野党第一党の奪取を掲げて躍進してきた日本維新の会の勢いに陰りが見え始めた。最大の要因は、外国パビリオンの建設が大幅に遅れている2025年大阪・関西万博だ。
万博に参加する見通しの153の国と地域のうち、参加国が費用を負担してデザイン性の高いパビリオン独自に建設する「タイプA」は56件ある。ところが、これまでに申請書類を提出したのは、韓国、チェコ、モナコの3カ国しかない。建設資源の高騰と建設業界の人手不足が原因と言われている。
万博の準備や運営を行う「万博協会」には政府、大阪府・市、周辺自治体、民間企業などから約680人が参集しているが、この寄り合い世帯が機能不全に陥っているとも指摘されている。2025年4月の開催時期が遅れてさらにコストが膨らむとの見方が強まってきた。
維新はこれまで議員の不祥事が相次いでも失速してこなかった。だが、巨額の税金を投じる万博への批判は強く、維新躍進の原動力であった「身を切る改革」に対する世論の支持を帳消しにしつつある格好だ。
有権者にすれば、政治家の利権を自ら断ち切って税金の無駄遣いをなくす「身を切る改革」を推進している限りは、維新の個々の議員の多少のスキャンダルには目をつむったとしても、万博で巨額の税金が無駄に使われることは看過できないということなのだろう。
さらに馬場伸幸代表の発言が維新批判の火に油を注いだ。党の会合で「万博というのは国の行事、国のイベントなので、大阪の責任とかそういうことではなしに、国を挙げてやっている。オリンピックは各都市の開催なので、おのずと性格がまったく違う」と述べたのだ(こちら参照)。
万博を「維新の目玉政策」としてさんざん掲げておきながら、旗色が悪くなると「あれは国の行事です」と責任転嫁するのは、無責任政治に極みというほかない。かつて吉村洋文・大阪府知事が万博誘致を主導したのは橋下徹元知事だと発信をしたことがあったが、自民党顔負けの逃げっぷりである。
東京五輪を世論の反対を振り切って強行開催した菅義偉内閣が失速したように、万博をめぐる混乱は維新の勢いを大きく削ぐ様相を呈してきた。
こうしたなか、岸田文雄首相は8月31日、大阪万博に関する関係者会合を開いて「万博の成功に向けて関係者一丸となって準備を進めたい。首相として政府の先頭に立って取り組む決意だ」と強調し、予定通り25年4月の開催を目指す方針を表明した。
会合には、大阪府の吉村知事のほか、西村康稔経産相、岡田直樹万博相、斉藤鉄夫国交相、万博協会の十倉雅和会長(経団連会長)らも出席。万博延期論がささやかれるなかで「25年4月開催」を政府、大阪府、財界の共通公約として再確認し、延期論を打ち消したといえるだろう。
維新はもともと岸田首相のライバルである菅前首相に懇意で、大阪万博も安倍・菅政権の強い後押しを受けて推進してきた。安倍・菅政権も東京五輪に続く国策プロジェクトの目玉政策として万博を掲げ、「東の五輪、西の万博」を自民・維新共有の「利権」として巨額の税金を投じてきたのである。
とりわけ安倍・菅政権で幹事長を務めた二階俊博氏は万博議連の会長に就任し、大きな影響力を誇ってきた。二階氏と維新はそりがあわず、地元の関西で「万博利権」をめぐり、しのぎを削ってきたと言われている。維新の馬場代表が万博から一歩引いた発言したことを、二階氏は好機とみているに違いない。
岸田首相にすれば、非主流派の菅・二階両氏が主導し、菅氏に近い維新の地元で開催される万博にそれほど旨味を感じてきたわけではない。それでもこの危機に直面して万博に全面肩入れすることにしたのは、近く予定される内閣改造を機に、主流派の麻生太郎副総裁・茂木敏充幹事長中心の政権運営から、菅・二階両氏を取り込んだ形の新体制へ移行することを念頭に置いたものではないかと私はみている。
岸田首相は万博会合の前日である30日に二階氏と党本部で会談し、福島第一原発のアルプス処理水の海洋放出を受けて中国が日本の水産物を全面禁輸したことについて「中国と話せるのは二階氏しかいない。政府としても環境整備に努力している。環境が整えば中国を訪問してほしい」と協力を要請したと報じられている(こちら参照)。
内閣改造を目前に控える現時点で、二階氏に頭を下げたということは、岸田政権の後ろ盾である麻生氏と反目する二階氏の人事要求にそれなりに応じるつもりとみていいだろう。
岸田首相があえて大阪万博という「ババ」をつかんだ背景には、このような政局的思惑がある。
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