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岸田首相が衆院選で落選した石原伸晃氏を内閣官房参与に起用した「本当の理由」とは!?

岸田文雄首相は10日、内閣官房参与に起用していた石原伸晃氏の辞任を発表した。

衆院選で落選した石原氏を日給2万6400円の内閣官房参与に起用することに対して世論の批判が高まる中、石原氏が代表を務める自民党支部がコロナの影響を受けた事業者を対象とする緊急雇用安定助成金60万円を受給していたことが発覚し、わずか1週間で辞任に追い込まれた格好だ。

石原氏は衆院東京8区で立憲民主党新人の吉田はるみ氏に敗れ、比例復活もできずに落選。衆院選後に所属議員が7人となった石原派の会長辞任を表明した。石原派は派閥活動を継続するものの、今後の派閥の行方は不透明な状況だ。

こうしたなかで岸田首相が自民党の身内である石原氏を内閣官房参与に起用したことは「落選議員の失業対策」のための縁故人事と受け止められたのは当然であろう。石原派が9月の自民党総裁選で岸田首相を支持したことに対する「恩返し」との見方も流れた。

内閣官房参与への報酬はもちろん税金が原資である。衆院選に落選した自民党の大物議員を救済するために公職に就けることは「権力の私物化」や「公職の政治利用」といった批判を免れない。

この人事が政治不信を助長し、世論の怒りを沸騰させることは十分に予測できた。緊急雇用安定助成金の受給問題が発覚しなかったとしても、石原氏が辞任に追い込まれるのは時間の問題だったのではないか。岸田首相の任命責任は大きい。世論に鈍感な岸田政権の弱点も露呈したといっていい。

岸田首相はこの人事の失敗を痛切に反省し、国民に率直に謝罪しなければ、衆院選で上昇した内閣支持率は反落し、来年夏の参院選にむけて政権が失速する転機となりうるだろう。

岸田首相は「丁寧な説明」を強調して政権の座についた。今回の失態は「丁寧な説明」が問われる最初のケースである。

ところが、岸田首相の歯切れは悪い。

10日夜、記者団に対し「石原氏から公正な手続きにのっとった(緊急雇用安定助成金の)受給だが、混乱を生じることで迷惑をかけることは本意ではないので、職を辞したいと申し出があった。就任してから間を置くことなく辞任となったのは、混乱であることは否めない。このことは遺憾であり、申し訳なく思う」と陳謝したが、なぜ石原氏を起用したのか、その理由を明確に語っていない。国民に明らかにできない「やましい動機」があったのではないか。

私は岸田首相が単に「落選した石原氏を救済するため」に起用したとはみていない。この人事は「石原氏のため」というよりも「岸田首相本人のため」だったとみている。

きょうはこの問題を深掘りしてみよう。

岸田氏は国土交通相や経済再生相を歴任した石原氏に観光立国などを担当させるつもりだったという。石原氏を起用した理由について「経験に鑑みて、力を貸してもらいたいとの思いでお願いした」と説明した。

しかし、自民党の大物政治家なのだから、内閣の公職につけなくても、十分に力を借りられるはずだ。内閣官房参与への起用は石原氏を資金面から支援することに狙いがあったとみるのが自然だろう。

この「資金面の支援」は単に「内閣官房参与として国庫から受け取る報酬」にとどまらない。石原氏が内閣官房参与の辞令交付を受けた6日、記者団に語った以下の言葉に、今回の人事の狙いがにじみ出ている。

「まだ体力、能力ともにあると思っている。疲弊している業界のため、お役に立てるアドバイスを内閣にしていきたい」

このコメントに接した時、私はかなり不用意な発言だと感じた。「コロナ危機で苦しむ国民のため」ではなく「疲弊している業界のため」と明言したことに驚いたのである。石原氏はハナから「業界」を向いていたのだ。

石原氏にとって観光立国などを担当する内閣官房参与というポストは、観光業界などを代弁して内閣に業界支援策を要求するための地位であり、業界から政治資金などの支援を受けることを想定した人事であることを、自ら白状しているように感じたのである。

石原氏がこの人事で手に入れる資金は「内閣官房参与としての報酬」にとどまらず、「内閣官房参与として観光業界などが歓迎する政策を内閣に働きかけ、その結果として観光業界などから得る政治資金」を含むのではないか。これこそ「政官業の癒着」であり、岸田首相はそれを承知で石原氏をバックアップするための「縁故人事」を断行したのではないか。

岸田首相が落選した石原氏をそこまで支援する理由とは何か。

石原氏を批判し、あるいは石原氏を起用した岸田首相を批判することにとどまらず、この人事に隠された狙いを深掘りするのが政治記者の役割である。それを解明するには岸田政権の権力構造を読み解かなければならない。

現在の岸田政権のキングメーカーは麻生太郎氏である。

麻生氏は、老舗派閥・宏池会を源流とする麻生派(53人)、岸田派(42人)、谷垣グループ(26人)を合流させる「大宏池会」を実現させ、最大派閥・清和会(安倍派・95人)に肩を並べる(あるいはそれを上回る)勢力を築きあげ、自民党内に君臨する野望を抱いている。

そのため、岸田政権発足後は安倍氏が求める「高市早苗幹事長」や「萩生田光一官房長官」などの人事を拒絶し、山口県政界で安倍氏の長年の政敵である林芳正氏(岸田派)を外相に起用してポスト岸田の筆頭に押し上げた。この結果、安倍氏と麻生氏の盟友関係が急速に冷え込んでいることはこれまで繰り返し指摘してきたところである(SAMEJIMA TIMES『「安倍・岸田の緊張感」は報じても「安倍・麻生の亀裂」は報じない朝日新聞の忖度報道〜「本当の政局記事」には意義がある』参照)。

ここでポイントとなるのは、石原氏も宏池会の出身であるということだ。

石原氏はタカ派として知られる石原慎太郎氏の長男で、日本テレビ記者を経て政界入りした。当初は清和会(安倍派)に身を置いたが、「政策新人類」として脚光を集めた1998年にハト派の宏池会(当時は加藤派)へ転じた。2000年の「加藤の乱」で宏池会が分裂した後、無派閥となったが、2007年に日本テレビ会長で石原氏の後ろ盾だった氏家齊一郎氏の仲介で山崎拓氏が率いる山崎派へ入会。山崎氏の政界引退後に派閥を受け継いだ。

石原派は今回の衆院選で石原氏自身の落選などで7人の小所帯に転落し、消滅の危機に陥っている。大宏池会を結成して清和会に対抗することを目論む麻生氏や岸田氏が石原派の存続に手を貸し、そのうえで「大宏池会」に引き込むことを画策するのは、十分に想定されることなのである。

だとすれば、今回の人事は岸田首相による内閣の公職の「政局利用」であり「権力私物化」というほかない。安倍政権が繰り返した「官邸権力の私物化」と同じようなことを、岸田首相も実行していることになる。

岸田首相は「丁寧な説明」を掲げて首相の座をつかんだ。石原氏を内閣官房参与に起用した本当の理由を率直に説明すべきである。

マスコミ各社は「石原氏の力を貸してもらいたい」という通り一遍の説明を鵜呑みにせず、「混乱」「遺憾」といった形式的な謝罪で幕引きすることを許さず、なぜ石原氏を起用したのか、岸田首相に対して厳しく説明責任を迫るべきである。