2021年にオーストラリアのABC(NHKに相当で無料)で製作され、反響を呼び、それ以来気になっていた日本についてのドキュメンタリー番組「Japan’s Great Wall・日本の万里の長城 」があります。2011年の東日本大震災での津波後に造られた、宮城から福島まで400Km断続的に続く巨大コンクリート防波堤について「万里の長城の壁はどれだけの命を救えるのか?」という疑問を抱き追跡したものです。
コンクリートの寿命は50年程といわれます。東北以外でもコンクリート堤防は日本各地の海辺で造られていて、その意味に疑問を抱きます。
この壁に費やされた一兆円以上は、津波の被害にあわない高い土地への転居に使った方が良いという指摘があります。政府は「堤防は津波のスピードを和らげ、避難時間を確保し、命を守ることができる」と言い張っていますが、防波堤によって救われた命や住宅がどれほどあったのかという調査結果は見たことがありません。
オーストラリア海外特派員は「“巨大な防波堤”は解決策か失敗策か」という疑問を提起したのでした。
壮大な無駄遣いと言われる建設事業は、大阪万博、佐賀県のオスプレイ基地、沖縄の辺野古基地など、日本各地に数多くあります。
次のX は番組の一部です。
番組の内容をまとめて、ご紹介します。
2011年の東日本大震災の後、政府は、地域を津波から守るために10 年をかけて、長さ400㎞、高さ平均13m、地中25mの防波堤をコンクリートで建設しました。
しかし、このの防波堤は地域をなお危険にさらしているなどとする否定的な意見が相次ぎ、深刻な疑問が湧いています。
専門家から巨大防波堤への警鐘
早稲田大学の実験によると、津波は平均15m、最高40mで、どれだけ高い堤防を造っても、全ての津波を止めることはできないという結果でした。津波をパーフェクトに止めるには膨大な費用がかかります。水流の動き、速さ、高さは津波によって様々です。何百年に一度の津波に備えるのであれば、津波より高い防波堤を作ることよりも、津波に影響されない土地への転居が効果的だということになります。
九州大准教授の清野聡子さん(生態工学)によると、この防波堤建設は日本最大のプロジェクトの一つで、人があまり住んでいないところにつくられたのも初めてです。巨大堤防に頼りたいという心理が人々に根強くあり、自然や景観よりも命を優先すべきだと意見が常に押し出されるということです。
岩手県陸前高田市での不安と不服
宮城県との県境にある岩手県の陸前高田市の住民は「津波後、住宅地は田畑や緑地に変わり、人は住んでいないのに、巨大防波堤に何の意味があるのか」と納得していません。海と陸を隔てる壁は、人々の生活を支えてきた海との交わりを断ち、その文化を破壊したと指摘します。
東北の海岸線では、多くの人々が漁を営んでいます。漁師の方々は子どもの頃から見慣れた海の風景がコンクリートの壁に変わり、「普段の生活の一部が剥ぎ取られたという思いがある」と精神的ダメージを訴えます。
良質な養殖の牡蠣が育つのは、川水と海水が交差する漁場ですが、海底に広がる60メートルの防波堤の基盤が悪影響を与えるのではないかとの懸念も膨らんでいます。
防波堤を断った岩手県赤浜
防波堤反対派のリーダーであるカワグチさんは、母も妻も孫も亡くして、仮設住宅で一人暮らしをはじめて8年目です。「日本は島国で、海岸沿いには漁師が仕事をしている。海からの恵みをもらって生活している。今災害が起こったから、海を恨むと誰一人思っていない。くるなら来いって、感じだ。負けないよ、というのが島国の漁師たちの気持ちだ。津波にまけないという気持ちでやってる」と語ります。漁場を守る強い意志が伝わってきます。
当初、赤浜の人々は川口さんの反対意見を支持せず、なぜ政府からの資金や建設の仕事を断るのかと反論していました。何回かにわたる議論を経て、カワグチさんの意見に賛同する人々が増えていきました。
カワグチさんは言います。
