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こちらアイスランド(52)豚も鶏もあるけど、それじゃ使えない!薄切り肉への恋文〜小倉悠加

海外の食事事情って気になりますよね。。

ここでアイスランドの食文化の豊かさをお知らせできれば理想的。だけどそれはーーー無理(涙)。

食に関してはフラストレーションの塊になりがちなので、そこらへんは大人として怒りをあらわにせず、結構抑え目にご紹介したい。

食材がそこそこあれば、工夫次第でなんとでもなるはず。と、料理上手には言われてしまいそうだけど、慣れってあるでしょ。私は日本での主婦歴が長い。どうしても日本の主婦感覚が抜けず、アイスランドの食に関するあれこれに、「う”あ”〜〜〜、こんなんどー料理すんねん!」と、話せもしない疑似関西弁でどやしたくなる。特に肉の塊!

観光客として外国で食事をするのは高いけれど、地元民なら結構お安くて美味しい店を知ってるでしょ?と思うかもしれない。美味しいところは知ってる。たぶん網羅してるはず。でもこの国に「結構お安く」は基本的に存在しない。

外食はたぶん日本の3-5倍はかかる。素材なら安いかといえばそうでもなく、普段の食材を購入するのも日本の二倍は覚悟だ。

最初に安いものだけをご紹介すれば、じゃがいもは安い。

この地に移殖したバイキングが収穫していたのがじゃがいもだったというだけある。それも小粒の小さなじゃがいもで、コクのあるとても美味しい種類だ。皮が赤いのと、普通の茶色っぽい色の二種類がある。

じゃがいも以外で許せる値段は乳製品で、例えば牛乳、バター、クリーム、チーズ等。

近年日本でも紹介されているスキール。ヨーグルトのようだが、分類はチーズだ。

乳製品に関しては、国が酪農に対して補助金を出しているため、価格が抑えられている。また、小売業者間での差が出ないよう、小売価格に関しても規制があり、どこのスーパーでもあまり変わらない値段で売っている。

ということは、毎日じゃがバターで決まり!

じゃがバターは好きだけど、それだけではゴハンにならないのが日本人の辛いところ。アイスランド人のように、基本的にジャガイモと肉(または魚)、そしてアイスクリームがあれば毎日幸せとはいかない。

以前も書いた通り、この国でのジャガイモは野菜だ。分類は間違えではない。それも、じゃがいもさえ食べていれば、野菜不足にはならないという意味での野菜だという。それ違うっしょ!「野菜をたっぷり召し上がれ」とポテトフライを出された時の落胆たるや。日本人的には大間違いのコンセプト!

そんなじゃがいもへの複雑な心境はすでに書いたのでいいとして、何が困るかと言えば肉だ。肉が無いわけではない。肉はある。大量に。

冷凍でも生肉でも、肉は大きな塊で売っている。鶏肉、豚肉、牛肉、ラム肉と、一応肉の種類としては揃っている。ドッカーンの塊肉。どーやって料理していいのか、わっから〜〜ん!第一、こんなに食べないし。

内臓は肉の専門店でも見かけたことがなく、いわんやスーパーでは絶対に見ない。でも、あるところにはあるんだなぁ。当たり前ですよね。屠殺するんだから、内臓もあるに決まってる。

内臓を売ってるのはアジア系の食品店!さすがアジア人。無駄なくあちこちを食い尽くす(褒めてる!)。ただ、残念ながら1パックの量が多すぎて買えない。

内臓に限らず、私が肉を買うのは2-3週間に一度だ。薄切りの豚バラ100gパックがあれば、毎日買いたいけど、この国での肉は塊が基本。最近やっと5-600g入りの豚ひき肉が登場した程度で、それ以外はドカンと大きな塊肉。日本では肉屋の店頭か、高級役肉店の店先でこれ見よがしに展示してある、あの大きさのがドカンと無造作にごろごろと売られている。当然、どのパックも1キロ以上。普通は2-3キロある。骨もついてる。薄切り肉しか使ったことのない日本の主婦には、縁遠い存在だ。

