※この連載はSAMEJIMA TIMESの筆者同盟に参加するハンドルネーム「憲法9条変えさせないよ」さんが執筆しています。
<目次>
1.「積極財政」がもたらす「通貨安」の問題について
2.そもそも「円高」や「円安」のメリット・デメリットは何なのか
3.「円高」に期待する考え方と「円安」に期待する考え方
4.「物価高」が問題なのか「物価が上がらない」のが問題なのか
5.忍び寄る(?)「経済破綻」への恐怖
6.改めて「モデレーター」(司会者)としての鮫島さんの役割への期待
7.トピックス:辻元清美さんとプリティ宮城ちえさんの件について
1.「積極財政」がもたらす「通貨安」の問題について
9月の記事で、twitter上での「長谷川ナイフ論争」のことを話題として取り上げて、いろいろと考察していきました。
その際に、「通貨安」という問題点については、わずかにこれだけしか触れませんでした。
最後に、「通貨安」という問題点について触れておきましょう。
この問題に関しては、私の能力を超えており、「為替の問題については分かりません」と申し上げたいと思います。
1つだけ指摘をさせていただくと、ドルは基軸通貨なのでアメリカは「通貨安」のことを気にせずに積極財政を進めることができるが、日本の場合には「通貨安」のことにも目配りしながら経済政策を進めていく必要があるのではないか、という議論があるということです。
その後に起きた出来事として、これは重要なこととして取り上げておかなければならないことに、政府・日銀による24年ぶりの「ドル売り円買い」の為替介入があります。
9月22日夕方、政府・日銀は、外国為替市場で1ドル=145円台後半まで円安が進んだことを受けて、急速な円安に歯止めをかけるため、1998年6月以来、24年3か月ぶりに、ドルを売って円を買う市場介入を行いました。介入の規模は推計で3兆円に及ぶと言われています。
この政府・日銀による介入により、一時は1ドル=140円台にまで5円ほど円高方向に為替レートを誘導しましたが、市場では「為替介入の効果は一時的」との見方が強いようです。
その要因として、日米金利差という問題もありますが、より構造的な問題としては、世界の金融市場において投機で動く資金の規模があまりにも大きく、一国の政府や中央銀行の手だけで制御できる範疇を超えてしまっているのではないか、ということがあります。
少し長いですが、長沼伸一郎さんが2020年に出版された『現代経済学の直観的方法』(講談社)という本の中から、為替相場に関する記述を引用し、紹介します。
「今から30年ほど前の1990年代の経済は、現在から見ればまだしも『健全』に見えていたが、実際にはその時代にすでに1日当たりに投機のために動く資金の量は1兆ドルのレベルに達していた。
(中略)
1日に投機のために動く資金が1兆ドルなのに対し、古典的な『貿易』、すなわち製品やサービスの国際間取り引きのために動く資金は、1日で130億ドルに過ぎないというのである。
つまり健全な経済活動としての品物やサービスの貿易よりも、狭い金融市場の中だけで機関投資家が動かす巨額の資本が実にその100倍もの規模に膨れ上がっており、もはやこちらが世界経済を動かす主役となってしまっていたのである。
(中略)
実体経済の貿易で使われるマネーよりも投機に使われるマネーのほうが桁が大きくなってくると、当然ながら為替レートの世界で通貨がどう上がり下がりするかの常識なども根本的に変わってくることになる。
(中略)
短期的に見ると現在の為替相場を支配しているのは、むしろ巨額の資金を動かす機関投資家たちであり、各国間の金利差だの政府高官の発言だのにそれが過剰に反応して一斉にドルや円を売り買いすることで、通貨の相場が決定されてしまうのである。
(中略)
90年代にはすでにそういう状態になっていたというわけだが、それなら30年近くを経た現在ではどんなことになっているのだろうか。
(中略)
現在ではコンピューターによる自動売買システムによって、1秒間に何万回もの売買を繰り返して利ざやを稼ぐということが常態化しているのだが、話はそれに留まらない。この場合、理屈から言えば、その情報が光ケーブルでやりとりされる際にケーブルの長さが1メートル長いと、情報や信号の伝達に数億分の1秒ほど余計に時間がかかって、その分だけ売買回数が減ってしまう理屈になるが、今やこれが現実の問題となるレベルに達しているのである。そしてオフィスのケーブルをどう短くするかのコンサルタントがビジネスとして成立しているというのだから、健全な常識から見ればもはや狂気としか言いようがない。」