「国自体がごたごたしている最中に、福島・宮城・岩手で反対意見を出したから、びっくりしたわけよ。今度の津波で、全滅だったわけ。そして国が考えたのは14.5メートルの堤防だ。その内側に集落をもう一回つくり直すんだって。それに反対したのは、私。同じことを繰り返すなって。人間がつくったものは、必ず壊れるんだから。コンクリートの耐用年数は50年。風化して塩水に当たれば25~30年しかもたない。だから古い堤防みんな壊れて流れた。みんな豆腐みたいに浮かんで、流れてたんだよ。底辺が60メートルもある堤防を造れば、養殖の漁場にも影響がある。堤防は住民と海を分断する。代々祖先から伝わってきた自然と共にした生活が途絶えてしまう」
他の地域も、巨大防波堤の建設ではなく、高い場所への集団移住を決めたそうです。
巨額が投入される釜石
一方で、岩手県釜石湾の入り江では、30年をかけて2009年に完成した防波堤が、2011年の震災でほぼ全壊しました。建設費用は1200億円以上。日本で最も高額な沿岸工事で、高さ6m、長さ2Km、水深65mでした。
約500億円をかけて2018年に高さを積みました防波堤が完成し、建設に携わった人は「世界で一番深い防波堤で、ギネスで認定されるほど」と誇らしげでした。
かつては製鉄で賑わった釜石港。1980年代後半に製鉄所が閉鎖され、2009年の防波堤完成時には産業も廃れ、人口も急速に減っていました。防波堤に巨額の費用を掛け過ぎだという批判はあります。
安全神話 “万里の長城”が崩壊した田老
岩手県の田老は、二重堤防が壊れ、181人が命を失いました。防波堤が命を助けると信じて、頑なに家から離れない人もいました。防波堤は避難できる時間を約30%のばす一方、油断も与えて多くの命を失いました。
防波堤よりも効果的な避難計画が、命を救ったと言われます。多くの家や財産も失われました。
それでもまた防波堤は造られました。
ドキュメンタリーの終わりに、ナレーターが次のように語ります。
「価値や効果について多くの疑問が残る中、政府は万里の長城と呼ばれる防波堤プロジェクトを完成する強い決意です」
「日本は、国と建設業界の腐敗した繋がりで知られています。災害後の巨額建設プロジェクトは、政権が建設会社からの政治献金などへの見返りを与える機会なのです」
そして番組は次の言葉で結ばれます。
「自然の力を封じ込めようとするこうした取り組みは、日本の海洋の歴史、文化、アイデンティティに多大な犠牲を強いています」
以上がJapan’s Great Wall (日本の万里の長城)の内容です。
震災後に、民主党政権で東北の回復を願う「復興増税」が導入されました。
住民の声や実態を反映しない巨大コンクリートプロジェクトに使われたのだとすると、一部の与野党政治家や業界のために公金が使われたのではないか。しっかりと検証をし、国民に公開すべきだと思います。
その他の巨大な事業
軟弱地盤が判明し、当初の3500億以上から3兆円を超える可能性が、出てきました。
施設整備・弾薬など約1兆円、オスプレイ17機で3740億円(1機220億)、維持費4800億(20年間)、まだ詳細は分からないそうですが、多くの住民が反対しているにも関わらず、工事が始まりました。また、オスプレイはたった24人しか運ばない輸送機で、日本を含む幾つかの国々で墜落し、使用が控えられているそうです。(原口一博衆議院議員のレポート)
関連するインフラ整備費は約9.7兆円(うち万博会場に直接関係するものは計8390億円)。これに加え会場建設費など国費負担が1647億円、盛り上げるためのイベント費用なども加わるそうです。その上、埋め立て地から出るメタンガスによる引火と爆発の危険性が、心配されています。
【日本各地の無駄な箱ものや道路】
その他にも、筆者同盟の憲法9条変えさせないよさんの連載60回で、大村大次郎さんの著書が紹介され、本文では「この莫大な額のお金がどこかへ消えたかのように、社会インフラを整えた跡が見られない。実際、何に使われたかというと、その答えは『無駄な箱モノ』『無駄な道路』などである。地方に行くと、人影もまばらな駅の周辺が非常に美しく整備されていたり、車がめったに通らない場所にすごく立派な道路があったり、さびれた街並みに突然、巨大な建物が現れたりすることがある。そういう地域には有力な国会議員がおり、その議員に群がる利権関係者がいるのだ」とありました。
無駄な建設事業で、誰が利益を得ているのか?
