出しです。

圧倒的な面白さで読み応え十分なノンフィクションだ。新聞記者生活で鍛えられた鮫島さんの確かな筆力で綴られた本書は、一度読み始めたら引き込まれて止められない。ところどころで日本の政治史や事件簿を再確認しながらも、一気に最後まで読み進んでしまう。

私も文章を書くことを生業とし、新聞社でもデスクとして相当な数の文章を読んできましたが、この冒頭をみただけで、辻野さんという人が、経済人としてだけではなく、文筆家としても、突出した才覚をお持ちの方であると確信できます。まさに一度読み始めたら引き込まれて止められない書評です。

辻野さんは、朝日新聞社の「凋落の本質」は「自滅」だと看破します。私の実体験を綴った本書の内容に触れながら「変わるべきタイミングで変わることができない存在は、それが企業だろうが国家だろうが個人だろうが例外なく滅びていく」と、いきなり企業論・組織論の核心へ迫っていくのです。

そこからの展開が華麗です。「実は、かつて私も鮫島さんと似たような境遇を経験している。そのためか、本書の内容はとても他人事とは思えず、まるで自分に起きたことのように身近に感じながら読み進めた」と切り出し、辻野さんが新卒のエンジニアとして入社したソニーでの「戦闘記」へと続きます。

私は執行役員手前のカンパニープレジデントという現場の青年将校のような役回りだったが、ソニーがソニーでなくなっていく過程に翻弄されながらも、なんとかソニーをソニーであらしめようと日々奮闘していた。

辻野さんがしたためたこの部分、「ソニー」を「朝日新聞」に置き換えれば、私も他人事とは思えませんでした。この先、書評はさらにしびれていきます。辻野さんはソニーや朝日新聞社で起きたことから、日本全体に蔓延している「日本病」こそが日本埋没の元凶であると読み解いていくのです。

そしてさいごは企業論や組織論にとどまらず、それぞれの個人の生き方論へと発展します。とても素晴らしい書評です。

辻野さん、ほんとうにありがとうございました。ぜひみなさんも一読してみてください。たくさんのことが得られると思います。(辻野さんの書評は次のボタンをクリック)

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