2.そもそも「円高」や「円安」のメリット・デメリットは何なのか
すごい世界に入ってしまっている為替相場の話ですが、ここで、そもそも「円高」や「円安」のメリット・デメリットは何なのかという基本的な問題について整理しておきましょう。
まずは、私たちが海外から商品を輸入する場合の円高のメリットと円安のデメリットについて見てみたいと思います。
海外から原油を輸入する場合の1バレルの価格について、原油相場の変動と、為替相場の変動の影響を、表にして整理してみましょう。
1バレル=80ドル | 1バレル=100ドル | 1バレル=120ドル | |
1ドル=100円 | 8,000円 | 10,000円 | 12,000円 |
1ドル=125円 | 10,000円 | 12,500円 | 15,000円 |
1ドル=150円 | 12,000円 | 15,000円 | 18,000円 |
円高になればなるほど、また原油相場が下がれば下がるほど、原油購入の対価を円貨換算した価格が下がることを確認していただけると思います。
仮に原油相場が「1バレル=120ドル」で、日本で働く時給を1,000円に設定したとすると、「1ドル=100円」の円高に振れた円相場では12時間の労働が、「1ドル=125円」の中間的な円相場では15時間の労働が、「1ドル=150円」の円安に振れた円相場では18時間の労働が、原油1バレルの購入のために必要ということになります。
同じように原油相場を「1バレル=120ドル」、日本で働く時給を1,500円に設定したとすると、「1ドル=100円」の円高に振れた円相場では8時間の労働が、「1ドル=125円」の中間的な円相場では10時間の労働が、「1ドル=150円」の円安に振れた円相場では12時間の労働が、原油1バレルの購入のために必要ということになります。
実際には、多くの人は、原油ではなく、それを原材料にして作られた製品や、その他の海外製品を購入することになると思いますが、考え方としては他の製品の場合でも一緒で、円高に振れるか時給が上がるかすると少ない労働時間で海外製品を購入できるようになり(円高メリット)、円安に振れるか時給が下がるかすると沢山の労働時間を投入しないと海外製品を購入できないことになります(円安デメリット)。
次に、企業が製品を海外に輸出する場合の円安メリットと円高デメリットについて見てみたいと思います。
日本の自動車メーカーがアメリカに20,000ドルの自動車を輸出する場合の円貨換算した売上高について、為替相場の変動の影響を見てみましょう。
1ドル=150円・・・売上高3,000,000円(円安メリット)
1ドル=125円・・・売上高2,500,000円
1ドル=100円・・・売上高2,000,000円(円高デメリット)
これは単純に一目瞭然で、「円安になれば、企業の利益は上がるし、従業員にもボーナスが出せる」のに対し、「円高になれば、企業の利益は減るし、従業員にもボーナスを出せなくなる」というメカニズムがお分かりいただけるのではないかと思います。
3.「円高」に期待を寄せる考え方と「円安」に期待を寄せる考え方
これらの基本的なメカニズムを押さえたうえで、為替相場が「円高」の方向に振れることに期待を寄せる専門家の考え方と、為替相場が「円安」の方向に振れることに期待を寄せる専門家の考え方を、それぞれ掻い摘んで見ていきましょう。
野口悠紀雄
円安にすれば、輸出企業の利益は自動的に増えます。新たなビジネスモデルや技術を生み出さなくても利益が出るので、それらの企業は努力を怠ってしまった。
本当は産業構造を変えなければならなかった時期、30~40年にわたって円安という麻薬を飲み続けてしまった。その結果、日本経済は足腰が立たなくなったわけです。
長谷川羽衣子
恐ろしいことに、日本ではデフレ不況下でこの「野口悠紀雄理論」が実行されてしまったため、「企業努力」として賃金カット、人員カット、雇用の非正規化が行われました。その結果、格差と貧困が拡大し氷河期世代をはじめ多くの人々が今も苦しんでいるのです。