2009年に“コンクリートから人へ” を掲げて誕生した民主党政権は短命に終わり、政策転換を図ることがでませんでした。これらの建設事業で大きな利益を得てきた自公与党と野党議員にも、業界との関係を調査することが求められます。
自民党の麻生太郎副総裁は、4月末の訪米で、次期大統領選で有力なトランプ前大統領との会談も探っているようで、キングメーカーぶりがうかがえます。
麻生さんは日本の財閥麻生セメント(資材と建設業)グループの御曹司です。セメントはコンクリート資材ですので、これらの事業と麻生セメントとの関りについても検証が必要です。
麻生さんは2013年の講演で「(日本の)水道はすべて国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものをすべて民営化します」と発言しました。麻生さんは世界の大手金融業で有名なロスチャイルドの家系と関わりがあり、日本で水の民営化に関わるフランスの大手水道会社「ヴェオリア・ジェネッツ」とも関係があるのではないかと憶測されています。
巨額の公共事業や民営化は、世界の裕福層の支配力を強める狙いがあり、日本もそこに巻き込まれているという危機感がわきます。ちなみに豪州では、民営化の反省から、生活に欠かせない施設や資源は、公営化への方向転換が見られます。
公明党は、国交大臣のポストを10年以上指定席にしていて「我が党にふさわしいポスト」(北側一雄副代表)と譲らないようです。建設・運輸・観光業との癒着関係が疑われ、これも検証が必要です。
鮫島さんによると、財務省の意向に沿う議員の選挙区には、財務省が特別な予算を配るという、不公平な利権政治が見られることもあるそうです。
このように見てくると、岸田政権が退陣しても、特定企業と切るに切れない深い利権関係にあるような自公政権と一部の有力野党議員では、壮大な公金の無駄づかいは、止められないと予想されます。
このあたりの調査を複数の独立第三機関で行なってほしいと思います。
山本太郎さんは、他の議員が踏み込まない事実について国会で言及し、他国に日本の国益を与えている構図を浮き彫りにし非難しました。自己利益のための政治に加え、一部の日本の政治家の「名誉〇人になりたい、肩を並べたい願望…西側諸国のという高級クラブの会員になりたい願望から」日本の大きな国益を損なっている、ということです。
豚肉のばらまき
これらのように、住民の声を聴いて最も必要とされているところに有効に公金を使うのではなく、個人的・党派的な目的で特定の地域・有権者をターゲットにし、公金を無駄に利用することを、オーストラリアでは、“豚肉のばらまき”(Pork barrelling)と呼びます。
独立した幾つかの機関で厳しく取り調べられます。 豚肉のばらまきは、政府への信頼を損ない、腐敗した文化を助長し、権力の固定化と選挙のゆがみを招く危険性があるからです。
日本と豪州の違いは?
豪州にも“空気を読む”という文化はあります。Read the roomと言われます。空気を読むことは、良くも悪くも働きます。
私の知る日本では、整然と列をつくって並んだり、電車の席を譲ったり、ゴミを拾ったり、困っている人を助けたりします。しかし悪い例は、違法を疑う裏金・汚職腐敗政治がまかり通っていることでしょう。
豪州であるのは、“たとえ善良な人でも、誰しもがパーフェクトではなく、間違いを犯す”という認識です。
どうやって豚肉のばらまきを防ぐのか?
