なぜ豪州首相と高市首相の中国対応は、全く違うの?
鮫島タイムス『高市政権を揺さぶる中国の“外交戦争”——発言一つで崩れかねない高市政権の綱渡り外交』で、台湾有事の発生が「存立危機」に成り得るという考えを高市首相が示したことに反発し、中国の総領事がXで「その首を一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と過激投稿し、中国政府は日本への渡航自粛を発表。事態は完全に“外交戦争”に突入するような状況まで発展してしまったことが分かりました。(こちらYoutube)
同じくアメリカを最重要同盟国とする豪州の首相は、7月に中国に李首相の招待で訪中し、歓迎され、両国の友好関係が示されました。日本在住の中国総領事が「その汚い首を切り落としてやる」と投稿する状況とは全く違うことに、驚きました。
豪州アルバニージ首相(労働党)が中国と「互恵関係」を結ぶ大人の対応で乗り切っていることを、メディアも大きく取り上げ、大筋評価しています。7月の訪中では、習近平国家主席とも4回目の会談を行いました。約一週間の間、経済・ビジネス・貿易・科学技術の協力体制だけでなく、万里の長城にも訪れ、中国の歴史に敬意を示す姿も見られました。
アルバニージ首相は「中国との安定した建設的な関係はオーストラリアの国益にかなう」 また「我々は協力できるところでは協力し、必要なところでは反対し、そして国益のために取り組んでいきます」と述べ、大切なことは、取引ではなく友好的な「関係を安定させることだ」と強調しました。前政権が壊した大きな市場である中国との関係修復を遂げて、結果を出していることを示しました。(こちら詳細)
オーストラリアのABC(NHK相当で無料)も11月19日、高市首相の台湾有事対応の発言が日本に不利に働いていることを次のように報道しました。
「日本大使館の警告では、国民に対して『現地の人々と接する際には言葉遣いや態度に注意する』ことも勧めている」
「国営の中国電影局が監督する中国電影新聞は、輸入日本映画『映画クレヨンしんちゃん 激アツ!激辛カスカベダンサー』と『はたらく細胞』の公開を延期すると発表した。~省略~『日本の挑発的な発言は、必然的に中国観客の日本映画に対する認識に影響を与えるだろう』と中国映画新聞は月曜日に微信に投稿した記事で述べた」
「外交紛争が市場心理を圧迫したため、東京株価は火曜日に3%以上下落した」
「中国が国民に対し、人気観光地である日本を避けるよう警告したことを受け、日本の観光株と小売株は月曜日に急落した」
「航空アナリストの李漢明氏はAFPに対し、11月15日以降、中国発日本行きの航空券約50万枚がキャンセルされたと語った」
以上のように、高市首相の発言が日本に経済的・文化的打撃を与え、日本人の身に危険を及ぼしかねない状況だと伝えられました。
私は、日本人や日本企業が不利益になり、負担が増え、外人や外国を優遇する政策で外交と友好を結ぶのは賛成できません。しかし、なぜ日本人や日本企業の利益になる政策を結び友好関係を結ぼうとしないのでしょうか?
首相の手腕の違い
それは、首相の手腕に違いがあるように見えます。そして、同じ「綱渡り外交」でも、豪州アルバニージ首相の微妙に中国と米国の間で、経済と軍事のバランスをとった「綱渡り外交」は功を奏しているようです。
豪州の前政権(自由党と国民党連合)のモリソン前首相は、高市首相のように、中国にあからさまな攻撃的言動をとり、中国からいくつかの輸入を止められ、豪州の第一次産業やビジネスは大打撃を受けていました。
アルバニージ首相は、国民が気に掛ける「豪州に主権はあるのか」という疑問を察知し、「主権がある」ことを頻繁にアピールします。
豪州アルバニージ首相(労働党)が中国と「互恵関係」を結ぶ大人の対応で乗り切っていることを、メディアも大きく取り上げ、大筋評価しました。7月には中国の李首相の招待で、習近平国家主席とも4回目の会談をこなしました。約一週間もの間、中国を訪問し、経済・貿易・科学技術の協力体制だけでなく、万里の長城にも訪れ、歴史にも敬意を示す姿を見せました。
アルバニージ首相は「中国との安定した建設的な関係はオーストラリアの国益にかなう」 また「我々は協力できるところでは協力し、必要なところでは反対し、そして国益のために取り組んでいきます」と述べ、前政権が壊した大きな市場である中国との関係回復を遂げて、結果を出していることを示しました。(こちら詳細)
国民や国益のために政治を行っていることが、2期目でもアルバニージ首相が高支持率を維持している一つの原因でしょう。
最近の豪州の世論調査によると、中国への懸念は、約50%が抱いているものの、5年間で最低となり、中国との関係に利益があると考える人々は大幅に増え、約75%となりました。また、中国と米国、両方と良好な関係を維持できると答えた人は、65%にのぼり、過去最高となりました。これは、主要メディアや与党が中国の負の面だけでなく、良い点や利益も伝え、両国との友好な関係を現政権が実現しているためかもしれません。
また、米国からの圧力を予想する割合は、 2021年の39%から2025年には57%へと着実に増加しました。ワシントンからの圧力が北京からの圧力を上回った初めてのケースです。トランプ政権では、中国を含む地域の緊張感は高まると考えている人は、64%になりました。(詳細はこちら)
一方で、日本では、高市首相が「台湾有事」について、中国に攻撃的だと指摘される発言をした後、高市首相の支持率は向上したとききます。
日本と豪州の人々の間で、中国に対する捉え方が、正反対のような結果が出ているのは、日本の主要メディアや有力な政治家たちが、中国に敵対的な煽るような内容を伝えていることが、原因ではないでしょうか。