4.「物価高」が問題なのか「物価が上がらない」のが問題なのか
ここからしばらく、私の独自の議論を進めていきます。
帝国データバンクが実施した「企業の価格転嫁の動向アンケート」(2020年6月)によれば、コスト上昇の「価格転嫁率」は44.3%にとどまっているそうです。
これは、1,000円の仕入れコスト上昇に対して、557円分を企業が利益を削って負担し、443円分だけ販売価格に反映させて物価が上昇していることを意味しています。
また、アンケートに対して「全く価格転嫁できていない」と答えている企業は、全体の15.3%にものぼっているそうです。
現在の世論の動向としては、443円分の価格上昇の方に注目し、「物価高を何とかできないか」という議論に流れているのではないかと思いますが、私個人としては、むしろ企業が557円分の利益を削って負担してコスト上昇分を見えなくしてしまっている「デフレ圧力」(価格引き下げ圧力)の方に注目すべきなのではないかと考えています。
つまり、「本来なら物価が1,000円上がっていてもおかしくない状況なのに、実際には443円分しか上がっていない」という「デフレ圧力」が、日本経済の低迷の大きな要因なのではないかと思うわけです。
SAMEJIMA TIMESの読者の方の中には、自ら事業を行っておられる方もいらっしゃると思いますが、「販売価格を上げると、購入しなくなる(購入できなくなる)顧客がいるかもしれない」と考えて、自らの利益を削って仕入れコストの上昇分を吸収して対応されている方も数多くいらっしゃるのではないでしょうか。
まさに「スタグフレーション」(不況下での物価上昇)の状況に陥ってしまっている日本経済をどのように下支えしていくかが、課題として非常に重要なのではないかと思います。
5.忍び寄る(?)「経済破綻」への恐怖
さて、「通貨価値の安定」に重きを置く立場のDr.ナイフさんですが、その後もtwitter上で「経済破綻」の危険性について論じるツイートをされています。
「通貨発行権を持つ国の政府が発行する自国通貨建て国債がデフォルトすることはない」という命題は正しいのだとしても、「通貨発行権を持つ」という言い方がひとつ曲者で、人々がその通貨を信任しなくなれば、「通貨発行権」というのは「絵に描いた餅」になってしまいます。
どういうことかといえば、例えば経済が破綻に近い状態になっている途上国で「自国通貨の価値が信用できないので、ドルで支払ってもらわなければ商品は売れない」とか「金(きん)で支払ってもらわなければ商品は売れない」といったことを人々が言い出すのと同じような形で、日本人が日本円を信用しなくなれば、「キャピタルフライト」(資本逃避)が起きて「ハイパーインフレ」になるという可能性もあるわけです。
もちろん、「日本人が日本円を信用しなくなる」といった事態が今すぐ到来するとは思われませんが、際限のない「金融緩和」がいつかその危機を招いてしまう可能性が全く無いとは言い切れません。
6.改めて「モデレーター」(司会者)としての鮫島さんの役割への期待
twitter上では、鮫島さんの司会による長谷川ういこさんとDr.ナイフさんの対談の実現を心待ちにする声があがっています。
長谷川ういこさんは、来年の統一地方選挙をにらんだ「れいわ政治塾」の塾長を務められ、全国各地で「れいわ政治塾」を開催されて、大変お忙しかったのではないかと思います。
その「れいわ政治塾」も、10月10日(月・祝)の東京品川での開催を最後に、ひとまずは一区切りとなります。
Dr.ナイフさんの側のスケジュールの状況に関しては私は全く分かりませんが、傍から見る限りでは、「鮫島さんの司会による長谷川ういこさんとDr.ナイフさんの対談」が実現する可能性は、少なくともスケジュール面においては現実味が出てきているのではないかと勝手に想像しています。
対談のテーマとしては、次の3つを期待したいと思います。
テーマ1:「アベノミクス」は何が間違いだったのか?(日本経済の過去について語る)
テーマ2:「物価高」と「通貨安」が進む現状において、「積極財政」はどこまで有効なのか?(日本経済の現在について語る)
テーマ3:「日本経済の立て直し」を模索するうえで、財政政策・金融政策に限らず全般的な経済政策について論じる際に、最も重要なポイントとなるものは何なのか?(日本経済の未来について語る)