日本では、裏金問題を受けて“政治改革に関する特別委員会”が設けられますが、“泥棒が泥棒を取り締まる”のでは、不十分だという声があります。各野党や幅広い専門家の方々の意見や知恵も取り入れて、汚職・腐敗政治を根絶するのは、多くの国民の願いでしょう。
オーストラリアでは、そのために、真実を追求し、明らかにし、判断する複数の独立機関が設けられています。(興味のある読者の方々へ、詳しくは最後に参照として載せました)
おわりに…ぶた話
“ぶた”が、ネガティブに取り上げられましたが、“ぶた”の名誉のため、決してそうではないことを最後にお伝えしなければなりません。
私の故郷では、地域に養豚場があり、“ぶた”が放し飼いされて、臭いがすごい、という印象しかもっていませんでしたが、オーストラリアで“ぶた”に対する印象が、ずいぶんと変わり、人間は環境で変わるものだと実感します。
冒頭の写真は、南オーストラリア州アデレード市内にあるランドル・モールに置かれた、“ブタのブロンズ像”です。“ある日のお出かけ”という作品で、それぞれの“ぶた”に名前も付けられ、買い物客や子どもたちに愛される“ぶた”たちです。
この“ぶた”たちが、何を表現しているかは、それぞれの想像に任せられます。
子どもたちが、貯金をしたいとき愛らしい“ピギー・バンク(ブタの貯金箱)“は、定番です。有名な物語「三匹の子ぶた」からの教訓は長い間、西洋社会で、受け継がれてきました。
オーストラリアやニュージーランドでは、牧場をもつことが、夢だという人々も少なくなく、そこで生活を共にする仲間として、“ブタ”をかう人々もいます。
サム・ニール(Sam Niell)さんは、がんの闘病生活を乗り越え、73歳の現在も活躍しています。有名な映画「ジュラシック・パーク」で主人公アラン・グラント博士を演じました。
彼はニュージーランドで、牧場をもち、葡萄畑とワインづくりをしています。彼のSNSでは牧場で、“ぶた”の仲間たちと戯れる様子が、度々投稿されます。「“ブタ”と僕は、増々似てきた」とジョーク交じりに嬉しそうに言います。最近では、二―ルさんが“ぶた”にふんした肖像画が賞に選ばれ、オーストラリアNSW州立美術館に展示されました。
「アンジェリカと私は、散歩に行きます。ぶらぶらしながら、もっぱらいろいろな話をしました。彼は今、世界の出来事についてかなり冷静にとらえています。インターネットは、オフのままにします」
「私の肖像画が 、アーチボルド賞 に選ばれました。もちろん、悔しいほど帽子の方がずっと格好いいんだけどね…」
参照:オーストラリアでの反腐敗・汚職のための対策と機関
ちょっと堅い内容かもしれないので、興味のある読者の方へ
これは、豪州の公共重要事項に関する、独立した最高機関です。検証内容は、出来事が起こった理由を調べる→誰に責任があるかを調べる→調査結果を作成→アドバイスする政策や法律の変更を公表します。実際、今の労働党政権は、この調査・アドバイスを取り入れています。
国民への信頼のために、大臣、省庁、政府の政策・決定に対して、訴えることができます。
オーストラリア政府の大臣、省庁、政府機関による決定を調査します。
幅広い事柄について、調査します。例えば、 税金・人権・情報の自由・労働者問題・社会保障・税金・企業と金融・倒産などです。法的に正しい決定、または正しい決定が複数ある場合には、より望ましい決定を下します。
権限として、決定を肯定する・決定を変える・決定を脇に置き・新しい決定を置き換える・再検討のために決定を意思決定者に伝える、という力があります。
この反汚職・腐敗の機関は、各州政府には、すでに存在しますが、多くの有権者の声にこたえ、独立/無所属の議員たちからの要望で最近、国政でも設立されました。オーストラリアでは、州(地方)の政治が、国政を牽引するという、力のベクトルが働いています。
汚職・腐敗は例えば、「公務員と公組織による、社会の信頼を裏切り・職権の乱用・情報の悪用・不誠実または不公平な権限の行使・公務に悪影響を与える行為」などです。さらに、厳しいのは、これらのことを行おうとした場合も、汚職に従事した、と認められることがあります。また、公務員でなくても、誰でもこの種の汚職・腐敗行為に関与したら、裁かれる可能性がるそうです。
【人事】 これらの機関に就任する場合、知識 経歴 経験があるかにより決められ、公表されます。腐敗の温床になる、縁故やお友達人事は、避けられます。
【独立系議員たちの活躍】
また、連載第26回では、これらの機関だけでは不十分だという、有権者の声に応え、独立系・無所属の議員たちがチームを組んで、政治の浄化・公正のための法律を提出したことを紹介しました。
今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。