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若い世代は二大政党から離れる!ドイツ総選挙から学ぶ「多数党による連立政治」〜山本太郎の東京8区騒動を教訓に

山本太郎・れいわ新選組代表の東京8区出馬騒動で明らかになったのは、野党共闘の首相候補であるはずの枝野幸男・立憲民主党代表が、野党共闘のリーダーとして野党全体に責任を負うという意思も覚悟もないことであった。詳細は先日の記事(以下参照)で解説したが、きょうは「連立政治」が定着しているドイツの総選挙を参考に、日本の「連立政治」の未来を考察してみたい。

枝野代表にはそもそも「野党共闘」の自覚がなかった!「野党共闘」は幻想だった!〜山本太郎の出馬表明目前の枝野会見を読み解く

ドイツ連邦議会選挙は9月26日に投開票された。16年にわたって首相を務めたメルケル氏が引退を表明し、6政党が激しく競い合う大混戦となった。

中道左派のドイツ社会民主党(SPD)が、メルケル氏が所属する中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に競り勝ち、16年ぶりに第一党となった。しかし、単独過半数には届かず、メルケル氏の後継首相は誰になるかは連立協議に持ち越された。

社会民主党とキリスト教民主・社会同盟の二大政党による多数派工作がこれから激化する。環境政党の緑の党や産業界寄りの自由民主党(FDP)の出方に注目が集まっている。極右のドイツのための選択肢(AfD)や旧共産党系の左翼党の動向も無視できない。

板橋拓己・成蹊大学教授が日本経済新聞に寄稿した記事をもとに解説をすすめよう。

得票結果は ①社会民主党(SPD)25.7% ② キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)24.1% ③ 緑の党 14.8% ④ 自由民主党 (FDP)11.5% ⑤ ドイツのための選択肢(AfD)10.3% ⑥ 左翼党 4.9% となっている。

この結果をみるだけで、ドイツでは二大政党を軸としながら多数党による緩やかな連立政治が定着していることがよくわかる。これからの連立交渉で有力視されるのは「社会民主党、緑の党、自由民主党」か「キリスト教民主・社会同盟、緑の党、自由民主党」の組み合わせだ。二大政党が第三党、第四党を引っ張り合う展開である。いずれも難航した場合は、二大政党による大連立の維持も選択肢に浮上してくる。

板橋教授は今回のドイツ総選挙を①16年続いたメルケル路線の継続か転換か、安定か変化かが問われた②気候変動が主たる争点の一つとなった初の選挙となったーーと分析。そのうえで世代間の政治意識の大きな違いが可視化されたと指摘する。「年齢が高いほど現状の維持を、若いほど変革をそれぞれ求めた」というのだ。

世代別の得票結果が極めて興味深い。詳細は日経記事をご覧いただくとして、結論をいうと、70歳以上の約7割は二大政党に票を投じた一方で、若者の間では「第一党は緑の党、第二党は自由民主党」となったのだ。

高齢世代には二大政党が「国民政党」として定着しているが、環境問題への関心が高い若者の間では「環境重視の緑の党」と「産業界寄りの自由民主党」が支持を競い合っている。

板橋教授は「世代間で全く別の世界が見えている。世代間の違いに鑑みると、多党化は進みこそすれ、二大政党が往時のように盛り返すのは著しく困難だろう」と分析している。

多党化が進めば複雑な連立は避けられない。政党間の連立工作を制したものが首相の座をつかみ、ドイツの政治を主導するのだ。

板橋教授は「連立交渉は、政治エリートによる権謀術数の駆け引きにみえ、実際そういう側面は強い。ただ各政党が時間をかけて交渉し、妥協を探ることもまた、民主政治の一つのあり方である」と指摘したうえ、「今後ドイツ政治はよりカラフルで、より複雑な連立政治が常態となるだろう。各党の支持者の意思がどう連立協定に反映されるのか政党の腕も問われるし、有権者も監視を怠れない。そしてそうした民主政治の営みは、日本にとっても学ぶところが多いだろう」と結論づけている。

ドイツの選挙制度は比例代表制を主として小選挙区制の要素を加えたもの。日本とはやや異なり、単純比較はできないが、有権者の意識としては若い世代ほど「二者択一の二大政党制」から離れていく点は共通しているのではないか。

日本で二大政党制が導入されたのは1990年代だった。野党陣営は民主党に集約されていき、自民党と政権の座を競い合う二大政党制の定着が進んだ。2009年衆院選でついに政権交代が実現し、民主党政権が誕生したのだった。

民主党は自民党との対立点をなるべく少なくし、政権交代への抵抗感・不安感を抑える「中道政策」を重視した。その戦略は功を奏して政権交代が実現したといえるだろう。

今の野党第一党・立憲民主党を率いる枝野代表はこの「中道路線」を継承している。だからこそ共産党との連携を深めて「左寄り」とみられることを極度に警戒するし、れいわのような特色ある新興勢力よりは連合のような旧来型組織を重視するのだ。

しかし、デジタル時代が本格到来して多種多様な情報がネット上に溢れかえるなか、有権者の政治意識や関心・価値観は多様化し、「中道寄りの二大政党からひとつを選ぶ二者択一の政治」は明らかに飽きられている。近年の低投票率や立憲民主党の低支持率はそれを映し出している。

米国では極右で泡沫扱いされたトランプが共和党を乗っ取り、大統領の座を一挙につかんだ。そのトランプを大統領選で倒したバイデン民主党を下支えしたのは、極左ともいわれるサンダースを熱狂的に支援した若い世代である。欧州の政治も緑の党抜きには語れなくなった。

日本でも安倍晋三氏は極右的な政治信条を全面に打ち出し、自民党の右傾化を進め、憲政史上最長の政権を実現させた。「主張のあいまいな中道路線」はネット時代には埋没し、鮮明な主張を掲げた政治勢力が激しく競い合う時代に突入したのではないかと私はみている。枝野氏の「あいまいな中道路線」は誰からも振り向かれずに埋没し、時代遅れの感が否めない。岸田文雄政権も同様に「あいまいな中道路線」を志向しており、これから埋没感が広がるのではないか。「岸田vs枝野」が首相を争う今回の衆院選の投票率は低迷するだろう。

今後、日本でも若い世代を中心に中道寄りの二大政党を敬遠する動きが加速していくと思われる。それに代わって支持を広げるのは、右の維新、左の共産、そして徹底的に弱者の視点に立つれいわのような「鮮明な主張を掲げる少数政党」だと私はみている。弱体化する二大政党のうち「尖った新興勢力」を巧みに取り込んで多数派工作に成功し連立合意にこぎつけた方が政権を担うという多党制時代に移行していくのではないだろうか。

その意味でも共産党やれいわとの連携を軽視する枝野氏の政治スタイルは時代に逆行している。立憲民主党で単独過半数を狙うという発想自体がもはや夢物語だ。1993年初当選の枝野氏は1990年代の小選挙区・二大政党制導入で誕生した民主党の「申し子」であり、二大政党制を象徴する政治家である。時代の変遷は早い。枝野氏は永田町では「次世代」といわれる57歳だが、その政治感覚は「次世代」に乗り遅れてしまったというのが今回の東京8区騒動で浮き彫りになったといえよう。

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