「積極財政」の問題を中心に据えつつ、もう少し幅広いテーマを設定して、何らかの合意点が見いだせそうな内容を探りながら、重要な部分に関しては意見の対立点を明確化するような形で鮫島さんに「モデレーター」(司会者)をやっていただけると、「長谷川ういこDr.ナイフ対談」が非常に盛り上がるのではないでしょうか。
特に、長谷川ういこさんには、統一地方選挙をにらんだ「れいわ政治塾」で塾長を務められて、公債発行に過度に依存できない地方自治体における「積極財政」の政策の理論を何らかの形で構築されているのではないかと思いますので、そのあたりのことをご披露いただくとか、場合によっては国の財政に関しても「国債発行に過度に依存しない形での積極財政」を模索することができないのか等、「財政赤字」の問題を心配する人々の考えを視野に入れた議論を進めていただくようなことができれば、より実りの多い対談になるのではないかと思います。
鮫島さんも、長谷川ういこさんも、Dr.ナイフさんも、それぞれお忙しくて、なかなか一堂に会することは難しいかもしれませんが、今はZOOMを使ったオンライン対談のような形も可能ですし、動画配信が難しければ、対談を文字起こししたものを文章として公開する形でもよいのではないかと思いますので、私もSAMEJIMA TIMESの読者の一人として、「鮫島さんの司会による長谷川ういこさんとDr.ナイフさんの対談」が実現されることを大いに期待したいと思います。
7.トピックス:辻元清美さんとプリティ宮城ちえさんの件について
今日のテーマの話はここまでにして、最後に、立憲民主党の辻元清美さんとれいわ新選組のプリティ宮城ちえさんに持ち上がった疑惑の件について、内容を見ていきたいと思います。
辻元清美さんの件については、朝日新聞が次のように報道しています。
朝日新聞
その件に関して、辻元清美さんはブログで次のように説明しています。
辻元清美
プリティ宮城ちえさんの件については、沖縄タイムスが次のように報道しています。
沖縄タイムス
この報道を受けて、れいわ新選組の山本太郎代表と大石晃子政調会長が9月30日に記者会見を開き、翌10月1日には山本太郎代表とプリティ宮城ちえ市議がそれぞれ声明を発表しました。
れいわ新選組の記者会見を最後まで見ましたが、一言でまとめると、「マルチ商法を教え子に紹介した件について、道義的責任はあるが、法的責任を問われるような事案とは思われない」ということを一貫して主張しているようでした。
「山本太郎さんは納得できる説明をしてくれるだろうか」という思いで会見を見た人にとってはそれなりに納得できる説明だったと思いますが、「何か問題点を見つけてれいわ新選組を批判してやろう」と待ち構えて会見を見た人にとってはツッコミどころが散見される内容の会見だったと思います。
「宮城ちえさんも300万円の損害を被った被害者だった」という話は分かりましたが、「被害者Aさんが被った被害額」に関しては言及されていませんし、「どのようにして被害者への補償や救済を進めていくのか」というような話もほとんど出てこなかったのは、非常に残念でした。
また、仮にプリティ宮城ちえさんの側に法的な責任がないのだとしても、本人も認めている道義的な責任に関して、どのような形でその責任を果たそうと考えているのか、そのあたりがはっきりしないように感じました。
マルチ商法の怖いところは、被害者がまた他の誰かに紹介することで、被害者自身が新たな加害者になってしまい、その連鎖が延々と続いていくということにあります。
記者会見を受けて、twitter上では次のような意見が上がってきています。
れいわ新選組のみなさんは、マルチ商法の問題に関して認識を深めたうえで、被害発生を防止するための法整備や啓発・教育活動などを進めていき、今後同じような被害を生まないための対策に尽力していくべきなのではないでしょうか。
憲法9条変えさせないよ
プロ野球好きのただのオジサンが、冗談で「巨人ファーストの会」の話を「SAMEJIMA TIMES」にコメント投稿したことがきっかけで、ひょんなことから「筆者同盟」に加わることに。「憲法9条を次世代に」という一民間人の視点で、立憲野党とそれを支持するなかまたちに、叱咤激励と斬新な提案を届けます。