料理の仕方がわからないばかりでなく、量的に多すぎる。1-2度食べて、残った肉を冷凍するにしても、きれいに消費できるまでに何日かかるやら・・・。考えただけで萎える。

豆腐・納豆文化がいかに有難かったかも、ここに来てしみじみ感じることのひとつだ。肉がなくても、豆腐や納豆があれば、良質のタンパク質はとれたので、なーんの問題もなかったし、お財布にもやさしく、消化にもよく、なんというか、ほんと、日本の食材ラ〜ブ。

100gパックなどあるはずがないが、例外的に500g程度で売ってるのは、ステーキ用牛肉とか、ラム肉のヒレ部分とか、お高い部位しかないから、年に2度も食べない。厚切りであれば豚肉は1キロ程度で買える。

ラムといえば、アイスランドのラム肉は肉の香りがよく美味しい。大自然の中で放牧される羊は化学飼料や薬剤とは無縁の、とても質の良い肉だ。そして、なぜかアイスランド国内よりも日本で販売されるアイスランド産ラム肉の方が安い。または全く同じ値段。なんで〜〜????

そんな辛い肉事情の中、価格的に使えるのは鶏肉だ。けれど、これもキロ単位なので買いたくない。私は基本的に野菜食いなのだ。野菜が大量にあり、肉がちょこっとあればいいだけ。なので、大量の肉とじゃがいもだけで迫られると、そこに恋は芽生えそうにない・・・・。

そしてもうひとつ、最悪にして最大の問題をアイスランドの鶏肉は抱える。特に胸肉!

アイスランドの鶏肉売り場を見る度に私は苛立つ。

物言わぬ鶏肉に私が苛立つのは、鳥のもも肉に皮がついていないこと。なぜわざわざ皮を剥いちゃうのぉ?!鳥カラにしても、皮のパリパリが美味しいんじゃん!コラーゲンたっぷりでお肌にもいいんじゃん!!なんで皮がねーんだよ!!!(と悪態をつきたくなる)。

アイスランド人は、洗練の意味を履き違えていないかと思う。鶏肉もそのひとつだ。いや、彼らがそれを洗練と思っているのかは分からなくて、私が勝手に、そーじゃないかと思っているだけなのかも。

一説にはムキムキの筋トレお兄さんが好んで食べるため、皮は無い方がよく売れるとか。

無惨にも皮をはがれた鳥のもも肉。皮があれば、唐揚げにしたい。

さすがに手羽先には皮がついている(ほ〜〜)。だけど、手羽先はそう頻繁に食べたいものではない。胸肉の方が使い道が多いし、皮が美味しいのにぃ〜〜。美味しそうな胸肉が、肉丸出しで皮がないのを見るのがーーー辛い。泣けてくる。まじで・・・・。

それでも、鳥を一羽丸々買ってオーブン焼きにすることは覚えた。ツイッター経由でイタリア在住の日本人主婦に教えていただいた調理法。一羽丸々買うのが一番安いので、これは大変に重宝している。

薄切り肉はないが、豚肉は厚切り肉であれば入手できる。トンテキやら味噌漬けにはできないこともない厚さだ。カツもできる。でもねぇ、日本人はやっぱり薄切り肉が一番。細切れとかね。野菜に巻いたり、野菜と炒めたり、ツユの出汁の足し等、用途は尽きない。

海外の食にどことなく憧れを抱く人もいるかもしれない。実際、観光で一週間程度滞在する程度であれば、アイスランドの美味しいものを堪能して楽しめることだろう。でも、でも、長年日本で主婦をしていた女性が住むには、食材的に辛いのは否定し難い。

薄切り肉など、少量パックなどどの先進国の首都にもあるものだと思っていた。突然いなくなった薄切りの彼氏。皮のついたあの人。日本に居た時は何とも思わなかったのに、今では無理矢理別れさせられた恋人のように思慕が募る。

 あぁ薄切り肉よ、包容力のあるあなたが好きだった
 あぁ皮付き肉よ、剥き出しの姿は痛々しく魅力半減
 あぁ少量パックよ、その存在がこの国では未知のもの

たかが肉、されど肉。こんな下手くそなポエムを詠みたくなるほど恋しい。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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