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山上徹也容疑者の留置再延長は「口封じ」か?社会部司法記者クラブはなぜ検事総長に記者会見を要求しないのか?

安倍晋三元首相を銃撃して殺害した容疑で逮捕された山上徹也容疑者について、奈良地検が刑事責任能力の有無を調べるための「鑑定留置」の再延長を請求し、裁判所はこれを認めた。

刑事責任の有無を調べる精神鑑定は、無罪を主張する弁護側が請求するのが通例だ。しかし山上容疑者については検察側が7月に逮捕して間もなく請求し、当初は11月29日まで期間が設定された。検察側は期限切れ直前に再延長を求め、裁判所はいったん来年2月6日までの期間延長を認めたが、弁護側が決定を不服として取り消しを申し立て、1月10日までに期間が短縮されていた。

弁護側は精神鑑定をこれ以上続ける必要はない(精神状況は正常である)と主張しているのに、検察側が精神鑑定をさらに続ける必要がある(刑事責任を問えない精神状況にある可能性がある)と反論しているのだ。

今回は検察側が改めて期間を延長するよう請求し、裁判所は1月23日までの再延長を認めた。政界や法曹界でも検察側や裁判所の姿勢を疑問視する声が強まっている。

(※この後、奈良地裁は弁護側の準抗告を受け、1月23日まで鑑定留置期間の延長を認めた奈良簡裁の決定を取り消し、再び1月10日までとした=こちら参照

山上容疑者は逮捕直後に母親が統一教会に多額の寄付を重ねたことで生活が破綻したことに加え、「安倍元首相が統一教会と親しい関係にあると思い込み、犯行に及んだ」と供述したと奈良県警が公表し、マスコミ各社はそれを垂れ流した結果、これが犯行の動機という認識が広く共有されてきた。

しかし検察・警察当局以外はこの供述が真実なのかどうかを確認できない。それを確かめるのが公開の法廷であり、最終的には裁判を通じて真相が明らかになるというのが、司法の大原則である。

ところが今回は検察側が精神鑑定の期間延長を求めて起訴を先送りし、裁判開始を阻んでいる。鑑定留置は通常は2ヶ月程度とされ、本来ならとっくに裁判が始まっていてもおかしくはない。

検察の思惑は何か。山上容疑者が公開の法廷に立って自らの言葉で証言することを防ぐためではないか、そもそも奈良県警が発表した供述は真実なのか、実は山上容疑者はもっと別のことを供述しているのではないか、検察はそれを隠蔽しようとして留置期間の延長を請求しているのではないかーーそんな疑惑は当初から政界や法曹界でささやかれてきた。

今回の検察側の再延長請求はそうした疑惑をさらに深めるものだ。

裁判所が再延長を認めたのも理解に苦しむ。さらにマスコミ各社も再延長を淡々と伝えるばかりで、本当に再延長が必要なのか、これは山上容疑者の「口封じ」ではないのか、という視点から厳しく批判する記事はほとんどみあたらない。

これは検察を担当するマスコミ各社の社会部司法記者クラブが検察とべったりで、検察のリーク情報は垂れ流すものの、検察の行為を厳しく監視する気がさらさらないからである。

これほど重大な事件で、弁護側の反対を押し切り、極めて異例の長期留置を続けているのである。検事総長の記者会見を求めて「なぜこれほど長い鑑定留置が必要なのか」についてカメラの前で説明責任を果たすように迫るのがジャーナリズムの役目だ。裁判所に対してもなぜ留置再延長を認めたのか、説明を迫るべきである。

以上の問題意識をツイートしたところ、たくさんの反響をいただいた。世論はこの問題に重大な関心を寄せている。マスコミ各社はしっかり検察当局や裁判所の権力を監視・追及してほしい。

検察や裁判所に加担する報道を重ねて国家権力と一体化しているのだから、日本のマスコミは中国のマスコミの批判などできないだろう。同じ穴の狢だ。

自民党の薗浦健太郎衆院議員(21日に議員辞職)が政治資金4000万円の不記載への関与を否定するなど悪質性が高いにもかかわらず、東京地検特捜部は逮捕せず、略式起訴で済ませたことについても、マスコミ各社は厳しく追及する気配がない(『麻生最側近の薗浦健太郎衆院議員が逮捕されず略式起訴にとどまったことをマスコミはなぜ追及しない?』参照)。

マスコミがジャーナリズムを放棄し、政府の広報機関に成り下がっている。国会は与野党の接近で大政翼賛化し、政府はやりたい放題になってきた。かなり危うい世相である。

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