高市首相は「国民の利益や国益」よりも、支持者や米国からどう見られるか、自分の感情や気持ちを優先して、タンカを切ったのか?と憶測してしまいます。
アメリカからの圧力への対処
豪州首相メディアは、日本より、踏み込んだ報道をしているようです。
豪州ABCのティングル記者によると、アメリカがアルバニージ首相の中国訪問を警戒していたそうです。豪州の最大の戦略(軍事)的パートナーである米国が、最大の経済パートナーである中国へのアルバニージ首相の訪問を妨害しようとする、かなり露骨な試みと見られる記事が、ファイナンシャル・タイムズ紙に掲載され、エルブリッジ・コルビー米国防政策担当次官が、将来の台湾海峡紛争で米国を支援する事前約束をオーストラリアと日本に非公式に迫っていると報じました。
この米国の干渉のような要求は、豪州の政府関係者から信じられないという反応を招いたようです。
米国の圧力は僭越ではないかとの質問に対し、アルバニージ首相はABCテレビで「もちろん、我々は主権国家だ」と答えました。
そして「米国との同盟は私たちにとって最も重要な同盟であり、これからもそうあり続けるでしょう。これは私たちの防衛と安全保障にとって極めて重要な関係です。しかし、だからといって、オーストラリアが自国の防衛と安全保障関係において最終決定権を持つ必要性がなくなるわけではありません。」とも述べました。
このように中国と経済や科学で、友好を発展させる際、「米国が最も重要な同盟国だ」と強調することを忘れません。また、米国の意向に鈍感になり、豪州の国民のために力を注いでいることを示すことが、国民にうけているのかもしれません。
英国評論家のアンブローズ・エヴァンス=プリチャード(Ambrose Evans-Pritchard)氏はロンドンのテレグラフ紙(London’s The Telegraph) に次のように書いていることが、報道で紹介されました。
「中国の指導者たちは、自分たちが幻覚を見ているのか、それともアメリカの政治家たちが本当に正気を失い、息を呑むような規模で経済的・地政学的に自滅行為を働いているのか、自問自答しているに違いない。ドナルド・トランプの『大きくて美しい法案』(big beautiful bill)は、先進的な製造業とエネルギー技術の広範囲にわたる分野からの全面的な撤退を意味する。米中超大国争いの中心的な戦線を、戦うこともなく放棄するものだ」
豪州ABCのティングル記者は「米国が過去にとらわれようと決意しているように見える一方で、中国にいると未来を見ているという強い意識が芽生える」と記事に付け加えていました。
また、アルバニージ首相は、中国訪問中に豪州記者団に対し、台頭する超大国を戦略的(軍事的)脅威として注目するだけでなく、自身の使命である、オーストラリアと中国の経済関係の重要性を改めて強調する一環として、北京や上海以外の場所でも中国で何が起こっているかをオーストラリア国民に伝えてほしい、とジャーナリストたちに要求したそうです。
なぜ台湾有事が日本の「存続危機」なのか?
なぜ台湾有事が頻繁に取り上げられるのでしょうか?
アルバニージ首相は豪州ABCのインタビューで「我が国の場合、ウイットラム政権(豪州1972~1975首相)下で行われた中国承認の一環として、米国と同様に我々は『一つの中国』政策を支持してきた」「米国はこれらの問題に関して戦略的に曖昧な政策をとってきた」「これはオーストラリアも共有している問題だ。現状にいかなる変化も望んでいない」と述べ、台湾が中国の一部である承認があることを認めました。
中国と台湾が一つの国であるのに、国内問題がもし起こっても、台湾有事として外国が関われば、他国への干渉となり、なぜ、それが高市首相のように日本の「存続危機」になるのでしょうか?
ならば、ウクライナで迫害される、親ロシアのウクライナの人々を助けようとし、ウクライナにロシアへのミサイル配置を可能にするNATOに「存続を脅かされている」ロシアにも理解を示さなければ、理不尽で、一貫性に欠けるのではないでしょうか。
また、米国、日本、西側の国々が台湾への軍事支援を止め、内政干渉をせず、中国の安全保障を脅かさなければ、中国と台湾は平和な現状を維持できるのではないでしょうか。
オ-ストラリア首相からのメッセージ
中国訪問前から、アルバニージ首相が中国との経済的利益とアメリカとの戦略(軍事)的利益の間で「綱渡り外交」を強いられていることについて語られることが多くありました。
それが実際どれほどの綱渡りなのか、と問われると、アルバニージ首相は以下のように答えました。
「明確かつ一貫性を保たなければなりません。私たち(中国と豪州)の政治体制は異なり、価値観も異なります。しかし、その違いで私たちを定義するべきではありません。我々は彼らがどんな存在であるかを認識し、彼らと関わり、建設的に関わる準備をすべきです。私が野党労働党党首だった頃から一貫して使っている3つのフレーズは、協力できるところでは協力し、反対しなければならないところでは反対し、そして意見の相違は続くとしても国益のために取り組むべき分野もあるということです」
この豪州首相の中国訪問は、中国が国際社会において自らを安定した冷静な大人として見せることができる、典型的な例となったとも見られています。
その後、高市首相への激怒する中国の対応を目にし、首相選びで国は大きく違うものになるのだと実感しました。
日本にも、国を繁栄させ、隣国と友好を築いてきた首相はいました。
そういう意味で、日本もリーダー次第で、復活できるのでは!?という希望も感じる出来事でした。
冒頭の写真は、オーストラリアの野鳥たちの壁画です。

今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。